『漫画貧乏』 新刊超速レビュー

村上 浩2012年04月22日 印刷向け表示
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漫画貧乏
作者:佐藤 秀峰
出版社:PHP研究所
発売日:2012-04-17
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著者の職業は漫画家である。ドラマ化、映画化された著作、『ブラックジャックによろしく』、『海猿』の名前は、普段漫画を読まない人でも聞いたことがあるだろう。10万部に届けばドル箱と呼ばれるコミックス市場において、『ブラックジャックによろしく』は初版で100万部を超えることもあったそうだ。傍から見れば、大成功者、夢の印税生活、という姿を想像してしまうが、著者が感じていたのはヒット作を生み出した達成感や充実感ではなく、漫画を取り巻く環境への怒りと危機感、そして不安である。

「10年後も漫画はあるだろうか?」

本書は漫画を愛する著者が漫画の未来を憂いながら、それでも諦めることなく、未来を変えようとあがき続けた活動の記録である。(ちなみに、本書はプロフィール紹介以外は漫画でなく活字である)

タイトルに『漫画貧乏』とあるが、漫画製作にはとにかく金が掛かるらしく、1ページ1万円程度の原稿料だけでは絶対に赤字になるという。週刊連載で1週20ページ書いていれば、原稿料による収入は80万円となり、それほど少ないとも思えない。年間960万円と考えれば、多いとも思えるほどだ。なぜこれで赤字になるのか。基本的には週刊連載漫画は1人では書くことができないからだ。漫画家はアシスタントを複数人雇い、彼らの食事や作業場を用意しなければならない。人件費、食費、賃料などで80万円はあっという間に底を尽きてしまう。印税が入ればよいかもしれないが、印税が入ってくる保障などどこにもないのだ。

原稿を製作するために必要な費用を賄えない(著者の人件費を除いてもだ!)原稿料とは一体何なのか、著者は編集部とタフな交渉を行うことになる。しかし、そもそも自分の原稿料がいくらか分かるのは振込み後、業務の依頼に発注書がない、という商習慣を考えれば、この交渉はすんなりと進むとはわけがない。案の定著者はのた打ち回ることになる。

しかも、10年前と比べて漫画の原稿料は1000円程度下がっているそうだ。出版不況が叫ばれて久しいが、漫画を取り巻く数字は暗いものばかりだ。Cool Japanの先鋒としてもてはやされることも多いMANGAはその誕生の地で地盤沈下を起こしている。コミック誌の販売額は何と20年近くも右肩下がりを続けており、90年代中盤には3500億円に届こうとしていたその数字は、2009年には2000億円を割れ込むことになる。休刊に追い込まれる雑誌も多い。

あらゆる面で出版社と対等な関係を構築できないことを痛感した著者は、自らがその役割を担おうと考える。色々な壁にぶつかりながらも諦めない著者は、漫画家と読者を直接繋ぐプラットフォームとなるようなホームページの作成を計画する。この著者の凄いところは徹底的に自分でやり切ろうとするところ、諦めないところだ。紆余曲折を経ながらもこのサイトは現在「漫画 on Web」として、少しずつ大きくなりつつある。またこのサイトでは、本書のかなりの部分が無料で公開されているので、是非プロフィール紹介の漫画だけでも読んで欲しい。『ブラックジャックによろしく』の全話無料公開に踏み切るなど、著者はマーケティングも体当たりだ。

電子書籍の現状、著作権、ベンチャービジネスの立ち上げなど、様々な角度から楽しめる本であるが、何よりも見所なのは、著者のぶつかり具合だ。あらゆるものにぶつかりながら何度でも立ち上がるその姿からは、愛する漫画のためなら死ねる!と言ったほどの意気込みを感じる。様々なしがらみをぶち壊そうとする著者には批判者も多く、「騒いでいるバカな漫画家」と言われることも多いそうだ。

本当に世界を変えるのはこんなバカヤローなのかもしれない。

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