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HONZの「今週はこれを読め!」

こんにちは。先日、総合格闘家の山本”KID”徳郁さんが41歳の若さで亡くなりました。2000年代の格闘技ブームを支えたひとりとして、格闘技に詳しくない私ですらテレビのモニター越しに強烈な印象を受けた記憶があります。

日本での総合格闘技がどこから始まったかにはいくつかの見方があると思いますが、佐山サトルがひとつの起点であるとの指摘に異論はないでしょう。7月末に出た『真説・佐山サトル タイガーマスクと呼ばれた男』を読んで再認識しました。「てか、佐山サトルって誰だよ」って突っ込まれそうですが、初代タイガーマスクをリング上で演じたプロレスラーであり、格闘家です。今からは想像できませんが80年代、ゴールデンタイムにプロレスがテレビで放映され、子ども達はくぎづけでした。そこでアントニオ猪木と人気を二分したドル箱スターがタイガーマスク。漫画のタイガーマスクの如くリングの上で驚異的な運動能力を発揮し、軽やかに舞う姿は今見ても衝撃です。

ちびっこに絶大な人気を誇ったタイガーマスクですが同書によると、佐山自身は全くやる気もなかったし、人気が出ても大して嬉しくなかったとか。すべては総合格闘技をやるための猪木との取引だったのですが、佐山の思いとは別に格闘家への夢は周りは許してくれず、ある決断をします。500頁を超える大著ですが、プロレスラー佐山、格闘家佐山、経営者としての佐山(これはめっちゃ才能が無いw)の三面が見えて、格闘技もプロレスも大して好きでない私も一気読みしてしまいました。

ちなみに、同書では触れていませんが、佐山サトルは大酒飲みで元キックボクサーの藤原敏男と呑んでいると誰も近寄らないらしいです。別にこれがいいたかったわけではありませんが、いわずにはいられませんでした。

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今週の「読むカモ!」今週のレビュー予定です(変更されることもあります)


物語としての旧約聖書 編集者の自腹ワンコイン広告

 「天地創造」、「エデンの園」、「カインとアベル」、「大洪水」伝承、「モーセと出エジプト」、預言者と預言の数々……。旧約聖書について断片的なエピソードを知ってはいる、あるいは、それが旧約聖書の記述にもとづくものだということを特に意識せずにたとえ話などとして用いている、ということは、旧約聖書にその源のある一神教の信者の方でなくとも、少なからずあるのではないでしょうか。

初学者も旧約聖書に触れられる

旧約聖書について、体系的でありながら、だけど初学者も頑張れば読めるという概説書はこれまであるようで、なかなかなかったと思います。聖書に親しんだ経験のある人と、そうでない人の(実は私はこちらになりますが)双方に向けてわかりやすく伝えるということが、相当に難しいからでしょう。

今回、NHKラジオ「宗教の時間」のガイドブックで、上智大学特任教授で古代オリエント博物館館長でもある月本昭男さんが、その難事業に取り組み、A5判の上下巻合計350頁近くの本(と1年間12回合計6時間の放送)で、私たちを旧約聖書の世界へと導きます。月本さんは、旧約聖書学・古代オリエント史学・聖書考古学・宗教史学の泰斗で、『ギルガメシュ叙事詩』(岩波書店)の翻訳をされたことでもご存知の方は多いでしょう。

その著者が、旧約聖書の世界について、「神話」という物語から、その歴史や記されていることを解説するにあたって提示した補助線は、次の文章に示されています。

当時の古代オリエントの強大国に翻弄され続けた弱小の民が残した旧約聖書は(略)その後の宗教の歴史にはかりしれない影響をおよぼすことになりました。それは人類宗教史に生起した一大逆説と呼びうるような現象です。旧約聖書には宗教を形成する力が秘められている、ということでしょうか。(中略)ヘブライ語で伝わる旧約聖書にもとづいて、古代西アジア文明地の一隅に歴史を刻んだイスラエルの民がこの書物に畳み込んだ思想と信仰の特色を探ってゆきます。それによって、人類の宗教史にはかりしれない影響をおよぼしえた旧約聖書の秘密の一端が、また旧約聖書のもつ今日的意義の一端が明らかになるでしょう。(『 物語としての旧約聖書(上) 人間とは何か 』「はじめに」より)

預言者の“発信”に考える

先日発売された『 物語としての旧約聖書(下) いかに生きるか 』の白眉は、預言者たちの群像とその預言の言葉の数々だと、編集に携わりながらも一読者として、私は見ています。預言者たちの置かれた状況や、そこで発せられる言葉、そしてなぜその言葉や事蹟が今に伝わる形で遺されたのか。良質なミステリを読むような、あるいは珠玉のコラムを読むような気持ちで、原稿を受け取るたび、ワクワクしながら続きを待っていたのです。

そのワクワクを事細かに紹介することは叶わないので、ぜひ読んでいただきたいのですが、私が最も感銘を受け、居ずまいを正さねばという思いを抱いたところを一箇所、引用しておきます。

…混迷と混乱の時代の預言者エレミヤが、じつは、人間の内面にまなざしを向けていた、ということにも短くふれておきましょう。(略)内面に向けられたまなざしは、物事の量でなく、質を見てとります。それゆえ、「大きな者」の大きな罪も、「小さな者」の小さな罪も、彼の目には同列に映りました(エレミヤ書六章13節ほか)。(略)エレミヤは、自分の心だけは清い、などと考えませんでした。彼は民の罪を「われらの罪」と告白しています(同一四章7節ほか)。(略)エレミヤの心には、相矛盾する想いや願いがせめぎ合っていたのです。であればこそ彼は、人々の罪が赦され、律法が心に記され、一人ひとりが心において神と結ばれる「新しい契約」の時代の到来に望みを託したのでしょう(同三一章31‐34節)。

本書は、今後、旧約聖書に触れたいと思う信仰的あるいは知的な関心を向ける人が、さいしょに繙くものになるのではないかとひそかに期待しています。ぜひ上下巻ともにご通読いただき、ラジオ放送も聴いていただければと思います。

本文のみならず、下段の注釈のなかに、あるいはラジオの放送の中に、淡々としかし鋭く、月本さんが示す、「今日的意義」を感じ取っていただけたら幸いです。

人類はいつ、なぜ、どのように、目に見えない世界にまなざしを向けるようになったのか。答えは実証研究を超えた、人類という山の彼方に沈んでいる。(月本昭男・編『 宗教の誕生 宗教の起源・古代の宗教 』山川出版社「宗教の世界史1」序章より)

月本さんがお書きになった上記の文を締め括りとする序章の意味は、1年前には「わかったようなわからないような」というどこか上滑りするような心持だったのですが、いまようやく、「山」の存在がおぼろげに意識できるようになりました――それも錯覚、とんでもない誤解なのかもしれませんが。こういう「ようやく何かわかったような気になれた」ところで本が完成してしまうというのも、「編集者あるある」でしょうか。

博覧強記×碩学無双!

さて、この「人類という山」の積み重ねてきた歴史について、少しでも感じられる機会が作れないかと思い、今回、月本昭男さんと、HONZ客員レビュアーでもあるおなじみ出口治明さんに公開対談をしていただけることになりました。題して、 「博覧強記×碩学無双! “歴史と神話の交差点”を語り明かす夜」 。10月14日(日)19時~、下北沢の「本屋B&B」にて行います。こちらにもお運びいただければと思います。

NHK出版 髙原敦



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