>> 正常に表示されない場合はこちらから

HONZの「今週はこれを読め!」

一昔前に、「悪そうな奴はだいたい友達」って詞がもりこまれた曲が流行っていた頃、繁華街にはダボダボな服を着た眼光が鋭い人がいっぱいいて、「めっちゃ、東京こわい」とうつむきながら歩いていた記憶があります。私、東京の外れの生まれですが六本木など別世界で、学生の頃に六本木に行った回数より香港に行った回数の方が多かったくらいです。
最近は、ダボダボな悪そうな人が少なくなったのか、生活圏が変わっただけなのかわからないのですが、いわゆる「不良」って人をあまりみないんですがどうなんでしょう。そんな関心から手に取ったのが『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー ヤンキーの生活世界を描き出す』です。

昨年末に刊行された本書は大阪府内の公立高校で、〈ヤンチャな〉男子生徒14人を調査しています。学校で彼らと交流し、彼らが中退したり、卒業したりした後の人生も追跡。単なる机上のヤンキー文化論でなく、実際に会って観察したヤンキー論としては珍しい一冊ではないでしょうか。

これが何とも切ないんですよ。14人のうち、無事に卒業できたのが半数以下だったり、家庭の崩壊や経済的な困窮が生々しく語られたり、厳しい環境で生きている様が伝わってきます。

元々、著者の関心は貧困の世代をまたいだ再生産にありましたが、興味深い結論に行き着きます。外見は似たような感じで、メンタリティも同一性を見いだせる〈ヤンチャ〉な子たちですが、中退、卒業後の生活の安定性はかなり異なっていたからです。「そんなの当たり前だろ」と突っ込まれそうですが、その差異は個人的に習得したものが生み出したというよりは、親の代から地域共同体とのつながりがあったかに求められる部分も小さくないとか。確かに、同じように盗んだバイクで走り出していても、隣のおっちゃんと挨拶ひとつしない奴もいれば、居酒屋で一緒に飲んでいる奴もたぶんいますからね。飲んじゃ駄目だけど。

つまり、悪そうな奴はだいたい友達なんですが、意外に一枚岩ではなく、同じ属性に見えて社会的断裂がありまくりなわけです。「結局、生まれかよ」って話になるんですが、下手にセーフティーネットがどうこう小難しい話を読むより、ためになることは間違い無しの一冊です。

今週もメルマガスタートです。

 

最新記事

生産性をあげるための必殺技 ”どんな仕事も「25分+5分」で結果が出る ポモドーロ・テクニック入門”

ポモドーロ・テクニックをご存じだろうか。生産性をあげるための必殺技である。なんら難しいものではない。25分を一単位にして仕事を区切る。ただし、その25分の間は、これをやると決めたテーマに集中する。電話に出たり、メールをチェックしたり、ネットで… more


 仲野 徹

『1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法』

本書の結論は、冒頭に出てくるアルバート・アインシュタインの次の言葉に集約されている。 「あらゆる問題はそれが起こったことと同じ次元で解決することはできない。」 例えば、お金の問題はそれ自体について悩んでも解決することはない。それよ… more


 堀内 勉

本のない原初の図書館から空想上の図書館まで──『図書館巡礼 「限りなき知の館」への招待』

図書館巡礼という名の通り、本書は世界各地の図書館について、本のない時代からボルヘスによって想像されたバベルの図書館のような空想上の図書館まで、幅広く取り扱っていく一冊である。原題は『THE LIBRARY A CATALOGUE OF WON… more


 冬木 糸一

『もっと言ってはいけない』社会でタブー視される残酷な真実を問い直す

著者は日本の言論界でいまだに大きなウエイトを占める環境決定論に対し、最新の科学的エビデンスを基に反論、再考することを促す。さらに現代社会を「知識社会」と定義することで、遺伝と知能がもたらす社会問題を浮き彫りにする。 more


 鰐部 祥平

『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』を買ったのは、どういう人たちなのか?

ビジネス書売場にまた注目の1冊が登場しました。それが『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』です。 3月発売にもかかわらず着々と売上を伸ばし、ランキング順位も上昇中。ベストセラーの仲間入りするのももうすぐで… more


 古幡 瑞穂

『生命科学クライシス─新薬開発の危ない現場』着実に進むために、急がば回れ

本書は「再現性」の問題に焦点を当てながら「科学が正道を踏み外すさまざまなパターン」について迫る1冊だ。生命科学の歩みは決して止まってはいないが、無駄な努力のせいで進展は遅れている。着実な前進のためにはどのような研究のかたちが望ましいのか。背後… more


 峰尾 健一

では、あの犠牲とは何だったのか?『生かされなかった八甲田山の悲劇』

日露戦争を前にした訓練で、厳冬期の青森県八甲田山麓に入った陸軍歩兵第五連隊が遭難。199人もの死者を出した、八甲田山雪中行軍遭難事故。大惨事の教訓は、その後の日本に生かされたのか? それが『八甲田山消された真実』の続編にもあたる本書のテーマで… more


 塩田 春香

今週の「読むカモ!」今週のレビュー予定です(変更されることもあります)


送信専用メールアドレスから配信されています。
このメールにご返信いただいても内容の確認・回答はできません。
お問い合わせ、ご不明な点は info@honz.jpまでご連絡ください。配信解除はこちらからお願いいたします。

ノンフィクションはこれを読め!https://honz.jp/
Copyright © HONZ All Rights Reserved.