おすすめ本レビュー 西野 智紀
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『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記 こうして私は職業的な「死」を迎えた』げに恐ろしき、出版界の裏事情を綴る真摯な暴露本
本書は、ベストセラー『7つの習慣 最優先事項』の訳で一躍売れっ子翻訳家になった著者が、出版社との様々なトラブルを経て業界に背を向けるまでの顛末を綴った、げに恐ろしきドキュメントだ。驚くことに、名前こそ伏せてあるが、理不尽な目に遭わされた出版社……more
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『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』孤独に死にたくなければ、自分から胸襟を開くほかない
2020年09月08日この著者の本を読むのは初めてではない。なので、怖さはある程度予測できた。それでも、幾度となく背筋が凍る思いがした。この本で語られている現実は、人生の選択において誰もが避けたいと考える結末である。社会からの孤立。家族と無縁で、友達はゼロ。そして……more
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『南極で心臓の音は聞こえるか 生還の保証なし、南極観測隊』逃げ場なしの極寒、懐にジョークを携えて
南極大陸内陸部、人間がいなければどんな生物もいない場所で、風すら吹かない時は、あまりの静寂ゆえに、己の心臓の脈打つ音や、血管を血が流れる音が聞こえてくるという。高校時代、学校に講演に来たOBからその伝説のような話を聞いた瞬間、著者の南極に行く……more
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『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』大志を抱かない生き方は許容されるか?
2020年07月19日本書は、大人たちの「夢を持て」「大志を抱け」という温かなアドバイスが数多の若者たちを苦しめている事実を剔出する一冊である。なんだそりゃ、軟弱すぎる、大袈裟だ、そんなわけない……などと憤る方は多いだろう。だが、大学の事務職員として学生のキャリア……more
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『まどわされない思考 非論理的な社会を批判的思考で生き抜くために』陰謀論や疑似科学のあやしげな論理を見抜く
彼が戦ってきたのは主に疑似科学、反科学、陰謀論だ。マドックス賞の受賞理由も、反HPVワクチン、気候変動否定論、反原子力といった運動の誤りを科学的かつ精力的に指摘したためである。本書は、著者が目撃してきた非合理的な考えにハマらないための論理的な……more
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『夢の正体 夜の旅を科学する』今こそ、夢を楽しむべき時
2020年04月17日本書は、睡眠と夢の研究史をひもとき、我々の夜の旅の意味と効能を考察し、現実の生活も豊かにせんとするポピュラー・サイエンス本である。著者はオックスフォード大学で考古学と人類学を専攻したジャーナリスト。あるとき、発掘調査で訪れたペルーの村で、友人……more
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『探偵の現場』依頼の77%は不倫調査! 奇々怪々な日本の不倫現場ノンフィクション
実際のところ、街角で探偵社のポスターやチラシを見かけたことはあっても、探偵業とはどのような職業でどんな仕事をしているのか、具体的に知っている人は少ないのではないか。本書は、2003年に総合探偵社の株式会社MRを設立し、売り上げ業界日本一を獲得……more
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『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』人生がどうしようもないほど暗くむなしいときに悲観を楽しむ方法論
こんな暗い感情を披瀝したところで会話が盛り上がるはずがなく、賛同が得られるわけでもなし、むしろメソメソうるさい奴だ、望みどおり早く消えればと思われておしまいだ。だから本書を読んだとき、やっとこの始末に負えない思いを打ち明けられる、と晴れやかな……more
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『毒薬の手帖』それはダーティな1920年代アメリカで躍動する鉄人毒物学者二人の泥臭く革新的な功績
たまらなく渋くてカッコいい主人公の紹介から始めたい。表紙の写真左、試験管を持つちょっと神経質そうな男が化学者アレグザンダー・ゲトラー、その隣にいる大柄のヤギひげおじさんが病理学者でありニューヨーク市監察医務局長も務めるチャールズ・ノリスだ。本……more
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『宇宙から帰ってきた日本人』あの名著から36年、宇宙は近くなりにけり
2019年12月12日1983年、知的欲求旺盛なあるジャーナリストが一冊の本を上梓した。それは、米ソが宇宙開発戦争に明け暮れていた時代、母なる地球を離れ、宇宙へと向かった飛行士たちの精神的変化に着目し、幅広い知識をベースに、インタビューイを搾り尽くさんばかりに貪欲……more
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『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』難問と相対する白熱の全記録
2019年11月13日2015年の文系学部廃止報道以降、日本の古典文学研究・教育は縮小の一途をたどっている。この危機に対して、古典(本書では主に古文・漢文を指す)の価値を訴える書物や討論は少なからず世に出てきたが、これらは守る側だけの論理で完結してしまっていたよう……more
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『デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する』膨大な弱いつながりを見つめ直し人間らしく生きる哲学
我々はSNSやソーシャルゲームに備わる巧妙で強い依存性のある仕掛けに心を絡め取られている――というのは、評者が先月レビューしたアダム・オルター『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社)の主張である。記事への反応を見るに、こうしたテクノロジ……more
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『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』誘惑に勝てないのは意志が弱いせいじゃない
スティーブ・ジョブズは自分の子供たちにiPadを使わせていなかった――彼はその影響力をもって世界中に自社のテクノロジーを広める一方で、プライベートでは極端なほどテクノロジーを避ける生活をしていた。デジタルデバイスの危険性を知っていたから。彼だ……more
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暗い好奇心を満たす豪華絢爛の著『犯罪学大図鑑』
そんな中でも、ひときわ暗い好奇心を呼び覚ましてくれるのが、凶悪犯罪だ。事件のあらましから犯人の手口、動機、背景、現場の状況、事件のその後にいたるまで、ありとあらゆることを知りたくなる――良心の呵責を感じながら。 本書『犯罪学大図鑑』は、そう……more
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忘れ去られしカオスな物語群にどっぷり浸かる『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』
もうタイトルからして「なんじゃこりゃ」だが、読み終わっても「なんじゃこりゃ」である。でも面白いんだから書評するより仕方ない。本書(通称・まいボコ)を一言で説明するならば、明治時代、夏目漱石や森鴎外といった純文学作家の作品よりも人気を博した忘れ……more