マニアックな3冊

「そんなの関係ねーと叫ぶ前に読む3冊」

栗下 直也2012年2月10日

 

自分が関係しているサイトを持ち上げるのも、気恥ずかしいのだが、最近のHONZで紹介されている本は面白いだけでなく何気におしゃれである。直近の3つだけ見ても民藝にピアニストにデザインである。雰囲気がある。私もその流れに続いて、おしゃれ度の向上に寄与したかったのだが、残念ながら締め切り当日になった今、断念した。おしゃれタスキをつなげそうもない。表紙とタイトルのおしゃれ度で目星をつけた『快感回路』(詳しくは2月の今月読む本)という本が、私には全く理解できないのだ。HONZメンバー村上が指摘するように文系馬鹿の私にはハードルが高すぎる。そんなわけで、「おしゃれ路線?」は休止し、HONZの新橋系を自認する私が平々凡々と生きる新橋男子女子たちにおすすめの3冊を送りたい。その名もネーミングの時代遅れ感もまさに新橋な「そんなの関係ねーと叫ぶ前に読む3冊」。あまり深く突っ込まないでほしい。完全なる思いつきである。ただ、一見関係ないやと思う出来事も私やあなたにいつ関係するのかわからないのは事実であり、それへの備えは本を読むことくらいであるのも事実だろう。

 

反社会的勢力 (新書y)

反社会的勢力 (新書y)

  • 作者: 夏原武
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2011/12/06

いきなり「絶対関係を持ちそうもない」という声が飛んできそうだが進行上、無視させてもらう。ごめんなさい。

最近、書店に行くと暴力団関係の書籍をやたらと目にするのは気のせいだろうか。昨年10月に暴力団排除条例が全国で施行されて注目を集めているとはいえ、私のように通勤電車で実話系雑誌をニヤニヤしながら読む人間以外に、こうした類の本に興味を持つ人間がいるのかしらと思っていたのだが、世の中は広い。例えば、昨秋、都内某書店では、この分野で右に並ぶものがいないと見られる溝口敦氏の特設コーナーが設置されていて、やたら賑わっていた。最近も別の某書店では年末に出た『新装改訂版 山口組動乱!!』や新刊の『抗争』が東野圭吾もびっくりの冊数(主観)で平積みされていた。

それもそのはずだ。確かに滅茶苦茶面白いのだ。だが、内容は賛否がわかれるかもしれない。タイトルそのまんまなのである。暴力団排除条例を契機にプッシュされているのだろうが、殺しただの殺されただのは、あまり、われわれの生活とは関係が無いといえばないので、受けつけない人もいるだろう。確かに、「フツーに生活してれば、ヤクザとは一生無縁だからさ。組長を狙ったヒットマンの最期をまじまじと描写されても関係ない」という指摘も聞こえてきそうだ。だが、暴力団排除条例は実は私たちとはそこまで無関係ではないのである。溝口氏は「ガチ」過ぎるのでちょっとという方や入門書としては本書がおススメである。

本書では反社会的勢力とは何かから、事例を挙げながら、一般市民と反社会的勢力の関係がどう変わっていくかを記している。例えば、あなたが酒屋を営んでいてヤクザやヤクザの息のかかっている会社と知っていても割り切って定期的にビールなどをおさめていたとしよう。古いつきあいが残っている地域ならばあり得ない話ではないだろう。これが条例に触れる可能性があるという。あなたはビールを売っているだけだが、それはヤクザがビールを手に入れることにつながり、あなたが利益供与者とみなされかねないというのである。

