『ハチはなぜ大量死したのか』

成毛 眞2009年02月01日 印刷向け表示
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ハチはなぜ大量死したのか
作者:ローワン・ジェイコブセン
出版社:文藝春秋
発売日:2009-01-27
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ブログ更新が遅れたのは、この本に手間取っていたからだ。読みにくかったわけではない。唖然とするほど内容が膨大で、理解しながら読むためには時間がかかったのだ。アメリカで蜂が大量に失踪していることを知ったのは一昨年の2月のことだった。テクノバーンの記事で読んだのだ。本書はその蜂の大量失踪の謎を追った本である。

2007年春までに北半球から1/4の蜂が消えた。アメリカでは240万コロニーのうち80万コロニーが壊滅した。300億匹の蜂が死んだのだ。ヨーロッパでも南米でも蜂は壊滅した。ここでいう蜂とは養蜂家が飼っている蜜蜂のことだ。蜜蜂の数が減ると、養蜂家が破産し、蜂蜜の価格が上がるという程度の被害ではすまない。蜂が受粉することで実をつける作物が壊滅することになる。ほとんど全ての果樹類やキュウリなどのウリ類、コーヒーやカカオも昆虫受粉が必要だ。オリーブとブドウ以外の果実が口に入らなくなるかもしれないのだ。

著者は蜂を壊滅させた犯人探しをするのだが、結論をいうと人間が作り出した複合的な環境変化だということになる。驚くのはその複合的な環境変化のほとんど全てを本書は丁寧に説明していることなのだ。農薬についての章では、農薬と蜂の関係だけでなく、農薬グループごとの作用メカニズムの説明までしてくれるので、それだけで1冊分の本に匹敵する。もちろん、他の要素としては寄生虫やウイルス、蜂の労働環境におけるストレス強化などはじめて聞く話が満載だ。

本書は犯人探しの前に、蜂という生物はどういうものなのかを説明する。いくつかエピソードを紹介しよう。アフリカの蜂蜜ハンターは「ミツオシエ」という鳥を利用して蜂の巣を探すらしい。この「ミツオシエ」は蜂の巣が大好きだが、攻撃する武器を持たない。そこで蜂の巣を見つけると人間の前に現れて騒ぎ立てて蜂の巣まで案内するのだという。

働き蜂は数ヶ月の命しかないが、幼虫である5.5日間に体重は1300倍になる。蜂に爆薬の匂いがするところに砂糖水があることを覚えこませるのに2日間しかかからない。その蜂を利用して地雷探査をさせると97%の精度で地雷発見することができる。もう「ガッテン」スイッチ押しまくりだ。

カリフォルニアのアーモンド農場で大量に蜂を使っていることは知っていた。そのアーモンド農場が蜂にストレスを与えていることも知っていた。しかし、その規模とメカニズムは全く想像すらできないものだった。アーモンドの花の受粉可能性が最大になるのは開花日であり3日後には受粉可能性はゼロになる。アーモンドは同じ木に咲いている花同士では受粉できないので、2種の品種を植えてある。そのため蜂は3日間に大量の木を行き来して、全ての花を受粉させる必要があるため、巣箱はいわば過飽和の状態で大量の置かれることになる。

問題はその規模なのだ。信じられないことにアーモンド農場の広さは2800平方キロだ。カリフォルニアの中央部に最大幅500キロのベルトが作られた。そこには短期間に150万箱の蜜蜂の巣箱が設置されることになる。2007年には蜂が大量死したので、養蜂家はアーモンド農場に巣箱一個を200ドルで貸し出している。つまり、アーモンド農場は受粉料だけで300億円ほどの費用を支払うことになるのだ。この蜂箱のレンタル料はアーモンド生産コストの20%になるのだという。

それでは世界で最も危険な農薬を無制限に使っている中国のアーモンド農場はどうなっているかというと。虫は当然死滅しているので、人間が木によじ登って受粉をする「人間蜂」を利用している。ともあれ、少なくとも本書の読者は中国産蜂蜜はもう絶対に食べなくなる別の事実も紹介される。

本書は単なる犯人探しサイエンス本ではない。テーマは蜂の大量死なのだが、福岡教授のいう生態系の動的平衡に目を向けさせることこそが目的だと思われる。素晴らしい出来の本だ。

ところで、最後のほうで紹介されるイチジクのお話などもあまりに濃すぎて、もう止めてと言いたくなるほどだ。しかも、筆者は本文だけで書ききれない情報を取材していたためか、付録を4本追加している。その1本だけでも1冊の価値があると思うほどだ。

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