おすすめ本レビュー 澤畑 塁
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間違いは学習の原動力である 『脳はこうして学ぶ──学習の神経科学と教育の未来』
2021年04月05日わたしたちは多くのことを頭で学ぶ。すなわち、わたしたちの学習はおもに脳が担っている。しからば、脳がいかにして学ぶかを知れば、わたしたちの学習と教育についても重要な示唆が得られるのではないか。本書は、そんな着想を具体的な形にまとめた一書である。……more
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『眠りがもたらす奇怪な出来事──脳と心の深淵に迫る』 夢遊運転病、セクソムニア、非24時間睡眠覚醒症候群
著者のガイ・レシュジナーは、睡眠を専門とする高名な神経科医である。彼が勤務するロンドンの睡眠障害クリニックには、種々の問題を抱えた患者がイギリス中から集まってくる。それらの症例はじつに不可思議で、彼らの経験談はじつに衝撃的だ。その点を鮮やかな……more
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なぜ彼女は逮捕され、自殺してしまったのか 『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ──「よく知らない人」について私たちが知っておくべきこと』
2015年7月、アメリカはテキサス州プレーリー・ビューでの出来事。車を運転していたサンドラ・ブランドという若い女性が、ひとりの警察官から停車を命じられた。彼女が車線変更をする際に方向指示器を出していなかったというのだ。――そう、たったそれだけ……more
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『ステレオタイプの科学』 色眼鏡で見られると本当にできなくなってしまう
2020年05月03日「女性は数字に弱い」「高齢者は記憶力がわるい」「日本人はアフリカ系の人に比べて身体能力で劣っている」。わたしたちはしばしば過度の一般化を行い、特定のステレオタイプをとおして周囲の人を眺めてしまう。そして、そうしたステレオタイプがときとして深刻……more
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『最期の言葉の村へ──消滅危機言語タヤップを話す人々との30年』 言語とともに消え去っていくものたち
「言語はなぜ消滅してしまうのか」。1980年代、当時大学院生だった本書の著者は、その謎を明らかにしたいと切望し、単身で熱帯雨林の奥地に潜り込む。当時、どんな地図にも載っておらず、そこを訪れた白人もほとんどいなかった、湿地の村ガプン。その村では……more
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『反穀物の人類史──国家誕生のディープヒストリー』 農業の優越性という神話、国家の形成をめぐるパラドックス
2020年01月03日かくも行き渡っているそのストーリーに対して、本書は疑問符を突きつける。なるほど、初期の国家はいずれも農業を基盤とするものであった。だが、人類はなにも農業を手にしたから定住を始めたわけではない。また、メソポタミアで最初期の国家が誕生したのは、作……more
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『事実はなぜ人の意見を変えられないのか』 不都合な真実から目を背ける人たち
具体的な数字やデータを示してもダメ。明晰な論理で説いてもムダ。そんなとき、あなたはきっとこう思ってしまうのではないか。「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」。…more
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『恐竜の世界史──負け犬が覇者となり、絶滅するまで』 失われた世界の新たな歴史
2010年代に描かれる恐竜は、かつてわたしたちが見聞きした恐竜とはまるで異なっている。というのも、恐竜にまつわる研究がこの20年ほどで著しく進展し、恐竜のイメージが大きく書き換えられたからだ。驚くなかれ、たとえば新種の恐竜は、平均して週に一度……more
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『「うつ」は炎症で起きる』 「それは体の問題」という新たな視点
若い医師はあるとき、リウマチ性関節炎と診断されていた女性患者がうつ病をも患っていることに気づいた。そのささやかな発見に気をよくした彼は、上機嫌で先輩医師にその旨を伝える。だが、先輩医師から返ってきた反応はきわめて淡白なものであった。「うつ病?……more
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『地球外生命と人類の未来──人新世の宇宙生物学』 地球外文明を探すことでわれわれ自身を救え
2019年01月27日あまりにもぶっ飛んだ発想だと思われるかもしれない。でも同時に、それが示す可能性に胸を踊らせずにはいられないのではないか。なんてたって、地球外文明の痕跡を探すことによって、わたしたち人類が地球温暖化や気候変動を生き抜くための方途を見つけ出そうと……more
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『<効果的な利他主義>宣言!──慈善活動への科学的アプローチ』 どうせよいことをするなら、最高によいことをしよう
近年、欧米の若い人たちの間で、とりわけミレニアル世代の抜群に頭のいい人たちの間で、寄付と慈善活動に関するひとつの運動が盛り上がりをみせている。運動の象徴ともいえるピーター・シンガーだけでなく、スティーブン・ピンカーなどの著名な論者も支持の声を……more
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『10億分の1を乗りこえた少年と科学者たち』 世界初のパーソナルゲノム医療はいかに実現したか
2003年、ヒトゲノムの解読が完了し、科学は歴史的な一歩を踏み出した。それから6年後の2009年、今度は医療において大きな一歩が踏み出される。患者個人のゲノムを解析し、その結果にもとづいて診断・治療を行うという「パーソナルゲノム医療」が産声を……more
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『生存する意識──植物状態の患者と対話する』 グレイ・ゾーンに閉じ込められた意識と、それを発見し、それと意思疎通する科学
植物状態と診断されながらも、じつは意識がある人たち。そうと示すことがまったくできなくても、たしかな認識能力を持ち、どうしようもない孤立感や痛みを感じている人たち。そうした人たちが置かれている状況を想像し、悪夢とも思えるその可能性に身震いしてし……more
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『わたしは不思議の環』 あるいはゲーデルの渦、シンボルのダンス、自己増強する錯覚
ホフスタッターといえば、その前著『ゲーデル、エッシャー、バッハ』があまりにも有名だろう。彼がおよそ40年前に上梓したその処女作は、巧みな比喩とアナロジーで多くの人の知的好奇心を刺激し、世界に広く知られるベストセラーとなった。今回の著書でも比喩……more
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『馬・車輪・言語』 ステップを駆けたライダーたちがこの世界にもたらしたもの
2018年05月30日インド・ヨーロッパ語族の拡散は大航海時代以降に加速している。だがじつは、すでに紀元前400年の時点でも、その語族はアジアやヨーロッパの広い地域に分布していた。ならば、インド・ヨーロッパ語族はどうしてそれほど広い地域にいち早く拡散したのだろうか……more