HONZ今年の1冊

2019年 今年の一冊

HONZメンバーが、今年最高の一冊を決める!

内藤 順2019年12月31日

HONZメンバーが選ぶ今年最高の一冊。令和元年となった2019年もこのコーナーがやってまいりました。

今年はHONZが始まって以来一番の、ノンフィクションの当たり年であったと言えるのではないでしょうか。こんなにも次から次へと面白そうな本が出ては読みきれません。そしてどこまでも自由なHONZメンバーたち。今年は初の試みとして、原稿の催促を一切しないでみましたが、やはりただ待っていても、原稿は届かないものです。

そんなワケで、今年は原稿の到着が遅かった順に掲載してみます。早く送ってくれた方々、どうもすみません!

麻木 久仁子 今年最も「元号を感じた」一冊

半藤一利 橋をつくる人 (のこす言葉KOKORO BOOKLET)

 

作者:半藤 一利
出版社:平凡社
発売日:2019-05-10
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

半藤一利さんといえば「歴史探偵」の異名を持つ昭和史の水先案内人のようなお方、多くの人々に昭和史探検の楽しさを教えてくれた方である。かくいう私も半藤さんの『日本のいちばん長い日』や『昭和史1926~1845』『昭和史 戦後編1045~1989』をはじめとした作品で昭和の歴史観を学んだ口である。昨今の歴史修正主義の跋扈をみれば、まず半藤さんを入り口に昭和史に触れることができたのは実に幸いなことだった。 

この本はその半藤さんの「語りおろし自伝」である。昭和5年東京は向島生まれ。本書全編にわたって、ここというところで繰り出される江戸弁が気持ちいい。

15歳の時、東京大空襲である。半藤少年も山ほどの焼死体を見、川を渡って逃げる船から転落したときはしがみついてくる人々を片っ端から振り払って九死に一生を得る。人を「殺して」自分は生き延びたという経験は半藤少年の心根に深く残ることになる。

このとき本気になって考えたのは、「絶対」という言葉は死ぬまで使わないぞ。ということ。〜(中略)〜それまで「絶対に日本は負けない」「絶対に焼夷弾は消せる」「絶対に神風が吹く」…周りにたくさんの「絶対」があった。「絶対に人を殺さない」ということも。しかし、それらはみんな嘘だったと………。たった一つのそれが自作の哲学でした

その後の「昭和史」に注ぐまなざしの源であろう。

新潟での疎開生活、ボート部に懸けた大学生活、そして文藝春秋に入社し編集者として時代と取っ組み合いをしながらも傍で昭和史研究をコツコツと続けていくという人生の様々なエピソードがそれこそそのまま「昭和の生活史」のようだ。

昭和史にのめりこんだのは歴史の証人たちに「会って話が聞けるから」だという。文献だけでなく、その場にいた人に話が聞ける。陸海軍人には800人以上あって話を聞いたという。正直に話す人もいれば、口が重い人もいれば、ウゾをつく人もいる。人の「話」に分け入って分け入って、事実を探り当てることに喜びを感じて「探偵」と呼ぶのだろう。しかし、その昭和も令和に生きる若者からすればもはや遥か彼方である。あの頃のことを自らの言葉で語れる人はどんどん少なくなっていく。

御年89歳。令和初の新年を、大いに語る半藤さんの言葉に耳を傾けながら迎え、来し方と行く末に思いを馳せていただきたい。

足立 真穂 今年最も「線を引いて学んだ」一冊

黒海の歴史――ユーラシア地政学の要諦における文明世界 (世界歴史叢書)

 

作者:チャールズ・キング 翻訳:前田 弘毅
出版社:明石書店
発売日:2017-04-20
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

2018年に続き、2019年にまで行くとは思わなかったわけですよ、ジョージア。相撲なら黒海に栃ノ心、レスリングも強いそうな。ロシアやトルコ、アゼルバイジャンにアルメニア、を隣国にもつ、日本人の9割方が地理を知らないキリスト教信仰の国です。昔はグルジアと呼ばれていました。コーカサス山脈と黒海を持つ風光明媚な土地、その自然が生み出すナチュラルワイン、多民族国家ならではの多彩なダンス。ぜーんぶ堪能してきました。

また行きたい! のですが、そこは腐ってもHONZ。いや、別に腐ってないんですけど、読書で学ばねばと手にしたのが『黒海の歴史〜ユーラシア地政学の要諦における文明世界』です。とにかくジョージアの属する地域がよくわからないので、旅の道中にと手に取りました。黒海を囲む12の国を挙げられるか? なぜこの地域が文明の十字路と呼ばれるのか? 海の環世界の観点で、歴史の醍醐味を味わえる一冊です。読みやすく、たくさん線を引きました。

もちろんHONZへのレビューも書こうとはしました。したのですが、すでに先を越されていました。出口治明さんに。ここまで触手を伸ばされているとは、さすが出口さん。いつか出口さんと歴史旅をしてみたいものです。ジョージアかインドあたり、どうでしょう? 

