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HONZの「今週はこれを読め!」

こんにちは。栗下直也です。夏は毎年、メルマガのネタも枯れ気味になります。下手をすると毎週、「酔っぱらって大変でした」になりかねません。そうした状況を避けるため、今週は『情報戦と女性スパイ』という本を買ったこともあり、「なぜゴルゴ13に出てくる女性スパイはみんな魅惑的なのか」について論じる予定でしたが、珍しく鼻息が荒いときに限って、他に書くべきネタが転がり込んできます。

今週、HONZで話題を呼んだのは、内藤順が紹介した『スモール・スタート あえて小さく始めよう』でしょう。詳しくは内藤順のレビューを読んで欲しいのですが、年齢を問わず働く人は必読の一冊です。

で、昨日、そのお祝いの会が開かれました。私は全く知らなかったのですが、昨朝に突然、内藤順から「メルマガチーム、こい!」と、私とメルセデスに召集がかかり、親の死に目にあえなくても、内藤順の言いつけは守る忠犬二人組はキャンキャンいいながら駆けつけました。

とはいえ、「必読の一冊」と書きつつ、昨日の朝の時点で同書を読んでいなかった私は昼間に書店に駆け込み、一気読みし、向かった次第でございます。一気読みさせるってことはそれだけ面白いことの裏返しでしょう。

会自体は著者の水代優さんの人柄を感じさせる楽しい一時でした。会食のお礼のメールかよと突っ込みたくなる月並みな表現ですが、独自開発されたビールがメチャメチャうまくてガブガブ飲んでいて、あまり覚えていないのですが。そもそも「人柄を感じさせる」と書きながら、実は水代さんと2回しか会ったことがなかったりするんですが。でも、たぶん、メチャクチャいい人です。暑さでいつにもまして力が抜けまくっている今週のメルマガです。

それにしても、アラフォーの働き盛りのはずのメルマガ二人組は当日朝に召集かかって、その夜に何の問題もなく酒を飲めるってどんだけヒマなんでしょうか。まあ、ヒマであることもひとつの才能だと思っているんですがさすがに危機感を抱いてしまいます。

さて今週は、もう一本。告知です。HONZ代表の成毛眞が新刊『amazon 世界最先端の戦略がわかる』の発売にあわせて8月10日にイベントを開きます。元マイクロソフト社長の視点から、押さえておくべき「アマゾン」のポイントを解説するとのこと。詳しくはこちらをご覧下さい。

今週もメルマガスタートです。

今週のニュース

『amazon 世界最先端の戦略がわかる』出版記念セミナーのお知らせ

HONZ代表・成毛眞著『amazon 世界最先端の戦略がわかる』の出版を記念して、特別セミナーを行います。元マイクロソフト社長の視点から、押さえておくべき「アマゾン」のポイントを解説。全員に、8月9日発売の最新刊『amazon 世界最先端の戦略がわかる』を差しあげます。 more

 HONZ 編集部

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 内藤 順

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 成毛 眞

今週の「読むカモ!」今週のレビュー予定です(変更されることもあります)


『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?』世界は好きなように生きられるところだということ 編集者の自腹ワンコイン広告

トレバー・ノア 生まれたことが犯罪! ?
作者:トレバー・ノア 翻訳:齋藤慎子
出版社:英治出版
発売日:2018-05-09

どこにでも行けるし、なんでもできる、そんなふうに育ててもらった。
この世界は好きなように生きられるところだということ。自分のために声をあげるべきだということ。自分の意見や思いや決心は尊重されるべきものであること。そう思えるようにしてくれた。 

本の編集をすると、校正で繰り返し同じ内容を読むことになるわけですが、何度読んでもこの部分にはぐっときてしまいます。それはたぶん、世の中そう思えない人がたくさんいるのだろうなと思うし、自分だってそう思えなかったことがあるからです。そして、この著者の言葉とストーリーがあれば、そう思えるようになるかもしれないという希望を感じたからです。

『トレバー・ノア 生まれたことが犯罪!?』は、トレバー・ノアというコメディアンのエッセイ集です。2018年にはグラミー賞のプレゼンターをつとめ、アメリカでは知らない人はいないくらい大人気の彼ですが、本のなかで描かれるのは、コメディアンとしての躍進ではなく、彼が生まれ育った南アフリカでの日々です。

