「解説」から読む本

『世界一ときめく質問、宇宙一やさしい答え 世界の第一人者は子どもの質問にこう答える』

訳者あとがき&内容の一部紹介

河出書房新社2015年11月8日
世界一ときめく質問、宇宙一やさしい答え: 世界の第一人者は子どもの質問にこう答える

作者: 翻訳:西田 美緒子
出版社:河出書房新社
発売日:2015-11-06
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この本は、2013年11月に河出書房新社から出版された『世界一素朴な質問 宇宙一美しい答え』の続編です。編者も同じジェンマ・エルウィン・ハリスで、同じようにイギリスの子どもたちからの質問に、各分野の第一人者が回答を寄せています。そして同じように、子どもたちがひとりで読めるやさしい文章で書かれていますが、おとなが質問にそなえて、あるいは忙しさにまぎれて見すごしていたまわりの世界の不思議にもういちど目をむけて楽しむために、読むこともできます。日本語版だけに加えられているタイマタカシさんの美しいイラストも、ふたたび楽しんでいただけます。

本の構成でわずかにちがっている点として、まず質問した子どもたちの名前と年齢があきらかになっていることがあげられます。これだけで質問がより身近に感じられるのが不思議です。この本を読む子どもたちは、自分と同じ年齢の子どもの質問には、とくに興味がわくかもしれません。

また答える側のおとなにとっても、答える相手を想像する目安になります。「毎日が夢のなかのできごとではないと、どうしてわかる?」、「人間はなんのために生きているの?」、という鋭い質問がどちらも五歳の子どもからのものだとわかると、相手が小さくてもその質問に答えるむずかしさを実感します。そして「宇宙には行き止まりがある?」、「お金はどんどん印刷できるのに、どうして不景気があるの?」、「小惑星が地球に衝突するのをどうすればとめられる?」などは、高学年の子どもたちからの、おとなでも専門家にたずねたくなるような質問です。

もうひとつのちがいは、最後にクイズ形式の質問と答えがたくさんのっていることです。クイズ1から8までにそれぞれ8つ、ぜんぶで64の質問に、それぞれ3つの答えから正しいと思うものを選ぶ形式で、すぐあとに答えと説明があります。質問した子どもの名前と年齢はわかりますが、回答者の名前はなく、短くて要点をとらえた解説になっています。おとなも子どもも身のまわりのことをよりよく、より正しく理解するために、そうしながら友だちやきょうだいや家の人たちと遊んで楽しむために、クイズが大活躍することでしょう。

この本の原書はイギリスの本で、すべての質問と答えを省略することなく訳しているために、日本の子どもたちにはあまりなじみのない質問や知識も含まれています。たとえば、「ウィンストン・チャーチルはイギリスのためになにをした?」、「ヴァイキングとケルト人では、どっちのほうがおそろしかった?」などは、質問からイメージをふくらませることがむずかしいかもしれません。

また、「イアン・フレミングはどうやってジェームズ・ボンドを考えだしたの?」は、子どもたちよりおとなが興味をそそられる質問ではないでしょうか。それでも、子どもたちが今すぐ読んでピンとこなくても、学年が進んで世界史を勉強するときに、「ああ、あのときあの本で読んだ……」と思いだしてもらえたり、家の人に歴史や映画の話をたずねて会話をはじめるきっかけになったりすれば、これらの質問もおおいに役立つと考えています。

この本を読む前とあととで、まわりの世界を見る目が少しでも変化したと感じていただけることを、訳者として心から願っています。

2015年9月 西田 美緒子

毎日が夢のなかのできごとではないと、どうしてわかる?
質問─エスター、5歳
回答─ダレン・ブラウン(イリュージョニスト)

まるでほんとうみたいな夢を見て、今もまだ夢のつづきを見ているように思えてしまうことがよくあるね。たしかに目がさめているはずなんだけど、夢のなかで目がさめているのかもしれないとも思えてしまう。そのちがいは、どうやってわかるんだろう? もしかしたら、今、あっというまに目がさめて、ほんとうはこの本を読んでいなかったことに気づくかもしれない──この本はもとからなかったりして!