来年も本を読みながら旅に出かけていきたいと思います。良いお年をお迎えください。

刀根 明日香 今年最も「注目した社会問題と自分を結びつけてくれた」一冊

8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語

 

作者:黒川 祥子
出版社:集英社
発売日:2019-11-26
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

「ひきこもっている状態をこのまま続けていくにはどうしたらいいか、一緒に考えようよ。」

私はこの言葉に出会ってえらい衝撃を受けた。みんな「ひきこもり」を脱するために、もがいて頑張っているんじゃないの!? こんな私の自分勝手な先入観を根本から変えてくれて、また「中高年ひきこもり」や「8050問題」と自分の接点を教えてくれたのが本書である。

2019年に起きた2つの事件(川崎市登戸・無差別殺人事件と、練馬区・元農水事務次官による長男殺害事件)はまだ記憶に新しい。「中高年ひきこもり」への漠然とした恐怖をニュースを観ながら感じていた。接してはいけない、もうどうしようもない問題なのだと。

しかし、著者の黒川祥子さんは、「違う」と言う。「8050問題」を掘り下げていくと、家族のあり方と多様性を認めない世の中の問題にぶち当たった。「中高年ひきこもり」を「見えない」存在から「見える」存在へと変えていかなくてはいけない。

冒頭の言葉は、本書で登場する支援者がひきこもりの当事者にかける言葉だ。「大切なのは、彼らの人生や今置かれている状況を否定しないこと。」本書から当事者や支援者の声・視点を学んで、私は漠然とした不安から光射す方面へと目を向けることが出来た気がした。

田中 大輔 今年最も「学びの多かった」一冊

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣

 

作者:ハンス・ロスリング 翻訳:上杉 周作
出版社:日経BP
発売日:2019-01-11
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

週刊新潮で「ビジネス書捕物帖」というビジネス書を紹介する連載をしている。3月に「今年のベストビジネス書は『FACTFULNESS』で決まり?」と書いたのだが、年末になったいまでもその気持ちは変わらず、今年の個人的ベストビジネス書は『FACTFULNESS』で決まりだ!

トーハン、日販の発表している年間ベストセラーで本書が2位になったことは喜ばしい限りだ。このような世界の見方を一変させるような本こそ、多くの人に読んでほしいと常々思っている。

ファクトフルネスとは事実に基づいて世界を見ることだ。この本を読んで、自分の世界に対する認識がいかに遅れているのか?を目の当たりにした。同時に日本がいかに時代に取り残されているのかということも痛感した。

世界全体で見れば貧困は減少し、平均寿命は伸びている。過去に比べて世界は確実に良い方向に向かっているのだ。しかし環境や人権など、またまだ無視してはいけない問題が数多くあるのも事実だと思う。

そういうことから目を逸らすことなく、多くの人がファクトフルネスを意識するだけで、世の中は確実に良い方向に進むと信じている。さらに多くの人にこの本を読んでもらいたい。

峰尾 健一 今年最も「次の10年はこんな本が増えてほしいと思った」一冊

NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方 (日経MOOK)

 

作者:若林 恵
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2019-12-09
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

話が大きくて、複雑すぎる。何をしていいのかわからない。そんな理由でいまいち関心を持てなかった「ガバメント」のこれからについて、自分史上最高に興味をかきたてられた1冊だ。

SDGs、DX、MaaS、GDPR、キャッシュレス、マイナンバー、コミュニティ、ギグエコノミー、シェアエコノミー、シビックエコノミー、地方創生、循環経済、働き方改革、副業解禁、信用スコア、スマートシティ、データ駆動社会、デジタルガバナンス、インクルージョン。 読み進めるほどに、こういったワードの本質や関係性が見えてきて、頭の中に見取り図ができあがっていく。

この手の話題からいったい何を読み取ればいいのかも自然とつかめてくるだろう。人口減少や高齢化、災害への備えといった2010年代通して突きつけられた社会インフラの課題にも当然大きく絡む話だ。 カギになるのは、「ここからが行政府の活動」、「ここからが市民の活動」という「線引き」を見直すこと。それは、「大きい政府」でも「小さい政府」でもない新たな選択肢の模索でもある一方、「税金払ってるからちゃんとやれ」がもはや成り立たない現実と向き合うことでもある。

「このままではまずい」に対して、「これからどうする」の話は圧倒的に足りていない。本書を起点に、次の10年は、そのバランスが前向きな方向に変わっていってほしいと思う。

新井 文月 今年最も「霊性を感じた」一冊 

世界の神話 (岩波ジュニア新書)

 

作者:沖田 瑞穂
出版社:岩波書店
発売日:2019-08-23
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

