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こんにちは。栗下直也です。今回はボクシングとサッカーに興味がない人は、食指がぴくりとも動かない内容ですので前文をすっ飛ばしてください。あまりにも俗っぽすぎて「こいつ、何言っているんだ」と不快になるかもしれません、と書きながらもいつも俗っぽいので、ことわりは要らないかとも感じているのですが。
先週末は、スポーツ動画配信サービスにかじりついていました。お目当てはボクシングです。デビュー以来無敗のボクシング元5階級王者のフロイド・メイウェザー・ジュニアに、総合格闘技UFCの王者ではあるもののボクシングはこれがデビュー戦のコナー・マクレガーが挑む異色対決です。
世紀の一戦なのか凡戦なのかわかりませんが世界が注目するカード。業界外の著名人も戦前に勝敗予想していましたが、ボクシングルールと言うこともあり、メイウェザー勝利との見方が大半。そこに敢然と異論を唱えたのがサッカー界の「ならず者」ズラタン・イブラヒモビッチです。マクレガーが勝つと言い放ち、「彼は格闘技界のイブラヒモビッチであり、オレはサッカー界のマクレガーだ」とインタビューに応じたとか。勝敗予想のはずがちゃっかり「俺様」アピールとは流石です。
まあ、この程度はズラタンにとってみれば朝飯前の発言です。サッカー界での「ならず者」は歴史を振り返れば、枚挙にいとまがありませんが、現役の超一流選手選手で思い浮かぶのは彼しかいないでしょう。
そんなズラタン節を堪能できるのが、『I AM ZLATAN ズラタン・イブラヒモビッチ自伝』(東邦出版)。目次を眺めるだけで不穏な空気が漂いまくりなんです。
「マフィアだって?いいじゃないか。上等じゃないか。会わせてくれよ」、「朝はパンツ一丁でコーンフレークを食べるのが俺流だ」。ワールドクラスのアウトローはコーンフレークの食べ方にまでこだわりをみせるようです。ってか、いちいち見出しが長いのは気のせいでしょうか。
生い立ちは壮絶。スウェーデンの移民街育ち。親父は飲んだくれで母親とけんかが絶えず、姉はドラッグ中毒。本人も自転車盗みなど非行に明け暮れます。家庭や世間への怒りをサッカーにぶつけるが、素行が悪い上、コーチの言うことを聞かないため、チーム関係者から除名の嘆願書が集められる始末。
行き着く先は、刑務所かプロサッカー選手か。二択の人生を送りながら、夢を叶えるが巨額マネーが動く移籍ビジネスでも俺様ならぬ王様ぶりは変わらず。欧州のビッグクラブの権力者相手にも一歩も引かない姿勢は爽快です。
夏バテにもってこいの一冊です。と無理矢理ながら本の紹介でまとめて、今週もメルマガスタートです。
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本書は、19か国で刊行され日本でも大きな反響を呼んだ『ぼくはお金を使わずに生きることにした』の著者による第二作 The Moneyless Manifesto の全訳です。第二作の『無銭経済宣言』は、カネなし実験の後日談ではありません。〈グ… more
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もし、子育ての成功を定義できるのであれば、成功への道があるのならば、それを知りたいと思う人はたくさんいるはずだ。そして本書は、子育てにおいて、科学でわかっていることは何か、何を成功として定義して、その成功のために何をすればいいのか、を学習科… more
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『江』「新撰組」「太平記」等々。なつかし時代劇なら「鬼平」「鞍馬天狗」「子連れ狼」…。若い人にも人気を博した「JIN-仁-」「陰陽師」。そのほか数多くのドラマや映画が俎上に載せられ、時代考証を担った学者や製作者、それぞれの立場の苦労や思いを… more
麻木 久仁子 |
私はいま38歳。ちょうど私が産まれたときの、父親の年齢になった。私が物心ついたときには、すでに父は膠原病にかかっていた。膠原病はタチの悪い病気で、いわゆる難病である。父の場合は、手足の血流が悪くなり、すべての指が大きくソーセージのように丸くふくれ、関節はこわばり、すべての爪と指のあいだには潰瘍ができていた。
