『戦闘技術の歴史 ナポレオンの時代編』 新刊超速レビュー

成毛 眞2013年05月07日 印刷向け表示
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戦闘技術の歴史4 ナポレオンの時代編
作者:ロバート・B・ブルース
出版社:創元社
発売日:2013-04-23
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創元社『戦闘技術の歴史』シリーズの第4巻である。第1巻は2008年8月に発行された『古代編』。2009年10月第2巻『中世編』、2010年10月『近世編』ときて、2013年4月に『ナポレオンの時代編』が出版された。このシリーズが完結する第5巻は『東洋編』で、この調子では来年か再来年であろう。

原書はThomas Dunne Booksから出版されている『Fighting Techniques of』シリーズだ。翻訳される5冊とは別に『Fighting Techniques of the Colonial Age』と『Fighting Techniques of Naval Warfare』が出版されている。じつはこの『Naval Warfare 海戦編』が一番面白いと思う。とはいっても、原書は海戦編しか持っていない。

このシリーズの特徴は図版が豊富なことだ。フルカラーの戦争絵画はもちろん、会戦鳥瞰図、装備や武器などの復元図などじつに興味深い。最新刊の『ナポレオンの時代編』でも、たとえばフランス歩兵の階級による軍服の袖章の違いとか、砲術班が曵き具で野戦砲を機動するときの教練図とか、イギリス歩兵大隊の密集隊形図とか、まあ今を生きていくにはまったく役に立たない図版がてんこ盛りである。

しかし、そそられるのである。男たちが当時の最新技術と筋肉で戦っていた戦争だ。ナポレオンの時代には銃や大砲が機動的に使われ始めたとはいえ、その大砲を撃つためには8人の屈強な男たちが必要だった。ましてや海戦とでもなれば、巨大な帆船を動かすために、戦闘員だけでなく何百人もの水夫が必要だった。(ちなみにイギリスの現在でも航海可能な戦列艦ビクトリー号のロープの総延長は42Kmである)

ところで、第2巻からの監修者は山形大学の淺野明氏になった。この淺野さんによる監修者序文が素晴らしい。たとえば

近世の戦争は多くの場合、国家間というよりは、王朝間の利害対立に端を発するものでした。軍隊は国王のために働く傭兵であり、その実態も傭兵体調の私兵に近いものでしたから、そこには国家や国民に対する愛や義務の観念が欠けてました。『ナポレオンの時代編』

ここには、まぎれもなく、戦争こそが日常で、平和が非日常であった世界で培われた文化の一端を見ることができます。戦争がひとつの文化であるとすれば、戦争の描き方にもまた、文化による創意があるのは当然でしょう。『中世編』

(スウェーデン国王グスタフ・アドルフは)窮地に立った自軍の救援に駆けつけて皇帝軍騎兵と接戦格闘を繰り広げ、ついに命を落とすのだが(中略)その戦死のありさまは、もはや戦争の醜悪さや善悪の判断を超越した、ある種の畏敬の念すら起こさせる壮絶なものでした。『近世編』

けっして歴史時代の戦争だからといって戦争を肯定しているわけではなく、戦争が日常であった時代の軍事史研究というこれまでとりわけ日本ではタブーだった研究を推し進めようという信念が感じられるのだ。淺野さんについて調べてみても、一般向きに書かれた著作はないようだ。編集者諸氏におかれてはお見知りおきたい。

本書とほぼ同時に中公新書から野中郁次郎編著の『戦略論の名著』が出版された。戦争を起こさないために、過去の戦争や戦略論を科学的に理解するという機運が出版界に出てくるかもしれない。安っぽいイデオロギーよりも、おぼろげな対話重視主義よりも、短絡な軍事プレゼンス強化よりも、まずは歴史から何事かを学ぶべきであろう。

戦略論の名著 - 孫子、マキアヴェリから現代まで (中公新書)
作者:野中 郁次郎
出版社:中央公論新社
発売日:2013-04-24
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