6年前、エジプトのカルナック神殿で不思議な体験をした。1人で歩いていると、現地の初老の男性が手招きするのだ。警戒しつつも近づくと、彼は侵入禁止の扉を開け部屋の中にある壁画を見せてくれた。それはホルス神のレリーフであった。

本書は神話を研究する著者が、世界中に存在する神話を丁寧に解説した一冊だ。メソポタミアのギルガメシュ叙事詩、ケルトのアルスター神話、日本の古事記など世界各地に伝わる神話を紹介している。

私はエジプト神話に引き込まれた。冥界の王オシリスは、弟セトに裏切られ、棺に入れられたまま殺されてしまう。妻イシスは棺を回収し、自身の姿を鳶に変えてオシリスの上を舞い、偉大な王となるホルスを妊娠した。私がエジプトで見た壁画のホルスのレリーフは、いったい何を意味していたのだろうか。

神話では、近親相姦があたりまえのように存在する。ある時は冥界に堕ちた女性の見るべきでない禁を破るケースもあり、ある時は死体から生じたイモを食べる話もある。予測を超える内容で何千年も前から人々を魅了してきた神話は、それ自体ですでに霊性を帯びたエンターテイメントとして楽しめる。

久保 洋介 今年最も「地に足つけちゃダメだと思わされた」一冊

京大変人講座: 常識を飛び越えると、何かが見えてくる (単行本)

 

作者:酒井 敏
出版社:三笠書房
発売日:2019-04-19
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

皆で一丸となって大きな目標に向かって邁進するのがあいかわらず美徳とされている。今年はラグビー効果もあって(!?)、自己犠牲の精神で耐え忍んで全体最適を目指す気風がもてはやされがちだった。

そんな気風がバカバカしく思えてくるのが、本書、キワモノ京都大学教授陣による変人講座だ。みんなと仲良く足並みそろえてという価値観に真っ向から異を唱える。冒頭、京大総長の山極寿一が「地に足つけているだけではダメ」「官僚的ではなく芸人的であれ」「変人がいるから社会は発展する」と唱えるところから始まり、京大の奇抜な講義内容が続いていく。

講義テーマをいくつか抜き出してみよう。第二章の「なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか」(経営)、第三章の「人間は‘おおざっぱ’がちょうどいい」(法哲学)、第五章の「「ぼちぼち」という最強の生存戦略」(予測)などなど、あきらかに通説には異を唱えた発想を展開する講義だ。読んでいると、なんだか論理的なお笑いを観ているかのような痛快さが味わえる。年末年始、凝り固まった頭をほぐすには最適の一冊だ。

内藤 順 今年最も「勝負していた」一冊

パンティオロジー

 

作者:秋山 あい
出版社:集英社インターナショナル
発売日:2019-11-05
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

旧知の編集者の方からご恵送いただいた一冊だ。「こんなの作っちゃいました」というテヘペロ系のコメントが付いてあったと記憶している。だが何も知らずに、うっかり嫁の前で封を開けてしまったボクの気持ちにもなってもらいたい。「こういうの最近流行っているんだって」という乾いたエクスキューズも虚しく、微妙な空気が我が家のリビングを支配した。

しかし本書はパンティだけに、中を覗いてみてもスゴい。様々な国籍、年齢、職業の33人の女性にセクシー・リラックス・お気に入りの3種類のパンティ自慢をしてもらい、精巧なイラストともに紹介した一冊である。

たかが布切れ、されど布切れ。そこには人生の侘び寂びが滲み出ている。登場するパンティの呼び名だけでも、ウキウキパンティ、適当パンティ、ふだん使いパンティ、魅惑のパンティ、リラックスパンティ、夏のパンティ、ミレニアムパンティ、ハッピーパンティ、ジョークパンティ、必ず効果ありパンティ、元気パンティ、ホームパンティ、ビッチパンティ、おやすみパンティ、ラッキーパンティ、思い出パンティ、失いたくないパンティ、大人パンティと、実に18種類。

またコットン派 VS アンチコットン派というパンティ上の意外な争点や、パンティならではのハミ出しコラムも充実している。これこそパンティが、心を映し出す鏡であることの証左と言えるだろう。まさに勝負パンツのワールドカップといった様相を呈している一冊だ。

栗下 直也 今年最も「尾崎豊を思い出した」一冊

ヤンキーと地元 (単行本)

 

作者:打越 正行
出版社:筑摩書房
発売日:2019-03-23
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

今年は元号が令和にかわったが、平成どころか昭和っぽいタイトルがいい。「タイトル推しかよ」と指摘されそうだが、本書は10年間にわたり、ヤンキーの声を拾い続けた労作である。 

20人以上の沖縄のヤンキーが登場するが、彼らは血縁集団や地域社会から、はじかれてしまった存在だ。ヤンキーたちを通して見えるのは、先輩後輩の関係を核とした共同体が沖縄の下層の経済を支える強固なネットワークとして機能している現実だ。何の資本も持たない彼らが生きるには、その共同体に縛られ、息苦しさを感じながらも、仕事も遊びも情報も頼らざるを得ない。

