『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』を双六のように読む

内藤 順2012年09月11日 印刷向け表示
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137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史
作者:クリストファー ロイド
出版社:文藝春秋
発売日:2012-09-09
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あらためて言うようなことでもないのだが、拙宅の本棚が大変なことになっている。毎月ハイペースで本を購入し続けているわけだから当然と言えば当然なのだが、スペースの確保以上に頭を悩ましているのが本の並べ方である。

いつもジャンル毎に分けるべく整理を始めるのだが、いかんせん買う本のカテゴリーに偏りがあるため、やがてそのルールも破綻。いつの間にか買った順番に置いていくだけの、物置きスペースへと成り下がってしまうのだ。

理想はこうだ。たとえば本棚の中には歴史という名の付くものだけでも、宇宙誕生の歴史、生物の進化の歴史、人類の歴史、文明の歴史、科学の歴史など、さまざまなものがある。これらの本と本との間に隠れた相関関係を見出し、シナジーの働く並べ方にしたいのである。

同じようなことを考えている人が、世の中にどれくらい存在するのかは分からない。だが、読んだ本同士を相対的に位置づけ、俯瞰して眺めてみたいと思う人は意外に多いのではないだろうか。本書は、このようなニーズを満たすには、うってつけの一冊でもある。

『137億年の物語 宇宙が始まってから今日までの全歴史』というタイトルの通り、

・第一部 母なる自然(137億年前~700万年前)
・第二部 ホモ・サピエンス(700万年前~紀元前5000年)
・第三部 文明の夜明け(紀元前5000年~西暦570年ころ)
・第四部 グローバル化(西暦 570年ごろ~現在)

と、大きく四つのブロックに分かれており、その中で42のテーマが論じられている。

これは、世の中に数多ある歴史本を全て包含するという壮大な試みのようにも思える。本書を参考にすれば、こと歴史と名の付くものに関しては、本棚の意味が書き換えられてしまうような、強烈なインパクトを持っているのだ。

著者は5歳と7歳になる二人の子供を学校ではなく、家で妻とともに教育を始めたそうだ。その中で自然科学と歴史を双方向から教える必要にかられたのが、本書の執筆のきっかけとなった。そのため電話帳のような見かけとはうらはらに、オールカラーで図版も約500点と非常に読みやすい。

人類を起点に考えると遥か彼方の周縁部分に位置するであろう、ビッグバンや人類誕生以前の時代から歴史を連ねてみるということは、人類の歴史を相対的に見ることになり、引いては別の角度からものを見るということにもつながる。地球上で最初に紙の発明を行ったのは、中国人ではなく数千年前の狩りバチであったし、グローバル化の起源を辿っていくと2億5000年前のパンゲア大陸まで行きつくのだ。

情報の並べ方によって、新しい意味が生まれる。それは本書のページ脇からも伝わってくる。宇宙誕生137億年の時間を、24時間時計に置き換えたものが全てのページに表示されているのだ。ビッグバンを0時0分0秒とすると、生命の誕生は5時19分48秒。恐竜が登場するのが22時24分00秒。23時59分59秒になって、ようやく狩猟採集民が登場。われわれの文明社会など宇宙の歴史に比べると、最後の一秒足らずの「瞬間のドラマ」に過ぎないということを、ページをめくるたびに思い知らされることになる。

歴史が時間を追うにつれ複雑化していくように、本書もページが進むごとに内容は厚みを増していく。さらにその中の情報同士には、無数のハイパーリンク構造のようなリファレンスが張り巡らされている。おかげで進めば進むほど前のページに戻ったりと、まるで双六(すごろく)でもしているかのようであり、なかなか前へ進まない。

たとえばP285から始まる第4部のグローバル化。最初のテーマは「イスラームの成立と拡大」である。イスラム教はコーランを通じて神と直接つながることができ、聖職者や教会などの複雑な儀式も必要とされなかったことから、遊牧民によって急速に広められていったというのは、よく知られた話だ。

これらが「チンギス・ハンの大帝国」へと移り変わっていくP310までも、順当な流れである。しかし、この遊牧民が世界史に登場するまでの背景には気になる点がある。1200年ごろになると、小氷期のはじまりとなる気候変化がおき、一転して気温が下がり始めたというのだ。

こんな話、前のページにも書いてあったなと思い、遡っていくとP211に答えは見つかる。ユーラシアステップの環境が厳しくなると遊牧民は侵略者と化し、古代のペルシア人やギリシア人が嫌というほど経験したように南や西に押し寄せ、定住文明を乗っ取りにかかるのだ。

こうした古代からの対立を引き起こした原因は、「水循環」という最も重要な自然現象のきまぐれな性質にあるそうだ。これも当然のように気になり、さらに遡っていくとP26の「地球と生命体のチームワーク」という章まで行き着く。このように頁が進んでも進んでも、いつの間にか前のページへと戻っているのだ。

しかし過去へと遡ってばかりもいられないので、ページを進めてみる。栄華を誇ったモンゴル人は元来、草原の遊牧民であるため、農業をないがしろにして、やがて農民の若者の反乱によって陥落させられてしまう。(P338)そして、そのころヨーロッパでは海の遊牧民とも言える海洋冒険家たちによって、世界の地図が塗り替えられようとしていたのだ。(P360)

はたして、その行く末はどうなったのか?船を橋の代わりとして孤立していた大陸同士を結びつけ、人工のパンゲア大陸として振る舞うようになった地球は、2億5千年前の恐竜たちが生存していた時代と同じような問題を抱え始めることとなったのだ。(P60)ちなみに、いつの間にかページも前の方へと大きく戻っている…

このように大きな流れを追っていくと、移動型と定住型という民族間の争い、そこに絡み合う自然現象という2つの要素が、何度となく繰り返されていることに気付かされる。宇宙生誕からの137億年の歴史を超俯瞰的な視点で眺めてみると、まさに「やり直しの繰り返し」なのだ。

その中でも着目したいのは、人間と自然との相関関係という点にある。動物や植物にも人間と同じように霊魂が宿っているとされたアニミズム全盛の時代から、唯一神を敬い人間中心の考え方をするようになった三大宗教の時代への変化。自然に恐れをなして神のように敬い芸術を捧げた先史時代から、自然の制約を克服するための発明・テクノロジーが次々に生まれきた現代まで。

このような人間と自然の関係における重心の変化を追うことは、これからの人類の在り方を占う重要な道標となるのだ。そして本書の全編を通して投げかけられているのは、現在の人類の姿が自然にとっての最適解なのかということでもある。

さらに言及しておきたいのが、最終章「世界はどこへ向かうのか?」でのこと。著者は日本語版が出版されるにあたり、福島第一原発事故に関する記述を付け加えたそうだ。そしてこれを受け、英国版も同様にに書き直されることになったのであるという。我々がまさに今、歴史と現在の交差するポイントに立っているというダイナミズムを存分に感じとることができるのだ。もちろん11年前の今日、何が起こったのかも記されているということは、言うまでもない。

本は10冊同時に読め!』とは、我々HONZメンバーにとって社是のような言葉である。しかし本書に限って言えば、この1冊で10冊分の本を乱読したに匹敵するような効能が得られるのではないかと思う。やはり137億年はダテじゃない。本書は用法・用量を守って、正しくお使いください。

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地球の論点 ―― 現実的な環境主義者のマニフェスト
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1880年から1990年までの110年間のうち、48回は異常気象の原因とされるエルニーニョ現象やラニーニャ現象が発生しているのだという。気象が異常な時には、やはり特異なことが起こっている。そんな異常気象が、どのように世界の歴史を動かしてきたのかという一冊。

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