本書での結論を述べると、条例の施行はヤクザを中心とした反社会的勢力に死を迫るものだという。条例施行後に出所直後の山口組の司忍組長が産経新聞のインタビューに応じていたのも危機感の表れだろう。確かにヤクザが死んでもかまわないという見方もあるだろう。著者も良いヤクザなどいないと指摘する。だが、完全に自由を封殺することで、ヤクザが完全に地下に潜り生態が見えにくくなるのではと懸念する。これは本書だけでなく、条例施行後、複数の識者も指摘している。ヤクザが生息しながらも見えなくなる社会と少しの自由を与えることで、一部の代償はあるものの、コントロールできていた社会。果たしてどちらが住みやすい社会なのだろうか。そんな根本的な疑問を本書は提示している。

同性愛の謎―なぜクラスに一人いるのか (文春新書)

同性愛の謎―なぜクラスに一人いるのか (文春新書)

  • 作者: 竹内久美子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/01

別にあなたがゲイに目ざめる可能性があるといわけではない。私個人としては、あなたが目覚めても良いと思うが。実は私も困惑している。家で一昨日、この本を読んでいたら、タイトルを見た妻が思い悩んだ顔をし始め、数時間後に「そっちもいけるの」と神妙な顔で聞いてきた。昨日、朝飯を食べているときも、夕飯を食べているときも。本と実生活は何の関係も無いのに。何も悪いことしていないのに。「女性と浮気するよりはいいわ」などと言われても、どう答えてよいかわからない。たぶん、「そっちはいけない」だろうし。「ニューハーフならいけるかもな」とでも答えればよかったのだろうか。いまだによくわからないが、確かなのは私自身、同性愛に関心が低かったことだろう。

さて、本書では同性愛者(バイセクシャル含む)は子孫を残す可能性が異性愛者の5分の1程度なのになぜ常に一定の割合が存在するのかという謎に迫っている。最初に書いておくが、この本、同性愛者やら専門家には評判があまりよくないらしい。ネットを叩けばいろいろと批判も出てくる。確かに、やたら文中に「!」が出てくるし、同性愛者の感情を逆なでしかねないのではと危惧される表現も散見される。私にはよくわからないがトンデモ論文ばかり参照しているとの指摘もすくなくないみたいだ。

ただ、性に悩まず平々凡々と生きている異性愛者にとって見れば、同性愛自体が透明な存在である面も否めないだろう。関心を持つ糸口が無ければ、同性愛に対する理解は深まらないのが現状ではないか。そのような意味では著者の視座は良くも悪くも異性愛者には興味深く、すんなりと入り込める。文章も読みやすく、構成もよく考えている。例えば、第一章第一項は「まずはペニスサイズを測定する」である。定規を持ち出したのは私だけではあるまい。第三項は「今夜一緒に過ごしませんか?」である。それはちょっと困る。「おいおい何が書いてあるんだ」という世界である。正直、1章を読むだけで本書の価格の740円の価値はあると私などは思ってしまう。噴飯ものだと怒る人もいるだろう。ただ、繰り返しになるが、関心を少しでも持たなければ正しい理解もなにもないのではなかろうか。

上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (光文社新書)

上野先生、勝手に死なれちゃ困ります 僕らの介護不安に答えてください (光文社新書)

  • 作者: 上野千鶴子,古市憲寿
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/10/18

上野先生に勝手に死なれてもと全く困らない人も本書のテーマの自分の親の介護や死は切実だろう。そんなの関係ねーとは言ってられないはずだ。強引なのは承知の上での3冊目である。

本書は元東大教授の上野千鶴子と元教え子で、最近、『絶望の国の幸福な若者たち』で話題になった東大院生の古市憲寿の対談本。親の介護問題や死について古市の質問に上野が淡々と答えていく。希望を提示するわけでもなく、希望がないわけでもないところが何とも現実的だ。古市氏の「カイゴってよくわからないっす」「親に頼っちゃまずいっすか」って本音丸出しというか甘いというか見方によっちゃ軟弱なノリが全編を通じて表に出ているのが個人的には興味深い。院生で本を出してそこそこ売れるって言うのは浅田彰や東浩紀のようなイメージだったが時代は変わったのね。それは本の内容とは関係ないけど。