社会学者の著者は彼らと日常生活を送ることで、本音を引き出そうとする。文字通り、行動をともにしているところが本書の最大の読みどころだろう。

メンバーの「パシリ(下働き)」として、たまり場に入り浸る。買い物に走らされることもあれば、機嫌が悪いメンバーには理不尽に蹴られたり、殴られたり。バイクに暴走族 のステッカーを貼り、一緒に暴走し、警官とにらみ合うこともある。そこまでやるか、すさまじいぞ、研究者根性、あっぱれ。もう、盗んだバイクで走り出しかねない勢いではないかと唸らされた。と、字数の制限もあるのでまとめようと思ったが、「盗んだバイクで走り出す」って令和にはさすがに賞味期限切れか。

西野 智紀 今年最も「気持ちの入った」一冊

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

 

作者:カル・ニューポート 翻訳:池田 真紀子
出版社:早川書房
発売日:2019-10-03
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

昨年末、信頼する友人から、「あなたの書評はあなたの顔が見えにくい」と指摘された。私にとってそれまで書評とは、その本の要約・紹介がメインであって、自分の感想は不要、書くとしてもオマケ程度でいいと考えていたので、ちょっと面食ってしまった。

ともあれ、本懐は書評した本がたくさん売れることにある。パーソナリティが参考になるのなら、四の五の言わずまずは試してみるべきか。というわけで、媒体を問わず、今年書いた書評の大半に、私自身の感想や意見を意識して盛り込んでみた。奏功しているかどうかは読者に委ねる。

その中でも、個人的に気に入っているのが本書『デジタル・ミニマリスト』のレビューだ。人に見られる文章を書こうとするとつい背伸びしたり冗長になったりして失敗しがちなのだが、この記事はかなり血肉の通ったものになったと自負している。日がな一日SNSに傾注するよりも、現実の人間関係で深い喜びを見出すべきというデジタル・ミニマリズムの哲学にも何やら救われる思いがした。

書評を書く行為は、読み手に情報を提供するのみならず、他ならぬ自分の心に本を繋ぎ止めておくアウトプットである。一年間トライしてみて、今はそんなふうに考えている。

鰐部 祥平 今年最も「骨太で、魅了された」一冊 

ハミルトン――アメリカ資本主義を創った男 上

 

作者:ロン・チャーナウ(Ron Chernow) 翻訳:井上 廣美
出版社:日経BP
発売日:2019-09-20
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

アレグサンダー・ハミルトン。アメリカ憲法の実際の起草者にして、初代財務長官を務め、決闘により死亡するという数奇な運命をたどった男だ。アメリカの金融、産業、常備軍の制度を設計した男でもある。また、アメリカ建国の父たちの多くが、自由主義を標榜しつつも、奴隷経済の上で巨万の富を築いていたときに、真っ向から奴隷制に反対し、具体的な奴隷解放計画を提案するという、勇気を持ち合わせてもいた。

英領西インド諸島で最底辺の身分に生まれ10代の頃には、孤児になるという不遇をかこちつつも、アメリカ独立戦争の英雄となり、政治家としても大成していく、その姿は読んでいる者を魅了し興奮させる。一方でアメリカ建国の思想的基盤を作った男が、何を考え行動したかを知ることは、今のアメリカの分裂と混乱の原点を見つめる行為でもある。

『サピエンス全史』の著者ユヴァル・ノア・ハラリは、急速に発展するテクノロジーや科学に対して既存の「物語」が機能不全に陥っていることが、現代社会の混乱の原因だと説いている。宗教、自由主義、民主主義、資本主義、ナショナリズム、共産主義、そのどれもが崩れつつある。一方で、人類は新たな物語を紡ぐことができないでいる。ハミルトンの思想も機能不全を起こしているかとは間違いない。だが革命によって生まれたこの国の基盤を知り、物語を正しく再編すれば、まだまだ、私たちに必要な物語となる可能性も秘めている。

アーヤ藍 今年最も「熱い告白に出会った」一冊

九時の月

 

作者:デボラ・エリス 翻訳:もりうち すみこ
出版社:さ・え・ら書房
発売日:2017-07-01
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

「同性愛者であることが犯罪になる」国が世界にあることは、ニュースなどでも取り上げられ、ご存知の方も多いでしょう。しかし、その人たちがどんな気持ちで恋をし、どんな恐怖にさらされ、どんな風にその「愛」の感情と向き合うのかは、なかなか報道だけでは想像しきれないものです。

本書は革命後のイランを舞台に、恋に落ちた少女たちの物語。イランでも、同性愛は「犯罪」とされ、「罪」を認めなければ、死罪にもなりえます。

そのことを頭ではわかっていても、恋情は理屈とは関係なく芽生えるもの…。秘密裏に愛情を育んでいく二人の純粋なやりとりに胸をときめかせられるのも束の間。国や政治、時代の波に、二人は翻弄されていきます。

著者のデボラ・エリスは、難民キャンプなどで聞いた体験談をもとに「物語」を書いていて、本書も実在のモデルがいるとのこと。実際に起きたことだと認めたくはないほど衝撃の結末ですが…。

しかし、それだけ周囲から否定され、引き裂かれても、それでも自ら“選択”し続けた「愛」の告白の言葉は、とても美しく、力強く、研ぎ澄まされていました。気になった方はぜひお読みください(笑)。

ちなみに、同じ著者の書籍を基にした、アフガニスタンの少女のアニメ映画『ブレッドウィナー』も好評上映中です!(私アーヤも劇場公開のお手伝いをしております!)

