『水危機 ほんとうの話』新刊超速レビュー

村上 浩2012年07月22日 印刷向け表示
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水危機 ほんとうの話 (新潮選書)
作者:沖 大幹
出版社:新潮社
発売日:2012-06-22
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本書は水文学の第一人者である著者による、何とも意外な水のほんとうの姿を教えてくれる、水文学の入門書である。水文学の研究対象は水にまつわる森羅万象であり、本書の範囲も経済、気候、災害等と多岐に渡る。これほど身近な水にこれほど知らないことが多いとは知らなかった。どうやら世の中には、水に関する“ほんとうではない話”が溢れているようだ。

石油、天然ガスやレアメタルは貴重な資源であり、枯渇すれば世界中が大混乱に陥ることは間違いない。しかし、これらの資源がなくなっても人類が絶滅することは無いだろう。何しろ人類がこれらの資源を活用し始めたのはたかだか数百年であり、何百万年もこれらの資源なしに過ごしてきたのだ。

ところが、水の場合はそうはいかない。利用可能な水がなくなれば、人類滅亡までにそれほど多くの時間はかからないはずだ。人類だけでなく、多くの生物がその生命活動を終えることになるだろう。この水の特別さが、我々の水を見る目を曇らせ、“水の七不思議”を生み出している。

著者があげる水の七不思議の一部を挙げてみよう。

  • 節水は善行であり、たくさん水を使ってはいけない
  • 外国産ワインには抵抗感を覚えないが、外国産ミネラルウォーターはもったいなく感じる
  • 食糧供給やエネルギー・交通・通信サービスは民間が担ってもよいが、水供給だけは民間より官がよいと思う

「何が不思議なの?当たり前のことだろ」と感じる人もいるかもしれない。しかし、著者が「新書3冊分の内容を詰め込んだ」と言う本書で水のほんとうの姿を知れば、これらがいかに不思議な考え方であるかが理解できる。

1つ目の不思議について考えるべき点は、水がローカルな資源であるということだ。アフリカには安全な水へのアクセスがなく、最低限必要な水の確保に1日に何時間もかけている人たちがいると聞けば、水の無駄遣いをやめようと考える人もいるだろう。しかし、水は重量あたりの価格が圧倒的に低いので、輸送や貯留のコストが相対的に大きくなる。そのため、ある地域での節水は遠く離れた地域の水環境改善には全く寄与しない。つまり、水資源が豊富な場所では節水せずに、最大限に水を活用した方がよい場合もあるということだ。

本書ではこれ以外にも多くの事実が、図表とともに分かり易く解説されている。また、その図表を作り上げるためのデータ収集、仮説構築の過程も描かれており、その研究室生活が垣間見え、無味乾燥な事実の羅列にとどまらない読み物としての楽しさも兼ね備えている。図表はWeb上に公開されている(リンク)ので、気になる図表がある人は是非本書の解説を読んで欲しい。本書は、水を考えるさいには欠かせない一冊となるだろう。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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