指先を常に深く怪我している状態だから、何をするにも痛みが走る。そのため、指先を保護する布製の指サックが欠かせず、いつも家には何本もの指サックが干されていた。夕方になると、父が「六一〇ハップ」を洗面器に貯めた湯に溶かして、指を浸けた。「六一〇ハップ」とは、硫黄分を多く含んだ入浴剤の一種である。危ないから絶対に触っちゃいけないと言われていたその入浴剤の容器の周りにこびりついた白い粉、湯に溶かしたときに部屋全体に広がる硫黄の独特の臭いは、数少ない幼少期の記憶のひとつである。
2016年夏、本書『OPTION B――逆境、レジリエンス、そして喜び』の企画書と「はじめに」が届いた。読んですぐ、私はどうしてもこの本の日本語版が作りたくなった。
それは、この本を、治る見込みのない病に苦しんでいた父にも読ませたかったし、ずっと父が死ぬことを恐れていた幼少期の私にも与えたかったし、入退院を繰り返した父がついに亡くなった直後の母や家族に読んでほしかったからである。残念ながらタイムマシンに乗って、過去の自分に渡すことはできない。だが今後、同じような苦難に直面する人たちに、この本を届けたかった。これは一種の使命だと感じた。
「人生は、オプションBの連続」だ。最良の選択肢(オプションA)が叶わないときは、次善の選択肢(オプションB)に向き合っていかなければならない。望んで難病にかかる人なんていない。だが、ときに人生は避けられない試練と苦難を「オプションB」として与える。
本書の著者でフェイスブックCOO、『LEAN IN』著者のシェリル・サンドバーグは、友人の50歳の誕生日を祝うために、メキシコに夫婦ふたりで向かった。
だがその休暇先のホテルで、夫が急に不整脈を起こして亡くなってしまう。幼子2人を抱えた彼女は、いかにして立ち直っていったのか? 本書はその回復の過程を、前作の『LEAN IN』同様に率直に語った、感動の物語である。随所には友人の著名心理学者アダム・グラントから学んだ立ち直る力、「レジリエンス」をどうやって高めていくかについての知識がちりばめられている。
「はじめに」には、こんな文章がある。
こうして残りの人生が始まった。自分で選ぶはずもなく、覚悟もまったくできていなかた人生。いまも覚悟などできていない。想像もできないことが続いた。子どもたちに、パパが死んでしまったのと告げた。2人の泣き叫ぶ声に、自分の慟哭が重なるのを聞いた。
なんでもないできごとが、悲しみの引き金を引いた。学校の作品展で、娘が8カ月前の新学期の日に書いた作文を見せてくれた。「2年生になったよ。これから何が起こるかな」。これを書いたとき、まさか2年生が終わる前にパパがいなくなるだなんて、娘も私も夢にも思っていなかったのだと気づき、頭を鉄球で殴られたような衝撃を受けた。まだ2年生よ。私の手のなかの小さな手と、私が作文を気に入ったかどうか確かめようと見上げてくる愛らしい顔を見下ろした。よろめいて転びそうになり、つまずいたふりをしてごまかした。2人で教室をまわりながら、ずっと下を向いていた。ほかの親たちと目が合った瞬間、泣き崩れてしまいそうだったから。
私はこの「はじめに」を読んだとき、遺された子どもたちの気持ちになって読んだ。そして胸が締め付けられ、鼻がツーンと痛くなった。
「男が泣いていいのは、産まれたときと、親が死んだときと、自分が死ぬときの3回だけだ」とよく父は言った。だから私はこの本で泣いたとは言わない。ただただ、鼻がツーンと痛くなった。この本の説明をするときは、どうしても、ずっと下を向いてしまう。
この原稿を読んでくださっているみなさんもきっと、バラ色ばかりの人生ではないと思う。どこかで人生の挫折や苦難、愛する人の死を経験していると思う。まだもしそこから回復できていないと感じるなら、またもし苦しんでいる誰かが周りにいるなら、ぜひこの本を読んでほしいと思う。「たとえ人生の濁流にのみ込まれても、水底を蹴って水面に顔を出し、もう一度息をつくことはできる」。本書は、そう教えてくれる。
本書の内容の一部はこちらでも読めます。
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