澤畑 塁 今年最も「いまかいまかと待っていた」一冊

21世紀の啓蒙 上: 理性、科学、ヒューマニズム、進歩

 

作者:スティーブン ピンカー 翻訳:橘 明美
出版社:草思社
発売日:2019-12-18
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

「この5年で読んだ本のうち、最も刺激的だった本は何か」と問われたら、わたしは迷うことなくスティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』を挙げる。そして、「この1年で最も待ち焦がれていた本は何か」と問われたら、躊躇なくピンカーの『21世紀の啓蒙』を挙げよう。そう、本当に待ち焦がれていましたよ。

『21世紀の啓蒙』は、内容的に言って『暴力の人類史』の延長線上にあるものである。理性や知識といったものがとかく軽視されがちなこの時世において、啓蒙主義の功績を見直し、その理念(理性、科学、ヒューマニズム、進歩)をあらためて擁護しようというのである。紙幅が最も多く割かれているのは「進歩」の部分で、いまこのときが(啓蒙主義のおかげで)かつてないほど豊かで、平和で、安全で、自由で、平等な時代であることが圧倒的な証拠とともに説かれている。

ところで、『暴力の人類史』もそうであったが、ピンカーの著書は最終節がじつに感動的だ。上下巻にわたる長くバラエティに富んだ旅を終えて、最後に遥々と見渡せる風景。読者にそんな風景を見せることができるのは、ずば抜けた文才に恵まれたピンカーならではだろう。この冬休み、あなたもちょっと長い旅に出てみるのはどうだろうか。Bon voyage!

成毛 眞 今年最も「優れた改訂版の」一冊 

コンテナ物語  世界を変えたのは「箱」の発明だった 増補改訂版

 

作者:マルク・レビンソン 翻訳:村井 章子
出版社:日経BP
発売日:2019-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

ついに名著『コンテナ物語』の改訂版が登場した。12年ぶりのことだ。本書は非常に優れたイノベーター、デファクトスタンダード、キャズム、ロジスティクス、グローバルサプライチェーンの教科書であり、すぐれて興奮を押さえきれないヒューマンなノンフィクションでもある。

現在の世界的な低インフレ傾向は各国中央銀行による金融政策だけによってもたらされたものではない。むしろ低賃金労働の提供で発展を目指す東南アジア、制度的資本集約が可能な中国や韓国などによって安価な製品が世界中にばらまかれたことによる。

それを担保したのがコンテナ輸送だった。中国や東南アジアの奥地にある生産拠点から、アメリカ中西部の町などの小さな消費地まで、貨物を一切積み替えることなくコンテナ一本で配送されるからこそ、安価な製品が世界中に溢れたのだ。そのためにはコンテナの規格がグローバル・スタンダードである必要があり、貨物船からトラック、貨物ヤードまで規格に合致させる必要がある。

全世界で何兆円ものコンテナ物流投資が行われてきた。 そのコンテナがたった一人の男によって発明されたことを知る人は少ない。海運革命という狭い視点でこの本を読んではいけない。本書はすべてのスタートアップ経営者にこそ読まれるべき一冊だ。

仲尾 夏樹 今年最も「ノンフィクションを普段読まない人に勧めた」一冊

HONZの話をすると「普段小説しか読まないのですが、何かオススメのノンフィクションはありますか?」と聞かれることがある。親しい人ならば、その人の趣味嗜好に合わせて提案できるが、そうではない場合少し難しい。料理をしない人にレシピ本を勧めても読まないだろうし、スポーツをしない人に筋トレ本を渡しても使わないだろう。何より「普段小説しか読まない人」にとって、ストーリーがないものを読み進めるのは大変なことだ(かつて私がそうだった)

そこで、今年最も人に勧めていたのが本書だ。本書は、ヒト型ロボットベンチャーSCHAFT(シャフト)をGoogleへ売却した、加藤崇さんの次なる挑戦の物語だ。彼は、インフラの劣化を予測するAIベンチャー、Fracta(フラクタ)をシリコンバレーで創業した。文化の異なるアメリカでの交渉にてこずったり、事業内容の変更を迫られたりなど、小説のように次から次へと問題が起きる。だが、どんな状況でも加藤さんは熱く、決して諦めない。