さて、とりあえず、きみは自分がほんとうにいるということだけはわかるだろう。もしも今は夢のなかにいるとしても、自分の夢を見ている自分が、必ずどこかにいるはずだからね。でも、頭でいろいろ考えてわけがわからなくなる前に、たいせつなことをおぼえておこう。ぼくらがじっさいに知っているのは、自分で見たり聞いたり感じたりすることだけで、それは身のまわりのほんの一部分だけなんだよ(たとえば、となりの部屋で起きていることは見えないし、ほかの人の頭のなかも見えないね)。ぼくらは、自分が知っているほんの少しのことから、ほんとうはどうなっているか見当をつけているにすぎない──だから大まちがいをすることもよくある。

こんどだれかと意見がちがったり、だれかのことをバカだと思ったりしたら、思いだしてほしいんだ──ほかの人もみんな自分が正しいと考えていて、きみが知っているのは、ほんとうのことの半分だけだってことを! きみはたぶん今、夢なんか見ていないだろうけれど、自分が知っているのはほんとうのことのわずかな部分だけなんだって、忘れないことが大事だよ。
 


人間はなんのために生きているの?
質問─ラズロー、5歳
回答─A・C・グレイリング(哲学者) 

たとえば「牛乳や牛肉を得るため」にウシを飼うとか、「羊毛をとるため」にヒツジを育てるという意味では、人間がなにかの「ために」なることはありません。けれども、人間はだれでも目的や目標をもつことができます。そしてその目標を達成しようとしながら生きることで、生きる意味が生まれます。わたしたちはなにかの「ために」ほかの人を利用してはなりません。おたがいが相手を価値のある人間と考えて接し、相手が自分自身やほかの人のためにしようとしているよいことを認めて、尊重しなければなりません。
 


宇宙には行き止まりがある?
質問─ジョッシュ、10歳
回答─ブライアン・コックス教授(素粒子物理学者)

それは重大な問題だ。でもその答えは、「宇宙がどれくらい大きいかさえ、まだわかっていない!」となる。わたしたちから見えているのは宇宙のほんの小さい部分で、ビッグバンの瞬間からすぎた138億年のあいだに、光がわたしたちの目に届いた範囲だけだ。それより遠くは見えていない。見えない理由は、それより遠い場所からやってくるはずの光が、まだ地球まで届いていないからだ。

それでも、見えている部分だけだって、宇宙はとっても広い。そこにはおよそ3500億個の巨大な銀河があり、それぞれに1兆個もの恒星(太陽)がある。この部分は「観測可能な宇宙」と呼ばれていて、直径は900億光年より少し大きい。ただし、宇宙はこれよりずっと遠くまで広がっていることはたしかだ。無限の大きさかもしれない。もしそうなら、想像することさえむずかしいね!
 


お金はどんどん印刷できるのに、どうして不景気があるの?
質問─キャメロン、11歳、マーヤ、9歳
回答─ジョン・ランチェスター(作家)

不景気を終わらせるために政府が印刷するお金を増やして、効果があがることも、ときにはある!

じっさいにアメリカでは今、政府が特別な1兆ドル硬貨を鋳造して、借りているお金をいっぺんに返そうという話が出ているくらいだ!(1兆は、1のあとに0が12個もつく、とてつもなく大きい数字だよ)。

でも不景気の原因は、その国にどれだけたくさんお金があるかではなくて、人々がどれだけお金を使うかに関係しているんだ。人は将来に不安を感じると、お金を使うのをやめて貯金することが多い。みんながいっぺんにお金を使うのをやめれば、会社がものを売って手にいれるお金が減って、働いている人に払えるお金も減る。そうすると働いている人が使えるお金はますます減って、不景気になってしまう。つまり、印刷するお金を増やすだけでは、将来への安心を生みだせるとはかぎらない。

不景気が終わるのは、人々が暮らしに自信をもつようになって、もっとたくさんのお金を使いはじめ、すべてが元気を取りもどすときだ。
 


小惑星が地球に衝突するのをどうすればとめられる?
質問─ポール、14歳
回答─マーカス・チャウン(宇宙の本の著者)

小惑星は、およそ45億5000万年前に太陽系が誕生したときの材料の残りものです。これらの岩のかたまりのほとんどは、火星と木星の軌道のあいだで太陽のまわりをまわっています。それでもときどき二個の小惑星がぶつかって、その一方か両方が、火星と木星のあいだの小惑星帯からはじきだされてしまいます。これらがやがて地球に衝突するコースをとることがあるかもしれません。6500万年ほど前、小さな町ひとつぶんくらいの大きさをしたそのような小惑星が、地球上から恐竜を絶滅させたと考えられています。

まもなく地球にぶつかるという小惑星を発見したとしたら、それをとめる方法はないでしょう。でも、ぶつかるまでに何年かあるなら、コースを変えられる可能性はあります。ただし、ずいぶんむずかしいですよ。まず宇宙船がその小惑星まで飛んでいき、着陸する必要があります。大きい爆弾で小惑星を爆破するというやり方は役に立ちません。爆破しても、大きい一個の小惑星が何十もの小さい小惑星になるだけで、まだ地球にむかって飛んでくるからです!

