
麻木 久仁子
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『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』行間に立ち上る、人々の暮らしの息遣い
2021年02月24日本書は、高度経済成長とともに隆盛を極め、やがて衰退していく歴史を100年遡り、戦前の個人間金融が活発だった頃から紐解く。セイフティネットが格段に乏しかった戦前期の日本では、個人間で金の貸し借りをしてしのぐことが多かったが、その多くは親しい間柄……more
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『食べることと出すこと』想像しようという努力、想像できるという傲慢
2020年09月24日本書は、単に「難病患者の苦労話」ではない。当事者として丁寧に事実を積み上げてこそ見えてきた、私たちの社会のあり方への、大事な視点の提示である。 私自身、いままで無自覚に放ってきた言葉の数々について、一旦、立ち止まって考えざるをえないなと感じ……more
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『ファシズムの教室 なぜ集団は暴走するのか』日常に潜む小さなファシズム
2020年06月24日甲南大学文学部の田野大輔教授のファシズム体験学習である。 田野教授が「田野総統」、学生たちは「田野帝国の国民」となって行なわれるロールプレイングを通して、人々がファシズムを受け入れるときどのような感情の動きがあるのかを体験させ、いわば「ファ……more
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『餃子のおんがえし』何でも包んでしまう小宇宙
2020年03月24日生きることは食べること、食べることは生きること。たった一口でも「ああおいしい」と心から感じられたら、人生は捨てたものじゃないのだ。時に殺伐としたり味気なかったり、不安になったりする日常も、美味しい瞬間があればまた立て直せる。「おいしいね」と言……more
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『無敗の男 中村喜四郎 全告白』竹のようなしなやかさを特徴とする組織づくり
2019年12月24日「中村喜四郎」という名を聞いて何を思い浮かべるだろうか。もはやかすかな記憶…「なにか汚職で捕まった人じゃなかったかしら」。若い人たちなら思い出す記憶もなく「だれ?」というだろう。しかし、本書で改めて、あの事件後、中村氏がどうしていたのかを辿る……more
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『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』プロデュースのスリルと快楽
2019年10月24日毀誉褒貶の人・奥山和由さんが、映画史研究家の春日太一さんを相手に、語り尽くしたのが本書である。果たして、当時マスコミを通じて私たちが見ていたものは何だったのか。数多くのエピソードの陰に隠されていた真実、奥山さんがあえて口を閉ざし、語らずにいた……more
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『「家族の幸せ」の経済学 データ分析でわかった結婚、出産、子育ての真実』個人の実感ではなく、データの分析を重視すること
2019年09月24日本書は実に様々な人生の場面において、どんな要素がどんな影響を生むか、国内外の調査のデータをもとに分析している。人はどこでどうやって結婚相手と出会っているのか。似た者同士で結婚するというのは本当か。流行りのマッチングサイトで、本当に幸せな結婚が……more
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『日本の異国』「共に生きる」とは、どんな社会なのか?
2019年07月24日著者は30代の時に10年間タイのバンコクで「外国人」として暮らした経験があるそうだ。タイは歴史的にも地理的にも外国人を多く受け入れている国際社会で、バンコクでは様々な「外国人」が珍しくもなく隣り合って暮らしている。著者自身もその溶け込みやすさ……more
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『ナナメの夕暮れ』どのエピソードも「最後の一行」が素晴らしい
2018年10月24日こんな素敵な文章を書く人だったのか。仕事場での顔しかお互い知らないもんです。なんと若林さんはキューバ一人旅について書いた紀行エッセイ集『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』で今年の斎藤茂太賞を受賞、すでに立派な文筆家になっていたのでした……more
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『江戸の目明し』時代劇のファンタジーを吹き飛ばす
2018年09月24日ある意味「時代劇のファンタジー」をことごとく吹き飛ばすのが本書なのだが、読んでいくうちに「江戸」という町の生々しい息遣いが伝わってきて面白くなってくる。法と実態、建前と本音の間で、いかに混沌とした社会を“持たせる”か。せめぎ合いである。社会を……more
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『 別冊100分de名著 読書の学校『西遊記』』生きるのが難しい世の中をどう生きていったらいいのか?
2018年05月24日出口さんの『西遊記』の授業は、まず、古典を読むことの意義を解くことから始まる。というとちょっと語弊があるかもしれない。出口さん曰く「読書から教訓を得るべきなどという考えは捨てなさい」というところから始まるのだ。読書の“意義”などということ自体……more
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『記者襲撃 赤報隊事件30年目の真実』記事を書くことではなく、犯人を追うこと
2018年04月24日1987年5月3日憲法記念日。朝日新聞阪神支局が襲撃され、記者2人が殺傷された。事件発生当初から、朝日新聞は特別取材チームを編成し、犯人を追い続けてきた。仲間の命を奪われた記者たちは、必死の取材活動に身を投じることとなった。ただただ情報を追い……more
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『カレーライスを一から作る』米も、野菜も、肉も、食器も!
2018年01月24日この本は、武蔵野美術大学で教鞭をとっておられる関野吉晴さんが、学生たちとともに9ヶ月かかってカレーライスを一から作るというゼミの記録である。なにしろ関野教授なので、市販のルーがどうのこうのというような「一から」ではない。徹底的に一から。つまり……more
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『レッド・プラトーン 14時間の死闘』耳をつんざく砲弾の音、着弾時の振動、立ち込める煙
2017年11月24日本書は欠陥だらけの前哨・キーティングが、2009年10月3日の早朝、タリバンの総攻撃を受けてからの14時間の出来事を、分単位、ときに秒単位で克明に記述したものだ。レッド小隊のチームリーダーの一人だった作者のクリントン・ロメシャが、退役後、生き……more