本書は288ページあるが、あっという間に読めてしまう。どうしてこんなに読ませる文章を書くのだろうと思ったが、加藤さんは文章へのこだわりが人一倍強かった。添削のために部下のメールをプリントアウトし、赤ペンを入れて返すこともあるそうだ。そしてもうひとつ、読む前に気になったのが、アメリカで起業した理由である。詳しくはぜひ本文を読んでほしいが、日本の未来を考えての行動だった。この本はFractaがある成功を収めて終わるが、加藤さんの挑戦はまだまだ続く。気になる方は日刊工業新聞新潮社フォーサイトで続きを読むことができる。

首藤 淳哉 今年最も「恐れ入った」一冊

まなの本棚

 

作者:芦田 愛菜
出版社:小学館
発売日:2019-07-18
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

「栴檀は双葉より芳し」とはまさにこのことかもしれません。まなちゃんが本好きであることは耳にしていましたが、まさかこれほどとは!舌を巻いたのは、本の要約の仕方です。たとえば森鴎外の『高瀬舟』。

『高瀬舟』は、江戸時代の貧しい兄弟の間に起こった「安楽死」をテーマにしたお話です。苦しがる弟をかわいそうに思った兄が、弟の自殺を手伝ってあげる。現代でいう「安楽死」をさせてあげるのです。でも、その結果、兄は弟を殺した罪に問われて、島流しになってしまいます。

実にシンプルです。お見事!

この作品を読んで、まなちゃんは生まれて初めて「安楽死」について深く考えたそう。そして日本文学をもっともっと読みたいと思ったそうです。

ある本をきっかけに別の本へと関心が広がっていく。本が本を呼ぶ幸福な循環が起き始めると、読書はますます楽しくなるもの。本書にはそのプロセスがいきいきと記されています。素晴らしいブックガイドにもなっているので、特に小中学生の冬休みにはおすすめの一冊です。

それにしても弱冠15歳にしてこの読書量と文章力。恐れ入りました。まなちゃんはノンフィクションも好きとのこと。いつの日かHONZにも参加してくれないかなぁ。

塩田 春香 今年最も「”読む・書く・伝える”に向き合う機会を与えてくれた」一冊

科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました (文春文庫)

 

作者:朱野 帰子
出版社:文藝春秋
発売日:2019-11-07
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

2016年「今年の一冊」で私が紹介したのは、『賢者の石、売ります』という、科学好きな家電メーカー社員が主人公のお仕事小説だった。

それから3年、意外な依頼があった。今年ドラマ化して話題になった『わたし、定時で帰ります』の著者・朱野帰子さんから「自著の文庫解説を書いてほしい」と。『賢者の石、売ります』も朱野さんの作品だった。あの「今年の一冊」が依頼のきっかけだったそうだ。

そして『賢者の石、売ります』は『科学オタがマイナスイオンの部署に異動しました』と改題・文庫化されるのだが、それに掲載されるたかが3000字程度の解説を書くのに、私は煩悶することになる。

引き受けてはみたものの、依頼を受けて他社の商業出版に名前入りで文章を書くのは、これが初めて。一会社員の自分語りなど読者は読みたくもないだろう。でも、書き手が恥をさらけ出し、血を流して書いた文章でなければ、熱量は伝わらない。どうすればいい? 結構長く出版業界にいながら、「書き手」の苦しみを私はわかっていなかったと痛感・猛省。何度も本を読み直し、そのたびに新しい気づきもあって「同じ作品を読み込むこと」の奥深さも改めて実感した。

結果的に私が書いた解説は、朱野さんからも「ご自身の血潮がたぎっている」と褒めて(?)いただき、読者の評判も悪くはないらしい。私にとって本書は、ふだんとは違う立場で「読む・書く・伝える」に必死で向き合う機会を与えてくれた一冊だ。

東 えりか 今年最も「恐れていた事態は明日にも起こると実感させられた」一冊 

わたしが「軽さ」を取り戻すまで――

 

作者:カトリーヌ ムリス 翻訳:大西 愛子
出版社:花伝社
発売日:2019-02-06
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

2015年1月に、パリの風刺新聞社「シャルリ・エブド」にイスラム過激派のテロリストが侵入し、12人が死亡、多数の負傷者を出した事件で生き残った女性の後日談である。

テロは世界中で発生している。日本でも起こるかもしれない。そんな心配は誰もがしているだろう。

原稿を書いてHONZにアップしたのが4月。そのわずか3か月後「京都アニメーション放火殺人事件」が起こる。一人の男がスタジオに侵入しガソリンを撒いて放火したことで、36人が死亡、多くの負傷者を出した衝撃の出来事だ。被疑者も大やけどを負い、つい最近、事情聴取が始まったばかりだと聞く。

