『その科学が成功を決める』

成毛 眞2010年02月10日 印刷向け表示
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その科学が成功を決める
作者:リチャード・ワイズマン
出版社:文藝春秋
発売日:2010-01-26
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本年のMYBEST10の一冊に残る本かもしれない。なにしろ、たいがいの自己啓発書やセミナーは間違いであるばかりか、人の自身や幸福にまで悪影響を与えかねないというのだ。そこで、著者はちゃんとした自己啓発書を書いたというのが本書だ。厚顔にも、ビジネス書は役に立たないので読むな、というビジネス書を書いた人が日本にもいたことを思い出した。

まずは本書が否定する、「はじめに」で紹介されている簡単な事例だ。マイナス思考を頭から占めだしてひたすら「自分は幸せだ」と思う方法は、逆に不幸せを招く恐れがある。何人かが集まってアイディアを出しあう集団思考の方法は、個人が1人で考える場合にくらべて、独創的なアイディアが出にくい。枕を叩いて大声でわめくという方法は、怒りやストレスを解消させず、むしろ増やしてしまう。などだ。

本文は

「自己啓発」はあなたを不幸にする

「面接マニュアル」は役立たずだった!

イメージトレーニングは逆効果

まちがいだらけの創造力向上ノウハウ

婚活サイトに騙されるな

ストレス解消法のウソ

離婚の危機に瀕しているあなたに

決断力の罠

「ほめる教育」の落とし穴

心理テストの嘘を実

の10章仕立てである。

とても、イギリス人の心理学者が書いた本とは思われない。訳者が優れていることもあるのだが、日本人が関心のある問題とまったく同じだ。どの国でも人々は同じようなことで悩み、同じような本が売れているのだ。

幸せになるための「自己啓発」を扱った第1章では、いろいろな自己啓発法と心理学研究を取り上げたあと「明るい気分になりたければ、自分は幸せだと思って行動すること。」と結論づける。そして成功へのステップとして、お金については「買うなら品物よりも体験を」「お金を使うなら自分以外のことに」、幸福感については「微笑む」「背筋を伸ばす」「楽しげにふるまう」などの具体的な行動を挙げて章を閉じる。そのとおりだと思う。

第2章の「面接マニュアル」では「面接では学校の成績や仕事の経験よりも、好感度がものをいう」「自分に弱点がある場合、口に出すのを面接の最後まで引き延ばさない」「大きなミスをしてたと思っても、過剰反応しない」など、まずは心構えを教えてくれる。そして「フランクリン効果」「失策効果」「噂話」などを取り上げる。

「フランクリン効果」とは人は自分が力を貸した人を好きになるという法則。「失策効果」とはときどきヘマをすると好感度がアップするというもの。そして「噂話」ほかの人の噂話をすると、聞き手はあなたを話の中の人物に重ね合わせて考えるというものだ。じつはボクもいろいろなところで、若い時は無理やりにても借りを作れと言っていたし、悪い噂話はご法度とも言っていた。心理学的にも有効だったのだ。

本書ではさらに好感度を上げるためには「面接官にはためらうことなく敬意をしめす」、「仕事以外の話題で雑談する」、「グループ面接では真ん中に座れ」などのテクニックもについても心理学研究を引き合いにだして教えてくれる。就活生はいますぐこの章だけでも立ち読みするべきかもしれない。

じつは今週末にも就活のテクニックを本ブログで取り上げてみようかと思っていた。就活生は少し待たれよ。忘れてなければ書く。

第5章の「婚活」も面白い。デートはドキドキする場所に行けという。文字通り心臓がドキドキするところであり、ローラーコースターやサイクリングなどだ。自分の心臓がドキドキするのは相手のせいだと感じてしまうのだという。これは絶対に言えてる。ははは。

二の腕に触れる効果についても心理学実験を引き合いに出しながら高く評価してる。心理学的には相手に触れる側のステータスが、触れられる側のそれよりも高いというシグナルであるというのだ。これも言えてる。いえてるいえてる。あはははは。なぜここで笑うかは問うてはならない。

いささか短絡的だが、婚活が成功したら次は子育てだ。第9章は子育て心理学である。著者は音楽を聞かせても子供の知能は向上することはないという。しかし、楽器を習うと思考力は養われるというのだ。もちろん、著者は音楽的素養そのものについて語っているわけではないから読むときは要注意だ。こどもの褒め方について具体的だ。結果を褒めると失敗を恐れるようになる可能性がある。しかし。努力を褒めると困難に直面してもくじけなくなる。ビルゲイツは部下が全力を尽くしたときは、大失敗しても怒らなかったことを思い出した。

最後に本書のタイトルである「59秒」でできる10のことがらを「あとがき」で示す。明らかにイギリス人特有のジョークである。あまたの自己啓発書を否定しておいて、自己啓発書の形式で本書を締めくくったのだ。取り上げられてる心理学実験の評価や、心理学書としての本書の価値などについて疑問視するひともいるかもしれない。しかし、著者の前身はプロマジシャンである。騙されるつもりで読んでみても間違いなく損はない。

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