おすすめ本レビュー

『エリア51』アメリカで賛否両論の話題作

久保 洋介2012年5月25日
エリア51 世界でもっとも有名な秘密基地の真実 (ヒストリカル・スタディーズ)

作者:アニー・ジェイコブセン
出版社:太田出版
発売日:2012-04-05
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2012年上半期No.1の社会派ノンフィクションだ。一度読み始めると、ストーリーにグイグイ引き込まれ、更に目から鱗の新事実が次々と登場し、しまいにはUFO・エイリアンに関する著者のあっと驚く新仮説も飛び出してくるので、ページをめくる手を止めるのに一苦労である。さすが「NYタイムズ・ベストセラー・リスト」に11週連続でランクインしただけはある。日々忙しく働いている人にとっては禁断の書なので、平日読み始めることは全くオススメしない。

エリア51とは、世界的に有名なアメリカ最高機密の軍事基地である。第二次世界大戦後に建設されたと推測されており、その名はハリウッド映画やロズウェル事件によって世界中に知れ渡っているが、今日までアメリカ政府はその存在を一切認めていない。地図からもその存在は削除されているほどだ。

エリア51内で行われることは、そのほとんどが極秘事項として扱われており、ここで何が行われているか一般にはほんの少ししか開示されていない。秘密保持体制は異様なまでに徹底しており、アメリカ大統領でさえアクセスできない情報が数多くある。実際、1994年、クリントン大統領がエリア51内部で行われたとあるプログラムを調査しようとしたが、開示されなかったほどだ。UFOや宇宙人の遺体が保存されているとも噂されている。

本書は、そんな秘密のベールに包まれたエリア51について、100人を越える関係者へのインタビューとこれまで機密解除された公文書をもとに、従来全く知られていなかった真実に迫る渾身作である。数えきれない程の新事実が本書によって明らかにされており、読者を飽きさせない。

例えば、1950年から1960年代にかけて、アメリカでは数多くのUFO目撃証言があげられていたが、本書によると、その正体はエリア51で密かに進められていた秘密偵察機だったようだ。アメリカは、敵国のミサイルに撃ち落とされないよう高度2万メートルを越えて飛行できるU-2偵察機をエリア51で製造しており、同地域で極秘のテスト飛行を当時繰り返していた。当時の科学技術水準を越えたその偵察機は、民間パイロットや一般人の目には未確認飛行物体としてうつったのだ。当時の極秘CIA文書によると、1957年時点のアメリカ国内でのUFO目撃例のうち過半数はその偵察機に起因するもの結論づけられている。

また、アメリカは原子力爆弾を輸送する飛行機が墜落した場合の影響を調べるために、秘密裏にエリア51内で、誰にも知られずに核実験を繰り返していた。それもかなり杜撰な安全基準で。例えば、実験コスト削減のため核爆弾を気球に吊るして爆発させており、その気球がラスベガス近くまで風で飛ばされた事件も起きていた。また近くに作業員が残っているにも関わらず起爆していることもあったようだ。しまいには実験後の除染は全く行われておらず、1998年まで40年以上放ったらかしにされていたそうである。事前に、実験後はプルトニウムを帯びたミミズやそうしたミミズを啄んだ鳥によってプルトニウムははるか離れたところの庭や別の土地の樹木に辿りつく可能性がある、と指摘されていたにも関わらずだ。

その他、冷戦時代にエリア51やその近辺では、ソ連製航空機の解体・分析、原子力宇宙船の製造、原子炉爆破実験、南ベトナムの兵士の訓練、アポロ11号宇宙飛行士の訓練などが行われており、本書はその一つ一つを各プロジェクトに関連した人物を軸に説明しており、どれを読んでもハズれはない。

余談だが、本書によると、米軍はこれまでの原子炉爆破実験により、原発事故が起こってしまった場合の対処法についてかなりのノウハウが溜まっているようである。今回の福島原発事故でも活用された放射性物質の空中測定システムや、紫外線や赤外線などで遠隔地から放射線を測定する「遠隔検知」技術などの技術はエリア51及びその周辺で開発されていたようだ。

ところで、本書は2011年に米国で出版されているが、出版されて以降、賛否両論の嵐である。英語版アマゾンでは、235のレビュー中、5つ☆が85個、一つ☆が66個である(2012年5月24日現在)。なぜこれほどまでに面白い本が賛否両論なのか、その答えは著者の新仮説にある。エリア51の歴史とともに語られる冷戦時代のアメリカの軍事裏面史は本書の醍醐味であり、多くの人びとに賞賛されている。しかし、本書の最終章11ページ(p.483-493)で展開したロズウェル事件(又はエイリアンやUFO)とエリア51を結びつける著者の大胆な新仮説が論争を呼んでいるのだ。

著者は、アメリカ政府がエリア51の存在を未だに認めないのには、根深い理由があると言う。アメリカ大統領にも明かせなかったプロジェクトとは何だったのか、アメリカ軍やCIAそして黒幕である原子力委員会は何を隠しているのか、ぜひ著者の仮説を楽しんで頂きたい。

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その他、仮説が面白い本は以下の通り。

モーセと一神教』モーセは、ユダヤ人を率いて一神教を作り上げた人物という仮説。

モーセと一神教 (ちくま学芸文庫)

作者:ジークムント フロイト
出版社:筑摩書房
発売日:2003-09
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スノーボール・アース』地球は過去に一面凍ったことがあるという仮説。

スノーボール・アース

作者:ガブリエル・ウォーカー
出版社:早川書房
発売日:2004-02-26
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右利きのヘビ仮説』左巻きのカタツムリが誕生したのは、右利きの捕食者がいるからという仮説。