動機はまだわかっていないが、犯人に政治的意味はなかったかもしれない。しかし不特定多数を標的にしての虐殺が、こうもやすやすと行われたことに慄然とする。本書の著者であるカトリーヌ・ムリスと同じ立場になった被害者たちは今どうしているだろう。

事件から立ち直り回復することがどんなに困難なことか、本書には詳細に書かれている。遠い国の事件だと思い込んでいたが、明日、本当に起こるかもしれない。それをリアルに感じた一年だった。

冬木 糸一 今年最も「僕の行動に影響した」一冊

デジタル・ミニマリスト: 本当に大切なことに集中する

 

作者:カル・ニューポート 翻訳:池田 真紀子
出版社:早川書房
発売日:2019-10-03
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

今年もっとも僕の行動に影響した本はカル・ニューポートの『デジタル・ミニマリスト』だ。現代のSNS、特に絶え間なく通知を送ってくるtwitterやfacebookがいかに我々から集中力を奪っているのか、またどうしたらそうした各種SNSを確認する頻度を減らし、SNSから開放されることができるのか──について語られた一冊である。それ以前に僕は『140字の戦争 SNSが戦場を変えた』を読んで、twitterに対して嫌気がさしてみるのをやめていたのだけど、本書(デジタル〜)はそこに指針を与え、後押しをしてくれた。

山本 尚毅 今年最も「分厚い、分厚かった」一冊

ゲームデザインバイブル 第2版 ―おもしろさを飛躍的に向上させる113の「レンズ」 (GAME|DEV|LAB)

 

作者:Jesse Schell 翻訳:佐藤 理絵子
出版社:オライリージャパン
発売日:2019-09-09
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

729ページ、数字だけでは伝わらない分厚さを目の当たりにしたのは、背表紙を下に向けて、机にたてたときだ。まさか、いや案の定、立ったのだ!表紙と裏表紙をV字に開きながら、バランスを見事にとる、華麗な立ち姿。さすが、バイブルである。

実際に、中身もバイブルの名に相応しいものだ。ゲームについての本とは思えないくらい、真面目で誠実なのだ。目次だけで20ページある。おもしろさを飛躍的に向上させる113のレンズは「喜怒哀楽のレンズ」からはじまり「秘密の目的のレンズ」で終わる。読者がたくさんのレンズを消化できるかなんて余計ない心配はまるでしていない。むしろ、本を読むだけでゲームデザイナーになれるわけなんてない。なりたいのなら、とっととゲームデザインしなよ、と挑発している。

ちなみに、ゲーム業界に所属していない人にこそおすすめである。ゲームを作る上で活かされている専門的な知識やテクニックがぎっしり詰まっており、実践で即座に使える内容にまで咀嚼されている。体験価値をあげたい、顧客を喜ばせたい、とにかくもっとおもしろくしたい、素朴な想いにも寄り添ってくれるなバイブルだ。

吉村 博光 今年最も「オリンピックイブな」一冊

ずばり東京―開高健ルポルタージュ選集 (光文社文庫)

 

作者:開高 健
出版社:光文社
発売日:2007-09-06
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

今年で没後30年、来年生誕90年をむかえる芥川賞作家・開高健が、オリンピック前の東京を歩き回ってまとめたルポルタージュ。TOKYO2020の前にあらためて読んでみた。作家自ら泥くさい東京に入り、様々な人々と触れ合いながら「そこにある東京」を綴っていくスタイルが新鮮だった。

本書は、大先輩の作家・武田泰淳氏からルポを書くことを薦められたことがキッカケで生まれた。そしてこの『ずばり東京』への出版社からのご褒美として、彼はベトナム取材に行くことになるのだ。それは、過酷な戦場体験や闇三部作へとつながってゆく。尊敬する先輩(師匠!)の話は聞くものだと思った。

それにしても、本書には「うんこ」の話がいっぱい出てきた。開高は「うんこ」の話が好きだったようだ。今年の東京にも、よく似た状況がある。本屋さんの学習ドリル売場には「うんこ」の文字が溢れているのだ。テレビCMでお茶の間の人気者となった芥川賞作家。人々に愛されたのは、子供にも通じるお茶目さなのかもしれない。

作家が遺したこんな言葉にも注目したい。「少年の心で、大人の財布で歩きなさい」(『地球はグラスのふちを回る』より)

鎌田 浩毅 今年最も「五感の喜ぶ」一冊

ルビンのツボ: 芸術する体と心

 

作者:齋藤 亜矢
出版社:岩波書店
発売日:2019-06-22
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

「ルビンのツボ」とはデンマークの心理学者ルビンが考え出した白黒の有名な図形で、中心の黒い所を見れば壺に、周りの白い所を見れば顔になる。視点を変えれば全く別の世界が現れる「図地反転図形」で、評者は「感受性の角度を変える」と表現している。

