『江戸の病』

成毛 眞2009年04月20日 印刷向け表示
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
江戸の病 (講談社選書メチエ)
作者:氏家 幹人
出版社:講談社
発売日:2009-04-10
  • Amazon
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • 丸善&ジュンク堂

アマゾンで「江戸」をキーワードに「和書」を検索すると1万点を超える書籍がヒットする。大型書店では江戸物コーナーが常設されていることがあたりまえだ。ボクは1955年生まれなのだが、大政奉還があったのはそのたった88年前の1867年のことだった。少なくとも幕末は近世というよりも、明治に続く近代だと思うのだが、服装も、言葉遣いも、もちろん社会性制度も全くことなる時代であったがゆえに、人々は興味を持ち続けるのであろう。

タイムマシンがあれば江戸時代には是非行って見たいのだが、住んでみたいとは思わない。病気になったら諦めるしかない時代だったからだ。その実態をまとめたのが『江戸の病』だ。著者は『かたき討ち』や『殿様と鼠小僧』など、江戸時代の風俗の一つにテーマを絞り、マーケティングのリサーチレポートのように記述する研究者だ。歴史読み物が好きな人からは評価が低いようだが、マーケッターとしては読みやすく、資料性もあって好ましい。

江戸時代には感染症に対する知識も治療法もなかった。病が流行っていることは判っても、微生物などに対する知識がないのだから、感染経路など知りうるはずもない。まもなく明治という文久2年(1863年)にはコレラとハシカのミックス流行が発生し、江戸だけで23万人が死亡したという。4人に1人が死亡したことになる。天然痘も流行したが、本書によれば天然痘よりもハシカのほうが恐れられていたという。

梅毒もすごい。旧江戸市中から出土した900以上の頭蓋骨を調べた古病理学者によると、梅毒患者は54.5%に達しているらしい。江戸っ子の2人に1人が梅毒だったというのだ。この梅毒に効能があるとして草津温泉や有馬温泉は大変な人気があった。医師の杉田玄白は梅毒の薬として塩化第二水銀を処方しており、年収は643両にも達した。現代の価値にして6500万円になる。

この現状に対して医術は無力だった。サギ師と区別がつかない医者が町中にはびこるなか、庶民は自宅に薬草や薬木を植えて自衛した。母乳をやり取りし、薬草も融通しあった。薬屋も現代からみると出鱈目で、鶴やキツネの肉も薬として売られた。現代でも人気のある葛根湯なども使われていたが、これも庶民が自家製造していたらしい。

「あとがき」で著者がいうように、じつは本書は「江戸の病と情」の本だ。病気に対して達観していた江戸人は家族や友人、主従が互いに思いやりもって補いあっていたことが資料から見てとれる。

記事へのコメント コメントする »

会員登録いただくと、記事へのコメントを投稿できます。
Twitter、Facebookにも同時に投稿できます。

※ 2014年3月26日以前にHONZ会員へご登録いただいた方も、パスワード登録などがお済みでない方は会員登録(再登録)をお願いします。

コメントの投稿

コメントの書き込みは、会員登録ログインをされてからご利用ください。

» ユーザー名を途中で変更された方へ
 変更後のユーザー名を反映させたい場合は、再度、ログインをお願いします。

ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
作者:
出版社:中央公論新社
発売日:2014-10-24
  • Amazon
  • Amazon Kindle
  • honto
  • e-hon
  • 紀伊國屋書店
  • HonyzClub

電子版も発売!『ノンフィクションはこれを読め! 2014』

HONZ会員登録はこちら