『人口18万人の街がなぜ美食世界一になれたのか』地方都市の成功モデル

久保 洋介2012年07月25日 印刷向け表示
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学生時代にバックパッカーで世界各地を回ったが、西ヨーロッパは手つかずのままだ。西ヨーロッパはもう少し歳とってからでもいいや、と後回しにしてきた。社会人の今でも旅行先候補の中に西ヨーロッパはないが、興味は大有りだ。特に最近興味あるのはスペインのサン・セバスチャンである。英「restaurant」誌による「世界のベストレストラン」トップ10のうちの2軒ものレストランがこの小さな街から選出されており、今では美食の街として世界中の注目を集めている(ちなみに日本からは2軒がトップ50に選出されている)。

サン・セバスチャンとは、イベリア半島の付け根のくびれた部分の北側あたりに位置する人口約18万人の街だ(北海道釧路市と同じくらい)。人口は、スペイン一の観光都市であるバルセロナの10分の1、Creative Cityの成功例として名高い近隣都市ビルバオの約半分である。特に目立った観光遺産があるわけでもなく、交通の便もそれほど良いわけではない、いわゆる「半端な街」である。

そんな「半端な街」サン・セバスチャンがなぜ世界的に注目を集める観光都市に成長できたのか。本書はそんな秘密を紐解いていくのであるが、背景にあったのは、美食を全面に押し出すサン・セバスチャンの地域戦略のようだ。シリコンバレーがITに特化したように、サン・セバスチャンは料理に特化して、他地域との差別化を図ったのだ。その戦略が成功し、今や欧州を代表するレストランがいっぱいある世界一の美食の街に変貌したのである。人口一人あたりのミシュランの星数は世界一で、土地面積から考えるミシュランの星数も世界一だ。観光立国を謳う日本にとってはお手本とすべき街だろう。

事の発端は、サン・セバスチャンの若いシェフ達が始めた「ヌエバ・コッシーナ」(新しい料理という意味)である。従来のクラシックな料理法ではなく、地元の素晴らしい素材を活かしながら新しい技術を使って見たこともない料理を作り上げていったのだ。代表的な技術は、凝固剤を使った「テキスチャーシリーズ」、何でも泡状にする「エスプーマ」や、料理を真空状態にして加熱させる「真空調理」などである。同じ技術を適用させて生まれ変わる日本の和食を見てみたくなる。

最近、歴史・文化・食に興味ある外国人から京都の次に訪問すべき日本のオススメ観光地はどこか聞かれ、頭を悩ますことがある。日本の観光地は、ゆるキャラか歴史上の偉人を目玉にしていることが多く、いわゆる上流階級の外国人向けではないのである。九州や東北など歴史・文化・食の三拍子がそろっている場所は少なからずあるが、いかにも「伝統」という感じがして、外国人が求める斬新さはあまりないのが現状な気がする(唯一思いつくのは21世紀美術館を擁する金沢。他にオススメのところがあったらtwitterなどで教えて下さい)。

日本の山河豊かで美味しい食材が採れる小都市も、サン・セバスチャンのように世界的な観光都市に成長できる可能性は十分にある。ぜひ本書を読む人が増えて、日本に世界的に有名な観光都市が増えて欲しい。それにしもて本書の著者である高城剛氏というと女優 沢尻エリカの元夫というイメージしかなかったが、なかなかの書き手である。

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