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HONZの「今週はこれを読め!」

こんにちは。先日、レビューを書こうと『やまとなでしこの性愛史』(和田好子、ミネルヴァ書房)を再読しておりました。「女性活躍を推進する現代日本を理解する上では女性の性愛を知ることは欠かせません」とは思うわけもなく、「何だかエロそう」と不純な動機で買った本でございます。正直、全くエロくないのですが、日本の家族制度を考える上では、興味深い一冊です。

著者は85歳(もしくは84歳)の女性。女学生時代に自由な恋愛を禁じられる一方、授業で習う古典の世界は性に奔放ではないかと調べ始めたのが男女関係のあり方に関心をもったきっかけとか。歴史を遡って膨大な資料を読み解いているのですが、やはり自由な恋愛を禁じられた怨念でしょうか。さかのぼります。ひたすらさかのぼります。第一章が古事記から始まります。まさかこんなところでイザナキとイザナミに出会うとはと呆然としてしまいますが、現代まで戻ってきますので御心配なく。

詳細は省きますが、本書を読むことで伝統とおもわれているものは幻想に過ぎないことを再認識します。同時に昔の多夫多妻制や自由な性愛関係を支えた背景には、工業化社会以前の女性が布の織り手や商いの働き手として経済を担っていたことがあるとの指摘も興味深いです。85歳の著者は女性が再び経済力を持った今、現代の日本の結婚制度に疑問を投げかけます。

そのような話を先週末に飲み屋で友人に話したところ、「ばかやろうー、我が家は専業主婦で稼ぎゼロだけど家庭は崩壊寸前だ」と嘆かれ、それは全く違う話なんだけどと何度説いても聞く耳を持ってもらえませんでした。「酔っ払いって、迷惑だな」と病み上がりのため珍しくシラフの私は思ったのでございました。話は大きくそれましたが、今週もメルマガスタートです。

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今週の「読むカモ!」今週のレビュー予定です(変更されることもあります)


『世界を戦争に導くグローバリズム』 編集者の自腹ワンコイン広告

世界を戦争に導くグローバリズム (集英社新書)
作者:中野 剛志
出版社:集英社
発売日:2014-09-17

 HONZ読者の皆様、こんにちは。本書は、ベストセラー『 TPP亡国論 』の 中野剛志 氏(元京都大学准教授)による渾身の新刊です。

担当編集者として、どんな本なのか、手短にご紹介させていただきます。本書は、アメリカ衰退後の「グローバル覇権国家なき時代」の見取り図を示し、その混乱と悲劇を予見する衝撃の書、であります。第二次世界大戦前の危機に匹敵する時代が到来したと氏は喝破。ある新聞は「 恐ろしいタイトルの本が出た 」と本書を紹介しましたが、本当に怖いのは、本書が、古典から最新の理論まで国際政治経済学の文献を検証しながら、「戦争がなぜ起きるか」という原理を徹底的に論理的につきつめた結果だからです。怖い、そして、とにかく、この本は凄い。

実際、刊行早々に外交の専門家が本書を高く評価してくださいました。あの佐藤優先生(作家・元外務省主任分析官)です。佐藤優先生が精通なさってい るロシア・ウクライナの紛争をめぐる記述について「日本人が書いたもののなかで、最も正確だ」と賛同してくださり、「日本人が知性を鍛えるには、こうした 優れた本を読まねばならない」とまで、講演会でおっしゃってくださいました。その佐藤優先生の評のなかで、とても気になる言葉がありました。

「中野剛志氏の強靭な思考力」――。

なぜ気になるのかと言えば、中野氏の著作の編集を担当させていただくたび、氏の思考の速度と深さに圧倒されるばかりだからです。たとえば、『TPP 亡国論』。クリスマス前日に執筆を依頼したところ、お正月明けに完璧な原稿が届いていました。その間、わずか10日です。今回の新刊『世界を戦争に導くグ ローバリズム』の執筆中には氏の指定する資料をお届けしていましたが、その量たるや膨大で、毎週およそ100~200ページ。しかもすべて英語文献。専業 作家ではありませんから、週末だけで読みこなしているのです。

「強靭な思考力」の要は、もちろん、読む速さ、書く速さではありません。中野氏の議論はいつも緻密で、それにもとづく予見は「当たる」のです。対談集『 グローバル恐慌の真相 』(集英社新書)は3年前に刊行した新書ですが、振り返ってみても、氏の予見にまったく「はずれ」がありません。常に「読み」が深い。ビジネスマンから見ても、氏の議論の緻密さ、読みの深さは学ぶところは大きい。

氏の一割の「思考力」でも良いので、身につけることはできないか。そうすれば、職業人として、もう少し楽に仕事できるのではないか。そんな邪な気持 ちや無駄な嫉妬もわいてきます。実際、職業人としての氏の仕事ぶりも凄いのです。雑誌「AERA」の「現代の肖像」というルポルタージュに「官僚・中野剛 志」の横顔を描くエピソードが出てきます。2008年前半の原油価格暴騰の折、経済産業省の上司が中野氏に日本の産業構造への影響をまとめるレポートを提 出せよ、と求めると……。数時間後に、氏はなにくわぬ顔で精緻なレポートを手渡したというのです。聞けば、すでにこうした事態の到来を予想しており、事前 に書きあげていた、と。ああ、なんと恰好よい仕事ぶり。

そんな仕事は一生、出来ないとしても、「強靭な思考力」がいかに培われるものなのか、知っておきたい。そのため再読しているのが、氏のいわば「思考の技術」論である『 考えるヒントで考える 』 (幻戯書房)です。たとえば、今日、ご紹介している新刊『世界を戦争に導くグローバリズム』は、カウンター・アーギュメントを積み重ねる形で緻密な議論が 展開していきますが、そうした「知の技法」を氏が博士号取得のための英国留学時代に叩き込まれたことが分かります。そうした学問的な知の技法だけでなく、 同じく知の営みである政治についても一章、設けられているのですが、その政治論のなかにこんな一節があって、はっとさせられます。

「ソクラテスの闘い方は、議論の前提を突き、それを問いただすというものであった。大衆の意見の前提とは世論である。自分の意見だと思っていたものの前提には、根拠不明な世論や風潮がある。そこを崩すのが、ソクラテスの戦法だった。」

本書『世界を戦争に導くグローバリズム』での、中野氏の闘い方はまさにこの「ソクラテスの戦法」だったのです。

本書で突き崩される「世論」とは、このふたつです。
① アメリカに追従することが日本の外交と安全保障にとって唯一の現実策だと考える(一部の)保守系の世論
② グローバル化によって各国が経済的に相互依存していけば、世界全体が繁栄し平和になると考えるリベラルな世論

この国の外交・安全保障政策も経済政策も、①と②が大前提になっていますが、どちらの大前提も間違っているがゆえに、日本が危うい方向に向かってい る、と中野氏は警鐘を鳴らします。そして、この前提が「なぜ」間違っていると言えるのか、異論を抱く方も多いでしょう。さらに、その結果、「なぜ」日本を 取り巻く世界が、第二次世界大戦直前まで危なくなっていると言い切れるのか。それに納得いただくには新書一冊分の紙数が必要です。

どうか、中野氏の「強靭な思考力」による闘いである本書を、堪能していただければ……。異論のある方々も、この小さな新書を手にとって、中野氏の議論に対して「知的な闘い」を挑んでいただけることを願っています。

服部 祐佳 集英社新書編集部
担当した中野剛志氏の著作は、本書と『TPP亡国論』のほか、共著の『グローバル恐慌の真相』『TPP黒い条約』(以上、すべて集英社新書)

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