
刀根 明日香
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『白い土地』原発被災地で生活する人々のルポタージュ
本書『白い土地』は、新聞記者である著者が福島県に拠点を置き、そこに生き抜く人々に焦点をあてた人物ルポタージュである。「白い土地」とは、《白地》と呼ばれる「帰還困難区域」の中でも「特定復興再生拠点区域」に含まれない土地を指す。2017年、政府は……more
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『ロレンスになれなかった男 空手でアラブを制した岡本秀樹の生涯』
岡本の人生を辿ることは、当時のアラブ諸国の歴史を辿ることでもある。アラブ全域に絶大な影響力を持つエジプトの大統領、ガマル・アブドル・ナセルの急死(1970年9月)。第4次中東戦争(1973年10月)。レバノン内戦の勃発(1975年)。イラク戦……more
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「おもてなし」の職人さん『配膳さんという仕事』
本書は、1996年に大阪の向陽書房から単行本『京の配膳さん』を大幅加筆したものである。もともとは、1988年1月から1990年3月にかけて雑誌に連載していた記事を原稿にした。取材開始からは実に30年も遡っている。『京の配膳さん』で取材した配膳……more
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『ふくしま原発作業員日誌』原発作業員が安心して働ける社会を目指して
本書は東京新聞で連載されている「ふくしま原発作業員日誌」(2011年8月〜2019年10月)に大幅に加筆を加え書籍化したものである。作業員の人柄や日常の様子が生き生きと伝わるように、「日誌」という形にこだわった。そして、「日誌」と交差するよう……more
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時系列に沿った「因果の物語」が通じなくなった世の中で生まれた新しい哲学『時間とテクノロジー』
2020年01月17日過去と現在の境目がなくなったとき、私たちには何が起こるのか。著者は”「因果の物語」の終焉”と表しているが、その次に来る「物語」とは何だろう。本書の帯には、「目的もゴールもない現代に、人間はどう生きていくべきか」とある。流行りのような、この問い……more
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著者インタビュー『哲学と宗教全史』出口治明氏
2019年10月29日私は出口さんと話してみたかった。『哲学と宗教全史』は私を1段も2段も高みに上げてくれた(ような気がした)。出口さん、この本どうやって作ったのですか? どうやったら出口さんみたいな人間が出来上がるのですか!?…more
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『タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ』
著者の小林宙(そら)くんは、15歳でタネの会社を起業した。会社の名前は、「鶴頸(かくけい)種苗流通プロモーション」。会社のホームページの事業説明を読んでみると、「1つは伝統野菜を主とするタネと苗の販売、もう1つは農薬と化学肥料不使用の野菜(伝……more
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『哲学と宗教全史』読み終えたとき、旅がはじまる
本書では、どのような人物がどんな宗教や哲学を生み出してきたのかを歴史の流れの中で学ぶことができる。今までの歴史本よりも人物にスポットライトが当たっているのだ。例えば、ヨーロッパでプラトンやアリストテレスが建てた大学がローマ皇帝によって閉鎖され……more
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『サカナ・レッスン』魚を捌いて市場に出向いて、日本の魚文化を体験しよう
2019年07月17日本書は、前著『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』で日本で熱烈な支持を受けたキャスリーン・フリン氏の日本訪問記だ。築地で、料理教室で、日本の台所で、あらゆる魚文化を体験する。寿司を食べ、イシガキガイの踊り食いに挑戦し、命を落としそうになる……more
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二度と帰らない 昭和ノスタルジー『夜間飛行』
「ビートルズがタラップを降りて来た翌年には、青白い顔にソバカスを散らしたツイッギーがやって来た。」時は昭和40年、女性の色気ある仕草やお客との目配せ、弾む会話に香水の香りなどとともに東京銀座の華々しい世界観を本書は詳細に描き出し、読者はまるで……more
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『フェルメール』写真家・植本一子のフェルメール「全点踏破」の旅
2018年12月17日このように、あなたが実際に旅に出たような錯覚に陥るのは、植本一子さんの文章が、美術館に流れる空気の流れと、彼女の繊細に揺れ動く心を緻密に描き出しているからだ。植本一子さんも、あらかじめ予習をすることなく、この旅に挑むこととなった。美術館に入る……more
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行きずりの人々と心を通わす『辺境の路地へ』
2018年09月17日本書は、著者の上原善広が北は北海道から、南は沖縄まで、全国の「路地」を旅したルポタージュをまとめたものである。昔の事件、事故、怪談話、非合法な商売、町からなくなってしまった馴染みのお店など、全部で15章だ。「何か」を頭の片隅に仕舞い込むように……more
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『軌道 福知山脱線事故 JR西日本を変えた闘い』
2018年05月21日福知山線脱線事故 ー 2005年4月25日、JR西日本の宝塚駅発の電車がカーブを走行中に脱線、107名の死者と592名の負傷者を出した巨大惨事である。加害企業の発表によると、事故原因は「運転手の不注意とブレーキ遅れ」。つまり、107名の命を奪……more
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生きていると出会う景色がある『野生のベリージャム』
本書は、小島聖が都会と大自然を行き来するなかで感じたものを記したものである。バックパックで何日も自然のなかで過ごす旅行記としても面白いのだが、女性らしい丸い雰囲気とマイペースな文章が本書の魅力を引き立てている。初めて出会う自然現象や自然が産ん……more
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『バナの戦争 ツイートで世界を変えた7歳少女の物語』シリア情勢を知る最適な一冊
そして最後に、本書の素晴らしいところは、暗い話ばかりでは決してないということ。希望が日常を眩しく照らす場面こそが、本書の一番の魅力である。例えば、爆撃が酷く、病院が破壊され、食料や水も十分に確保できないなか、3人目の子どもを妊娠していた母は現……more