『幕末下級武士のリストラ戦記』

成毛 眞2009年01月28日 印刷向け表示
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幕末下級武士のリストラ戦記 (文春新書)
作者:安藤 優一郎
出版社:文藝春秋
発売日:2009-01
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1984年に『元禄御畳奉行日記』という本が出版され話題となった。著者は後に『縛られた巨人』で南方熊楠を世に知らしめた神坂次郎だ。この『元禄御畳奉行日記』は尾張藩のある侍があまりに詳細で、赤裸々に身の回りを書いた日記を紹介した本なのだが、とんでもなく面白いものだった。この本を読んでから、少なくとも江戸後期は近世というより近代だという感覚を持ったものだ。近代としての江戸があったからこそ、明治の富国強兵も簡単に達成されたのだと思う。

この『元禄御畳奉行日記』に刺激されたのか、次の年に『幕末下級武士の記録』が出版される。『幕末下級武士のリストラ戦記』はこの本のネタ本である山本政恒なる一幕臣の子孫宛の文書を現代風にアレンジしたものである。山本政恒は挿絵も自分で描き、天保から明治までの自分史を詳細に書き記した。

この山本政恒の生涯を簡単に説明すると、御徒(かち)という幕府の下級武士の三男として生まれ、養子に入ることで正式に御徒になるが、大政奉還によって静岡に転封した徳川宗家に付き従い、廃藩置県でますます食えなくなり、はからずも群馬県の官吏に採用され、定年近くになって江戸に戻って帝国博物館に勤務し、76歳で亡くなるというものだ。途中、内職で食いつないだり、小間物屋などもして糊口をしのぐ。

もちろん、本書の主旨どおり大政奉還前後の下級武士の生活も興味深いのだが、侍にまつわるうんちくも面白い。将軍警護を担当していた下級武士である御徒の面々には黒羽織が数年に一度支給されたのだという。将軍の外出時に賊に襲われることを想定し、その時には御徒全員で将軍と同じ黒羽織を着て、誰が誰だかわからなくすることが目的だったというのだ。カラスのような黒い侍がワラワラと走り回る様が目に浮かぶ。面白しろすぎる。

子供の手習いは毎月1日、15日、28日のみが休みで、朝8時から午後2時までの授業だった。手習いとは別に算術の塾と水泳も別に習っている。この頃の子供も小学校と進学塾とスイミングスクールに通っていたのだ。本書によれば明治の役人の70%は全人口で5%しかいなかった武士階級の子弟だったという。明治も読み書き算盤こそが、行政における立身出世の道だったのだろう。これも現代と同じ風景である。

この侍には資金さえあれば簡単になれたようで、五稜郭に立てこもった榎本武揚も父親の代に御徒の株を買ったのだという。価格は500両だからいまでは5千万円位なものであろうか。滝沢馬琴も孫のために同心の株を買っていたらしい。ちなみに、その子孫の一人がボクの部下だ。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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