『日本の路地を旅する』

栗下 直也2011年01月16日 印刷向け表示
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日本の路地を旅する
作者:上原 善広
出版社:文藝春秋
発売日:2009-12-15
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本書の「路地」とは被差別部落の意味である。著者は中上健次の小説に習い、被差別部落に「路地」という言葉をあて、部落が身近に存在することを指摘したかっという。確かに東京の外れに住む私は、関西と違い同和問題とは無縁で、被差別部落と聞いても、白土三平『カムイ伝』の印象しかないが、それは差別されない側の無自覚、無責任さなのだろう。

著者は大阪の被差別部落で生まれ育ったが、お涙頂戴の話ではない。主に江戸時代に大名などの移動に伴い、各地に、散らばった「路地」を自分の足で回ったルポだ。取材対象の人の職業も、食肉の解体業を中心に、太鼓や剥製の職人、芸能関係、ヤクザなど多岐にわたり、置かれている状況も千差万別だ。それがまた現代の被差別部落の問題を見えにくくしているわけだが、著者は自らの出自を明かし、当事者に迫ることで、ゆがんだ差別を浮き彫りにしている。地域ごとの被差別部落のルーツや、遠く離れた部落同士の交流なども丹念に取材しており、純粋に全国各地の被差別部落の歴史の資料として興味深い。

ただ、たまに紛れ込む、感傷的な記述に好き嫌いがわかれるだろう。著者は被差別部落で生まれながらも、本人は大きな差別を感じていないという。しかし、周囲にはなぜか不幸な人が多い。兄はわいせつ犯で服役、叔母は破産、父親は人格が破たんしている。「被差別部落の家族だからなのか」という叫びが行間ににじむ。自分の境遇にどう折り合いをつけるのか。著者にとって本書は、被差別部落の歴史を紐解くと同時に、見当たらない解を探す旅でもあったのだろう。

結果的に、本書は著者の代表作で各国の被差別部落の食に焦点を絞った『被差別の食卓』に比べると、主観が強く入り込んだ章もあり、若干、焦点がぼやけることになってしまっている。ただ、著者でしか持ち得ない動機がなければ、執拗に全国の被差別部落の臭いをかぎ回った本書は生まれなかっただろう。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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