『トヨタがF1から学んだこれだけのこと』プロジェクトマネージャー必読書

久保 洋介2012年09月05日 印刷向け表示
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トヨタがF1から学んだこれだけのこと
作者:赤井 邦彦
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2012-06-14
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2009年末、トヨタ自動車は苦渋の決断を下した。10年以上手塩に育て、優勝まであと一歩のところまで成長したトヨタF1チームを解体することを決めたのだ。F1撤退の記者会見にて見せた豊田社長の険しい顔、隣で悔し涙を流す山科専務の姿は記憶に新しい。

トヨタがF1に参戦したそもそもの発端は、1997年6月11日に奥田碩社長(当時)が発した「F1はどうだ?」という一言だ。奥田社長はトヨタのブランドイメージに「格好良さ」「若さ」を加えるため、F1参戦の提案をした。奥田社長発言直後、トヨタは全社プロジェクトとしてF1チームを組成し、2002年のデビュー戦にこぎつける。その後、なかなか結果が出ない時期が続くが、2009年シーズンでは2位表彰台にコンスタントに乗るようになり、次シーズンは初優勝できると期待されていた。

しかし、F1チームの好調とは裏腹に、トヨタ自動車本体の業績は、リーマンショック後の世界同時不況と影響の煽りを受け、急激に悪化。09年3月期には▲4369億円という未曾有の赤字に転落した。59年ぶりの赤字を経験したトヨタの豊田章男社長は、年間数百億円を要するF1活動からの撤退を決断せざるをえなかった。

本書は、1997年から2009年までの間、トヨタが全社プロジェクトであるF1参戦をどのように推し進めたのかを、プロジェクトを牽引した人たちの視点をもとに書き記す。「石橋を叩いて渡る」と言われる巨大企業トヨタが、その対極にあるF1に参画する過程では、プロジェクトに携わった人たちのたくさんの汗や涙や笑顔がある。経済・経営用語を並べるのではなく、彼らの人間ドラマを軸として物語風に仕上げているのが本書の醍醐味だ。

プロジェクトメンバーには実直で真面目な人が多い。例えば、トヨタF1推進母体であるTMGの会長兼チームリーダーの冨田務。冨田は、最強のマシーンを作るために、1999年、タイヤメーカーのミシュランに足繁く通うこととなる。ミシュランは1984年以降F1から撤退していたが、そんなミシュランを冨田が口説き落とし、彼らがトヨタのためにF1に復帰することを約束させた。冨田の粘り強く、熱意を持って交渉する姿は本書に何度も登場し、彼の仕事にかける情熱が伝わってくる。

その他、撤退の決断を下した豊田章男社長や、経営者は会社と従業員を守るという姿勢を崩さず「日本人より日本人的」と言われるジョン・ハウエットTMG社長、F1チームを守ろうとMBOを計画した木下TMG副社長など、それぞれの登場人物にドラマがある。読者は、各登場人物のドラマを通して、トヨタF1プロジェクトの成功と失敗の経験を学ぶことができる。自らの組織内にプロジェクトのファンを獲得できず、社内からサポートを得にくかった等、プロジェクトマネージメントを担当するビジネスマンにとっては必読書かもしれない。

本書を読んでいると、あと1年間F1を継続していれば表彰台の頂点に登れたのに、と思う。行間から滲み出る筆者の無念さが伝わってくる一冊だ。

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