編集者の自腹ワンコイン広告

なぜこの学校の生徒たちは生き生きしているのか?――『東大よりも世界に近い学校』

版元の編集者の皆様2023年3月16日
作者: 日野田 直彦
出版社: TAC出版
発売日: 2023/2/18
  • Amazon
  • Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

「こんなんじゃ売れない。全然ダメ」

初校になるかならいかというタイミングの原稿とタイトル案を見て、ある人はこう言った。

これは誰のための本なのか。知名度のない人がつけるタイトルとしては説得力がないのではないか。そんな趣旨だった――。

本書は、大阪の箕面高校で劇的な海外進学実績をあげ、現在は千代田国際中学校の校長として活躍する日野田直彦さんが、これまでの取り組みを紹介しながら、学校教育の限界を指摘し、自分の意思で行動する指針を見つけ、世界に飛び出すための方法、つまり「本当に学校で身につけるべきこと」をまとめたものである。

さて、「校長先生」と聞いてどういう人を思い浮かべるだろうか。「話が長くて、面白くもない話をする人」「名誉職の怖い人」だろうか。職員室や校長室は好んで行くような場所ではなく、かく言う自分もその一人だった。

だが、日野田さんは誰ともフラットに接し、校長室には人が絶えず、生徒からは「なおさん」と呼ばれる。

日野田さんはときに冗談とも本気ともつかないことを言う。

タイトルを考える時も「英語でいいタイトル思いついたんですよ。『エクソダス』ってどうですか」「やっぱり瀧本哲史さんの本の続編に位置づけたいから『僕は君たちに武器を配りたいMk-II』って言ったら怒られますよね」など。

ブレストで極端なことを言ったほうが、柔軟な発想が生まれるというのが理由だと思うのだが、真に受けてタイトル案をまとめた私は冒頭のような厳しい指摘を受けたのだった。

教育を扱った本の難しいところは、誰のための本かということ。保護者向けなら「子育て本」、勉強やスキルを身につけるものであれば「勉強本」「ビジネス書」、第三者が取材してまとめれば「ルポ」「ノンフィクション」となる。そして、対象と中身が合わないと白々しくなる。

しかし、日野田さんは親、子ども、先生を区別しない。みんな対等な当事者というスタンス。学校説明会で「うちの学校こんなに真っ赤っ赤でした。ボロボロです。なので、クレームはなしでお願いします。そのかわり提案してくれたら、ぜひ一緒にやりましょう」と言うくらいである。

学校で日野田さんのワークショップを見学したことがあるが、生徒とともに寝っ転がりながらマインドマップを考え、生徒からの提案を受けて柔軟に内容を変える。つねに「自分はどうしたいか」を相手に求める。だから何事もボトムアップ。そして、みんな自分のやるべきことが見つかり、ワクワク、行き行きとしている。

本書に次のような一説がある。

失敗してもいいんです。失敗は次のピボットの糧となります。チャレンジをし、ときに失敗もしながら、自分の人生の舵は自分で握る。自分で決める選択の積み重ねが自己肯定感にもつながり、勇者への道につながるのです。

流行り言葉を使えばそれがオーナーシップであり、自分のやるべきこと、生きる道がパーパスなのだ。

この本は『ミライの授業』『君たちはどう生きるか』などの影響を受けている。とくに『ミライの授業』の著者である故瀧本哲史さんとは親交が深く、日野田さんは瀧本さんのアドバイスを受けて校長先生になったそうだ。

パーパスとオーナーシップの欠如がいまの教育の問題点であり、武器を配ってもその必要性を感じなければ意味はない。だから、みんなで切り開こう。そんな日野田さんの考えが少しでも多くの人に広がってほしい。

ちなみに、冒頭で「全然ダメ」と指摘された大先輩からは完成した書籍にお褒めの言葉をいただいた。ネットでの初速は悪くないが、書店店頭の動きはまだまだ鈍い。瀧本さんの言葉ではないが、ゲリラ戦をやるしかないのである。

浅井啓介(あさい・けいすけ)
TAC出版編集部。検定教科書の世界から足を洗い、資格書や一般書の世界へ。と思いきや、理系資格(文系なのに)から一般書、さらには足を洗ったはずの高校教科書を自分で書くなど、担当するジャンルはとっ散らかるばかり。今回の著者の日野田さんにも「何やってるかわからないけど何でも屋さん」と言われる始末。