著者インタビュー タイツくん 松岡宏行さん(前編)

土屋 敦2009年06月01日 印刷向け表示
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タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム
作者:松岡 宏行
出版社:大和書房
発売日:2009-05-08
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タイツくん 哀愁のジャパニーズドリーム

週刊SPA!などの雑誌メディアでおなじみのタイツくん。名前を知らなくても、一度見たら忘れない全身タイツ姿のイラストに、仕事や恋愛の本質をピンポイントで突くひと言が添えられた励行カードを覚えている人は多いと思います。

本書は、イラストレーター高橋潤と共にタイツくんを生み出した、松岡宏行さんの起業の経験を語ったもの。

いわゆる起業本、成功本というジャンルに入るのですが、いわゆるそういったジャンルの、「成功体験を語る」著者たちに比べると、松岡さんはそんなに成功してない(失礼)。しかし、起業には成功と失敗しかないのか。いや、その中間に、「ギリギリ、カツカツだけど、すごく楽しくて、充実した起業人生がある」と松岡さんは言います。これが本書のテーマです。

本の中身については、数々のブログでの書評やamazonのレビューなどがやけに的確なので(この件については松岡さんが「本を書いて一番よかったのは、ちゃんと読んでくれる素敵な読者たちにたくさん出会えたこと、と言っていた)、いろいろネットで調べて読んでもらうとして(あと今日発売の週刊朝日、書評欄の松岡さんインタビューも読んでくれると嬉しい)、この私的ブログでは、あまりに面白かったインタビューの内容をピックアップして、特にまとめるでもなく、たれ流し的に紹介します。

あっ、それから、このインタビューはこの本を読了後に読んだほうが、楽しめると思いますよ。


松岡宏行さんインタビュー(前編)


僕は成功しようと思って起業したわけじゃない。ほかにどうしようもなかったんで、最後の手段で起業したんですけど(注:どうしようもなくなった経緯は本を買うなり調べるなりしてくださいね)、もし成功と失敗のどっちかしかないんだったら、誰だって踏み込めないと思うんですよ。おっかなすぎて。


でも僕みたいにギリギリカツカツでやっている人って多いと思うんですよ。その人は成功なのかと聞いたら、「いや、もうちょっと成功したいよ」とたぶん言うんじゃないでしょうか。じゃあ失敗なのか、と言うと、「いやぁ結構楽しいけど」という人も多いんじゃないか。


成功と失敗の間に、ギリギリカツカツというのがあって、その層というのは本人的にはものすごく充実しているんじゃないかな、と。

ただ、僕は楽しいってことを言いたくて書いたんですけど、「苦労してるんだね」とか「哀感漂ってるね」という感想が非常に多かったんですけどね(笑)。実際、編集者の方も、原稿を読んで哀愁を感じる、といって、サブタイトルを「哀愁のジャパニーズ・ドリーム」とつけてきたんです。


充実しているということが、金がもうかるということじゃないんですよ。必ずしもすべて良いことばかりとは限らない。いい人にも出会うし、いやな人にも会う。でも、すべての出来事がすごく自分に降りかかってきて、サラリーマンのときの仕事と明らかに違うんですよね。結局失敗しても成功しても自分のせいだし、お客さんに嫌われても自分のせいなんですよね。そういうふうに責任が全部覆いかぶさってくるんですけど、それが楽しい。


この本を出してすごく良かったな、と思ったんです。

二つ返事で引き受けた割には、なかなか書けずに書いても行き詰まり、書いてもも気に入らなかったんですよ。

自分の話ばっかなんで、最初、思いついたことをだらだらと書き出したら、なんぼでも思いついて、年寄りのションベンみたいに止まらなくなるわけですよ。だらだらだらだらと細かいことが付け加えられてって。

でも読み返してみると、この本のどこに普遍性があるんだろうと。俺にとっては大切な過去の出来事だけど、他人が読んで、どこにそんなもんに価値があるのかと思ったときに、ああコリャダメだ、と思って。編集者から「松岡さんそろそろ書けてますか~」と連絡があったときに、「すみませんまた書き直しますわ」みたいな感じで、自己完結してしまって、また書き直したりして。

「結局2年以上かかっちゃった」と編集者に言ったら、「4年ですよ」といわれた。構想2年、着手2年かな。


ずっと考えていたのは、自分が書いて意味はあるけど他人たる読者が読んで価値があるか、ということ。読むに価するのか、すごく心配だった。

今も微妙に心配です。客観性、普遍性がどのくらいあるか、今もびくびくしているんですけど、幸いなことに、結構いろんな感想をもらったり、「共感できた」と言って下さる方が多かった。

素敵な読者たちが的確に読んでくださったということが、そして彼らが読むに足りる本を俺は書けたんだと思えたことが、すごく嬉しい。


素敵な人に褒められると最高に嬉しいよね。リテラシーの高い読者に褒められるのは嬉しい。昔は書き手は先生で読者はその高説を拝読する生徒みたいな感じだったけど、今は読者が頭がいい。集団知のレベルが高い。今の時代、本を書くときに「教えてやる」という姿勢が書くことはできないんじゃないですか。読者のほうが知っている、読者のほうが頭いいということがいっぱいあると思う。


俺の場合、北海道から出てきた熊戦略(注:これもそれがなんだか知りたい方は、本書を読んでください)、それが基本的に成功していると思うんですよ(笑)。自分が気取って、上からの目線で、ビジネスの基本教えてやるよ、みたいにいうと、すぐに「ざけろ! お前何知ってんだ」と突っ込まれるんじゃないかな。熊として正直に書いたら褒めてもらえた、という感じです。


自分の体験からにじみ出たものだけを書く。自分の体験からしか学べなかったが、そのことだけを書いたんだよね。それも「熊戦略」かな。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言があるじゃない。俺は完全に「愚者」だよね。経験からしか学べない。

(以下 次回に続く)




いい本を書く著者というのは、ものごとを真剣に突き詰めて考えていて、書いてあることが正直で嘘がなく、その上で自分を的確に客観視できていることが多い。松岡さんはまさにそんな人でした。

その後、話題が本から逸れつつ、より面白い話が聞けましたので。次回をご期待ください。


あとこの本のあとがきの絵日記の話、とてもいいです。必読。





 

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