『レジリエンス』 立ち直る人やモノたち

高村 和久2013年03月19日 印刷向け表示
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レジリエンス 復活力--あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か
作者:アンドリュー・ゾッリ
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2013-02-22
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物事は、なぜ立ち直るのか。

ハイチ地震の発生後、数千人規模の「ミッション4636」を数日で立ち上げた若い学生達は何をしたか。ホロコーストで残酷な光景を目にした孤児たちは、なぜ、その後の人生を幸せにコントロールできたのか。アルカイダや米軍が研究する「ネットウォー」とは何か。それは、どのように「結核菌」に似ているのか。都市を活性化させているものは何か。人が人を信頼し、協力関係が生まれるのは、どのような場合か。シカゴで暴力の連鎖を止めるために、エイズやコレラに対処するための疫学はどのように役立ったのか。ボルネオ島の露店から瀕死の赤ん坊のオランウータンを奪って走ったオランダ人研究者は、熱帯雨林を再生するために何を成し遂げたか。

Resilience(レジリエンス)は復活力、回復力などと訳される。これは、単に頑強や冗長を意味するものではない。柔軟でアドリブ的で、単なる復旧ではなく異なる形での回復を成し遂げる能力を指す。未来学者のアルビン・トフラーと経営学者ヘンリー・ミンツバーグは、このような復活力を生みだす組織の特徴を「アドホクラシー」と呼んだ。そこには、インフォーマルな役割分担、ステレオタイプな業務の回避、即興性、素早い循環サイクル、分散化、権限委譲などが見出される。本書はそれを、ジャズに喩える。

頑強に思われたシステムがじつは脆弱だったという例は多い。ハリケーンによって荒らされた海を生き延びたサンゴは、一見小さな事件が原因で死滅することになった。軍の研究が発祥であり破壊に強いと思われたインターネット網は、逆に、不要な情報を大量に流す攻撃に対処しきれなかった。崩壊の予兆はある。リーマン・ショックの前、2004年から2007年にかけての絶頂期において、金融セクター全般の企業業績の90%以上が連動していた。このような「同調性」は、逆説的に安定性を失う結果に結びつく。

レジリエンスを発揮するシステムの特徴は「多様性」だ。これを高めるためには、分散化しつつ密集度を高めるのが良い。ネズミや人間、ゾウに適用できるスケーリング則について研究していた複雑系の研究者ジェフリー・ウェストは、研究成果を、生物以外、つまり、「都市」や「企業」にあてはめた。ニューヨークは、巨大なクジラなのか。グーグルは、ゾウに似ているのか。明らかになったのは、都市にも普遍的なスケーリング則があることだった。都市の大きさが倍になると、さまざまなものが15%ずつ成長していた(IT化が進む現在、都市に限らないかもしれない)。このように都市は「超線形」に成長していくが、なんらかの手段を講じない限り、成熟化が回避できない。順調に機能している都市は「多様性」を凝縮することによりイノベーションを喚起し、来るべき混乱に備えている。

“ 都市の最大の魅力は、見渡せばクレイジーな人々がごろごろしていることです。”

“ 都市とは認識の多様性が高い場所と言い換えてもいいでしょう。なかにはどうしようもない連中もいますが、誰もがそうではありません。

クレイジーな人々は、ありとあらゆるアイデアが花開く土壌を提供してくれるのです。都市が成長するにつれて社会は多層化する。開放的な都市は、新たな機能や機会を提供し、人々を結びつける。それこそが繁栄する都市の活力や熱気の鍵と言えます。”

レジリエントなシステムは、テロ組織や病原菌のような「悪人」にも認められる。これらは根絶しようとしても生き延び、不利な時期は休眠し、機が熟すと、高度に統制がとれた集団を形成して攻勢に転じる。このような「ネットワーク型」の組織形態が有効で、全く新しい戦闘様式が可能になることが、約20年前から米軍で認識されるようになった。この特徴を発揮させるためには、システムをモジュール化し、ネットワークを構成し、ゴールを提示し、オープンな規則で連携すればよい。これにより、構成員は自律的に活動し、混乱を予期し、活動規模を自分で調整し、必要に応じて局所的な活動に移行したり、異常個所を分離できるようになる。

個人の回復力についてはどうか。エリザベス・キューブラー・ロスの5段階、つまり、悲しみを乗り越えるための「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」「受容」の5ステップは著名だが、実際には定量的分析によって検証されていなかった。心理的回復に関する10年間の検証の結果、予想に反し、20%の人々が愛する人との死別から自然に回復し、45.9%には衰弱を伴う程の悲しみがみられなかった。これは感情や悲しみの欠如を意味しているわけではない。誰もが深い悲しみを感じたが、前に進む人が何割か存在する。自然と立ち直ったのだ。回復力が高い資質を持つ人は「自己統制力」と呼ばれる特徴を持つことがわかった。自己統制力とは、将来の目標のために喜びを先延ばしする能力を指す。ある種の瞑想がレジリエンスを高めることもわかった。脳には可塑性があり、大人になってからでも気質を変えることが可能であると言う。

組織はどうか。本書は、リーマン・ブラザーズを救済する銀行が現れなかった理由を信頼ゲームの理論を用いて説明し、協力と信頼が生まれる組織について考察する。組織をインフォーマルに乗り越え自由自在に活動する「通訳型リーダーシップ」の存在も重要だ。パラオのサンゴ礁再生の例において、「通訳型リーダー」は漁師のコミュニティとダイビング観光のコミュニティを繋ぎ、欧米の生態学者と交流をする橋渡し役になり、最終的に、環境使用税によって収入を得る国家への変換を主導した。「ミッション4636」や、シカゴの暴力抑止、スマトラの熱帯雨林再生の活動家にも、同様の資質が見られた。彼らは、当初はハブとなり仲介し、続いて間接的なリーダーに転じて「ネットワークを織りなす」。

著者のアンドリュー・ゾッリは、『Makers』のクリス・アンダーソン、『ブラック・スワン』のナシーム・タレブ、『フラット化する世界』のトーマス・フリードマン、『天才!』のマルコム・グラッドウェルなどが参加するイノベーターネットワーク「PopTech(ポップテック)」のエグゼクティブ・ディレクター&キュレーターであり、ナショナル・ジオグラフィック協会のフェローでもある。そんな人であるから、本書で紹介されている事例自体が多様性に満ちている。イワシの消滅原因を調査していた研究者は、それをファイナンスに応用して『ネイチャー』誌に発表した。お金の循環が生物の「栄養網」の概念と似ていたのだ。シカゴで暴力問題に取り組んでいる活動家は、以前はサンフランシスコ総合病院に勤務しており、後にエイズと呼ばれることになる病気の封じ込めにあたっていた人だった。最後に紹介されているのは、ハリケーン・カトリーナの被災地でカジノの廃墟からお札を回収し、文字通り洗浄(ロンダリング)し、アイロンをかけて住民に貸し出した「銀行」ハンコックの話だ。今現在も、意外な活動がどこかで起きているのかもしれないと思えてくる。

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