科学と芸術の関係を「!」と「?」で鮮やか論じる本書は、素敵なフレーズに満ちており、サイエンスは「!」を「?」に変えて答えを追及し、アートは「!」を形や音に表現すると語る。そもそも「表現は、限られた人に与えられた特権ではない(中略)それはただ、自分に向き合うこと」(本書144ページ)なのだ。

副題の「芸術する体と心」は評者の「科学する体と心」と見事に感応し、身体論と地球科学を融合しようと四苦八苦する2019年の日々に光を与えてくれた。すなわち、「頭よりも体のほうが賢い。体の声に耳を傾けよ」(『座右の古典』ちくま文庫、220ページ)。

いずれ芸術認知科学者の著者が『風邪の効用』(ちくま文庫)の野口晴哉と出会い、新たな「ルビンのツボ」が誕生するのも遠くないと予感した。活元運動で「頭をゆるめて、見え方の揺らぎを楽しんで」(本書viページ)いただきたいと願う。

仲野 徹 今年最も「紹介しそびれた」一冊 

みんなの「わがまま」入門

 

作者:富永京子
出版社:左右社
発売日:2019-04-30
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

ありがたいことに、結構な数の本が送られてくる。どんどんたまっていくいので、処分せざるをえない。そんな中に、いつまでも気になって積ん読のままというのが出てくる。『みんなの「わがまま」入門』もそんな本だった。それならさっさと読めばええのに、と言われるだろうが、時にはそんな本もあったりするのだ。

読んでみたら、むちゃくちゃに面白かった。一応HONZには出版3か月以内に紹介というルールがある。読んだのは出版後半年近くたっていたので見送った。

タイトルからは何の本か少しわかりにくい。ひとことでいえば、みんなもっとわがままになった方がええんとちゃいますか、という本だ。そして、正しくわがままを言うためのお作法が述べられていく。

日本人はわがままを言わなさすぎだと常々思っている。だから、私のような我慢強い人(<主観的イメージです)でもわがままと誤解されたりする。もっときちんとわがままを言うべきだ。そうしたら、社会がもっと良くなるに違いない。そして、最後の章にあるように、他人の「わがまま」をおせっかいしてあげることができたら最高だ。

ここまで書いて気ぃつきました。この本にある「わがまま」は、正しい大阪のおばちゃん精神と同じやんか。内容にえらい親しみを感じたのは、きっとそのせいや。

古幡 瑞穂 今年最も「中間管理職心に刺さった」一冊

白銀の墟 玄の月 十二国記 1-4巻セット

 

作者:
出版社:新潮社
発売日:
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

ファンタジーと聞くと夢物語のような小説を想像する人が多いようだが、実のところは綿密に練られた世界で描かれるのは熾烈な現実である例が多い。「十二国記」が多くの大人に支持される理由の一つもそこにある。

この世界には天に選ばれた王が国を治めるという理がある。王は民のために大きな仕事をすることを求められるのだが、もし偽の王が立った場合、国は荒れ妖魔が跋扈する事になる。荒れた国土では国民は次々に命を奪われていくことになり、不満を持った民衆は反旗を翻し、志ある将はどこかにいるのであろう王を命がけで探す…。最新刊で描かれたのはこういう物語だ。

荒廃しきった世界と辛い戦いが描かれた読書時間は決して楽しいものとは言えないだろう。それでもこうも多くの人がこのシリーズを支持するのを見ると、本を読むということに娯楽を超えた意味を感じずにはいられない。「十二国記」で描かれた、どこかの社会に似た世界での物語に人々は何を映し見たのだろう。読み終わった今もまだずっと考えている。

あ、シリーズ未読の方には『図南の翼』からの読書がオススメです。

堀内 勉 今年最も「衝撃を受けた」一冊

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

 

作者:加藤 文元
出版社:KADOKAWA
発売日:2019-04-25
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

八重洲ブックセンターは、今年、その年に最も注目を集めた本に送られる「八重洲本大賞」に、最新の数学理論を一般向けに解説した『宇宙と宇宙をつなぐ数学』を選んだ。同賞を数学の解説書が受賞するのは異例のことらしい。

事の発端は、2012年に京都大学の望月新一教授が公開した4つの論文である。ここで望月教授は、「未来から来た論文」と呼ばれる全く新しい「宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)」を打ち出し、数学の最大の難問のひとつとされる「ABC予想」を解決したと主張して、数学界に衝撃が走った。

ただ、そもそも「IUT理論」というものが何なのかを理解できる数学者が世界でもわずかしかいないため、査読がなかなか進まず、専門家の中でも正しいかどうかの結論がいまだに出ていないことを受けて、友人である東京工業大学の加藤文元教授がこの理論のポイントや経緯について分かりやすく(?)解説したのが本書である。

もしかしたら我々は、ニュートンやアインシュタインが成し遂げたのと同じくらいの大発見に立ち会っているのかも知れない。IUT理論の中身は到底理解できなくても、そう思うだけでもゾクゾクしてくる衝撃的な本である。

それでは皆さん良いお年を!