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HONZの「今週はこれを読め!」

こんにちは。栗下直也です。改めて、明智十兵衛になりたい。よくわからない人は前号のメルマガをご覧ください。

さて、明智といえば本能寺の変です。そして、「三日天下」で知られるように、信長を討って天下人になったものの、中国地方の毛利攻めをしていた秀吉が鬼のような速さで駆けつけ、わずか13日の治世で秀吉に倒されたことで知られていますね。

寝ても覚めても、明智十兵衛になりたい私はググるだけにとどまらず、読んだわけですよ。『秀吉はいつ知ったか』(ちくま文庫)。

戦後のエンターテイメント・ノベルの巨匠である山田風太郎のエッセイ集です。「山田さん、そりゃないんじゃない」のという奇想天外の発想もありますが、表題になっている「秀吉はいち知ったか」、すなわち秀吉がいつ信長の死を知ったか、というテーマは興味深いです。定説とは異なり、秀吉は独自に謀殺を予見する手段が、あるいは仕かけがあったのではないかと著者は推測します。まあ、これまで幾度もいわれてきた話ではありますが、説得力があります。

信長が京で死んでから36時間あまりで秀吉は200キロ以上離れた岡山の地で信長の死を知ります。当然、電話もメールもない時代です。これ単純計算すると時速約6キロです。悪路の山陽道、駅伝の制もないころだから、馬もろくにつかえない状況でその速さで歩けないっしょって山田さんは突っ込むわけです。

山田さんによるとノンストップ徒歩の世界記録は1967年にイギリス陸軍衛生兵マイケル・ジェフリーが44時間歩き続けてつくった251.2キロらしいです。これ、だいたい時速6キロです。条件がはるかに悪い当時の日本で、20世紀の世界記録に近い速度で京都から岡山までかけ続けるのってちょっとヤバいでしょという展開になります。光秀の謀反がなくても歴史が信長中心に進んでいたら、秀吉は信長を殺したのではないかというのが著者の疑念です。気になる人はぜひ、よんでみてください。

とにもかくにも、明智十兵衛になりたい。

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