そして、その日々のなかで圧倒的な存在感を放つのが、彼のおかあさん。世界は好きなように生きられる。自分のために声をあげていい。人と違うかもしれない自分の気持ちを尊重していい。彼がそう思えるようにしてくれた人です。しかもそれをアパルトヘイトの真っ只中、黒人としてありとあらゆる権利をはく奪されたなかで。

なにしろ異人種間で性的関係を結ぶことが禁じられていたアパルトヘイト時代、父親が白人だったトレバー・ノアは、タイトルにあるとおり「生まれたことが犯罪」でした。
「好きなように生きられる」どころか、存在自体を隠して生きていかなくてはいけない状況。家は貧しいし、母の再婚相手の義父はDV男だし、学校では同じ属性の人のいない超のつくマイノリティ。

そんなハードな状況で、あるときはガラの悪い運転手に脅されて暴走するバスから飛び降り、あるときは他の部族の言葉を使いこなし(今のコメディアンとしてのモノマネ芸にもつながっている)、生き抜く母子の姿は圧巻です。

彼らの人生の背後には、アパルトヘイトによる差別や偏見、暴力といった暗いものが、常に感じられます。差別されるとはどういうことか。差別をするとはどういうことか。権利を奪われるとはどういうことか。権利を奪うとはどういうことか。そういうことが、浮き彫りにされている本でもあります。

ただ不思議と悲壮感はありません。コメディアンだけあって、5行に1回くらいのペースで、ボケたりつっこんだりしているというのもあるのですが、なによりこの本を読んだあとに浮かぶのは、どこかきらきらした情景なのです。

おかあさんと行ったピクニックで食べた安い黒パンのサンドイッチ、いたずらに一喜一憂するおばあちゃん、スラムの友人と仕掛けたDJパーティー、無口な父との再会の時間、恋した女の子との別れ際。辛いはずの病室の場面でさえ、光が射しているかんじがします。

それはトレバー・ノアとおかあさんが、そういうふうに世界を見ていたからなのだと思います。「体制に歯向かうな、からかえ」。どんな状況でも、二人は筋の通らないルールを笑い飛ばして、一緒に抜け道を見つけていた。お互いを笑わせあって、お互いの世界に光をあてていた。この二人の生き方は、アパルトヘイト下の南アフリカでなくたって、いまの日本を生きるうえでも、ヒントになるのではないかと感じます。

今の出版の仕事につく前、少し海外で働いていたことがありました。海外の日本人コミュニティというのはとても狭くて、広い世界に出たつもりだったのに、出てみた世界はとても狭かった。東京で暮らしていたときには、避けていたような人やことと向き合わざるをえなかったし、かといってここでくじけて帰ったら、もう生きていけないような気もしていました。

そんなときに、悶々と悩む日々から私をひょいとひっぱりあげてくれた、二つの言葉があります。ひとつは、仕事で一緒になったとても偉い人の言葉。
「楽しくないなら、やめちゃえばいいんだよ。ここじゃなくたって、世界はいっぱいあるから。僕はこのとおり好きなことしかしてないから、健康そのものだよ」

もうひとつは、現地の同僚がかけてくれた言葉。
「きみは自分のために声をあげるべきだよ。僕らの宗教では、理不尽なことをされていると感じた人自身も、声をあげる義務があるんだよ」

とても個人的な話ですが、冒頭に挙げた箇所にぐっとくるのは、彼らの言葉に背中をおされたときの自分を思い出すからなのかもしれません。

でもこういう個人的な話は多くの人が持っている気がしていて、今いる世界以外のところがあることを想像できなくなったり、自分のために声をあげることを思いつけなくなったりしたときに、この本が「どこにでも行けるし、なんでもできる」、そう思えるきっかけになるといいなと考えています。

安村 侑希子  英治出版プロデューサー。コンサルタントを経て現職。
これまで担当した本は、『なぜこの人はわかってくれないのか』『アフリカ 希望の大陸』『夢とスランプを乗りこなせ』など。

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