いちばんよい方法は、宇宙飛行士がその岩の一部を砕き、宇宙にむけて高速で発射するというものです。そうすれば小惑星は、打ちあげられた岩の反動で、反対方向にはねかえるでしょう。銃をうつと、銃弾の反動でうしろにはねとばされるのと同じです。宇宙飛行士たちがこれを毎日、何週間も何か月もつづけていけば、小惑星の軌道がだんだんに変わって、地球をそれていくことになります。
 

ウィンストン・チャーチルはイギリスのためになにをした?
質問─シーナ、6歳
回答─ダン・スノウ(歴史家)

ウィンストン・チャーチルは、とくべつ立派な軍人ではなかったし、完璧なリーダーでもなかった。よくまちがいをおかし、正しくない決断もした。そのうえ優秀な政治家でもなかった。すぐに敵を作り、たくさんの政治家からあまり信頼されていなかったからね。それでもウィンストン・チャーチルは、あるひとつのことを絶対的に正しくやりとおした。それは、これまでにイギリスのあらゆる人がやったことのなかで最高のもののひとつに数えられていて、今でもまだ世界中の人々がその恩恵を受けている。

ヒトラーの率いるドイツが第二次世界大戦で勝利をおさめたかのように見えた1940年の夏、たくさんの人々がチャーチルのもとをおとずれ、イギリスはもう降伏してヒトラーと仲直りしたほうがよいとすすめた。でもチャーチルは、だれがなんと言っても、断固として戦いをつづけると主張した。今ではわたしたちみんなが知っていること、ナチスが「おそろしい専制政治」で、歴史上のどんなにひどい帝国、国、人々よりも邪悪で破壊的なものであることを、チャーチルはよく理解していたんだ。

その後、ヒトラーが何百万人ものユダヤ人、ポーランド人、ロシア人、そのほか自分に反対する者はだれでも殺していたことがあきらかになったとき、チャーチルは正しかったことが証明された。聞く者を感動させたいくつもの演説をとおして、チャーチルはイギリス人だけでなく世界の人々に、この戦争がそれまでの多くの戦いのようなただの国と国との権力争いではなく、文明を守るための、世界の未来をかけた、ほかに類を見ない争いであることを訴えた。
 


ヴァイキングとケルト人では、どっちのほうがおそろしかった?
質問─リプリー、7歳
回答─ニール・オリヴァー(考古学者)

警察と法律ができる前の世界では、どこに行ってもおそろしい場所ばかりだった。そして、きみより戦いに強いか、きみより大きい刀を身につけていた人はだれでもみんなおそろしかった!

ただ、おかしな話がある。ケルト人やヴァイキングという人たちはじっさいにはいなかったんだ。「ヴァイキング」という言葉は、もともとは名詞ではなくて動詞で、そういう名前の人たちがいたのではなく、なにかをすることをあらわしていた。1000年ほど前、デンマーク、ノルウェー、スウェーデンの人々はロングシップと呼ばれる帆船に乗って、冒険の旅に出るのが好きだった。その人たちはこれを「ヴァイキングに行く」と呼んでいて、自分たちのことを「ヴァイキング」と呼んだわけではなかったんだね。

一方の「ケルト人」という言葉は、今から2500年ほど前にヨーロッパ全体に住んでいた人たちをあらわすのに、おもに学校の先生が使っている。同じように、アメリカやアジアの人たちはヨーロッパに住んでいる人を「ヨーロッパ人」と呼ぶかもしれないけれど、ヨーロッパに住む人は自分たちを「ヨーロッパ人」とは言わないね。もっとせまい場所をさして、「スコットランド人」、「ウェールズ人」、「コーンウォール人」、または自分にとって身近なさまざまな名前で呼ぶだろう。

さて、きみの質問への答えだが、だれであれ、そのときにいちばん足がはやくて、勇敢で、強くて、ずるがしこかった人が、いちばんおそろしかったと言えるんじゃないだろうか。
 


イアン・フレミングはどうやってジェームズ・ボンドを考えだしたの?
質問─ファーガス、9歳
回答─ウィリアム・ボイド(小説家、脚本家)

007シリーズを書いた作家のイアン・フレミングは第二次世界大戦中にイギリスのスパイの将校として活動し、「海軍情報部」という組織で働いていた。それはフレミングの人生でいちばん楽しい時期だったらしい。だから戦争が終わって生活のためにお金が必要になったとき、スパイ小説を書くことにきめて、自分ではじっさいにできなかったあらゆることをできるスパイを考えだした。自分のペンから生まれる小説をとおして、悪党と美女が登場するアクションと冒険がいっぱいの人生を、想像の世界で生きることができたんだね。

でも最初、このスパイの名前をなかなか思いつかなかった。ごくシンプルで、いかにもイギリス人らしい名前がいいと考えていた。ある日、机の前にすわって、何気なくバードウォッチングの本を手にとった(イアン・フレミングは、バードウォッチングが大好きだったんだ)。本を書いたのは、鳥類学者のジェームズ・ボンドだった。その瞬間、フレミングの心はきまった──想像上のスパイにはこの名前を借りよう。こうしてジェームズ・ボンドが誕生した!