人生は短いと言われるけれど『すべては「先送り」でうまくいく』

山本 尚毅2013年04月24日 印刷向け表示
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すべては「先送り」でうまくいく ――意思決定とタイミングの科学
作者:フランク・パートノイ
出版社:ダイヤモンド社
発売日:2013-03-29
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直感に反するタイトル、「先送り」という言葉に、よい印象はない。

TVでは、「いつやるか?今でしょ!」と連呼され、受験生でもないのに、その瞬間だけ、心が掻き立てられる。だけども、3秒後にはまるで、聞いていなかったかのように、コタツを出ることなく、TVの前に居座り続け、時間を貪り、ふと時計を見ると、罪悪感に襲われる。今年の流行語大賞で、アベノミクスとの一騎打ちと噂されている投げかけにも、先送りの誘惑には勝てない。

なぜなら、先送りは、人間である条件の一部である。先送りは食べることと同じくらいに基本的な行動である。先送りする行動を手厚く弁護してくれる本書は、小さい頃から親や先生の言いつけを守り、培ってきた心がけと良心を見事に破壊する。破壊された後に残るのは、人間は先送りをするという開きなおりと、新しい戦略「遅れのマネジメント」と「構造的先送り」である。その、戦略を一言に、凝縮すると「待て」である。

サーブが放たれてから、レシーブまで0.5秒しかないテニスプレイヤー、数秒の間にプレーの指示を出すアメフトのコーチ、初デートで相手を見抜く恋愛マスター、謝罪のタイミングを待つ大統領、時間を切り売りするノマドワーカー、バリエーション豊富な「待つ」戦略が本書には盛りだくさんである。今のあなたの状況に当てはまるヒントが、いずれかの事例から引き出せるはずである。

例を挙げていこう。投資の神様、ウォーレン・バフェットの戦略は長期的な視野に立ち、できるかぎり「何もしないこと」である。

我々の仕事は、行動を起こすことによって報酬が得られるわけではない。正しい判断をすることによって儲けが入るのだ。そのためにどれくらい待つかと問われれば、永遠でも、と答えよう。

バフェットは。景気の局面に左右されずに、可能な限り判断を遅らせる「遅れのマネジメント」の天才である。

イノベーションと先送りの関係性はどうだろうか。本読みには欠かせないツール、ポストイット、その発明はビジネスの成功物語として、多くの人に知れ渡っている。それは、あたかも一瞬のひらめきで生まれたユリイカ的なストーリーとして語られるが、事実は違う。それは一断面を切り取ったにすぎない。

3Mの化学者スペンサー・シルバーが粘着性のある微小性球体「くっつくもの」を考案し、社内で認知され、ポストイットとして商品化されるまでに、実に12年もの歳月がかかっているのだ。

シルバーによって開発されたくっつくものは、3Mの商品開発部に所属していたアート・フライに知らされることになる。3Mが所有する社員専用のゴルフ場でプレイしている最中にその話は飛んできた。イノベーションに欠かせない異花受粉が起こったのだが、その瞬間には、ぱっとしない(と思われていた)シルバーの研究を活かすアイディアは生まれなかった。

その5年後、フライが教会で賛美歌を歌っていたときに、歌集に挟んだしおりが落ちるのをみて、しおりがくっつけばいいのに!と思った瞬間に、例の微小体を思い出した。ついに、落ちないしおりという商品化の可能性が見えてきた。しかし、その発想は実を結ばず、更に数年の歳月が経った。粘り続ける2人は、社内でテストされ続けていた「くっつくしおり」が、それをしおりと知らない社員にメモ書きとして利用されていたことを発見する。「くっつくしおり」は「くっつくメモ」に鞍替えし、すぐにテストされ、人気を博した。しかし、上層部は首を縦に振らない。その後も、フライとシルバーは粘り続け、複数の都市でのテストを重ね、ようやく商品化されたのである。今や、累積販売数は1兆を超えている。

ここまで、2人が粘り続けられたのは、3Mの文化として根付いている15%ルールのおかげである。アイディアはじっくり育成する重要性を理解していた先見性のあるリーダーによって、1929年にスタートした。グーグルはそのルールを更に発展させ、20%を自由な発想を形にする時間に充て、エンジニアの発想を花開かせ、Gメールやグーグルアースを生み出した。しかし、2011年の後半に20%ルールは廃止された。効率性や短期業績の向上を優先し、長期的なイノベーションや未来の成長にあてがう時間が、イノベーティブと考えられている企業でも、失われはじめている。

急がば回れ、とわかってはいても、企業は短期業績の追求をやめられない。しかし、個人としては関係ない。自分のひらめきを数時間、数日で消滅させるのではなく、数ヶ月、数年とそのアイディアをこねくり回す時間と根気が必要である。ひらめきを育み形にするために、構造的に先送りするプロセスを体得し、チャンスを待つことがカギになる。

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ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか
作者:ピアーズ・スティール
出版社:阪急コミュニケーションズ
発売日:2012-06-28
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先延ばしのタイプは3つに分類できるらしい。「どうせ失敗すると決めつけるタイプ」、「課題が退屈でたまらないタイプ」、「目の前の誘惑に勝てないタイプ」。どのタイプもうまくいくのだろうか。栗下によるレビューはこちら

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