文化財に異変!?出動!『草魚バスターズ』!

野坂 美帆2013年10月15日 印刷向け表示
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草魚バスターズ
作者:真板 昭夫
出版社:飛鳥新社
発売日:2013-09-20
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京都。女友達と湯葉を食べに行ったことが1回、書店員仲間と抹茶パフェを食べに行ったことが1回。えーと、修学旅行で京都に行ったかもしれない。そんな近くて遠い古都は今頃紅葉見物の観光客で賑わっているのだろうか。嵐山、大覚寺に照るモミジを思う。キンモクセイの香りが漂う中を、散策できるように道がつけられているのだろう。夜は湖面に鮮やかな月が映り込んでいるのだろう。魚の跳ねる音がしたりするのだろう。フナか、コイか、もしかして、ソウギョかもしれない。

無理やりな導入失礼。こんな妄想風景が頭から離れないで困っている。しかも、この妄想、大覚寺大沢池の内部まで及んでいる。ソウギョがどのように回遊しているのか、ハスの生育具合、根、妄想が激しすぎてもう嵐山に行ったことがあるような気にさえなっている。それもこれも、本書のせいである。

旅行情報誌サイト京都府の観光スポット人気ランキングでも常に上位の嵐山は、平安時代に貴族の別荘地となって以来、京都を代表する観光地として名が知られてきた。その中でも大覚寺は嵯峨天皇所縁の寺院で、空海が堂を建立したのが起源とされる真言宗大覚寺派総本山。鎌倉時代、亀山法皇や後宇多法皇が入寺した南朝院政の地としても知られた由緒ある寺院である。その大覚寺にある大沢池は日本で最も古い人口の池として知られていて、その歴史は1200年。中国の洞庭湖を参考に嵯峨天皇が築造したものといわれ、当時の面影を今に残す園地は、池の北方にある「名古曽(なこそ)の滝」とともに1923年名勝に指定された国の文化財だ。なんとその文化遺産が異臭漂う変わり果てた姿となり、維持存続の危機に瀕しているという場面から話は始まる。

当初は池の水草除去のために放たれた外来種・ソウギョが大沢池変質の原因かと思われた。寺院から大沢池立て直しを依頼された著者らは「ソウギョバスターズ」を結成、対処に当たるが、調査を重ねるうちに、大沢池の変質は様々な問題の相互作用の結果であったと分かる。

ポップな表紙デザインとタイトルに騙されると本質を見失う。これは、自然文化遺産維持管理についての実践例であり、そのあり方について問う啓発の書でもある。また、外来種問題対処の実例であり、問題提起の書でもある。「ソウギョバスターズ」結成から組織づくり、組織運営の手法や、関わりを深めていく嵯峨御流の華道家たちの発信なども興味深い。今や喧伝されすぎて耳を素通りしてしまうようになった環境問題への注意喚起。その新しい方法論が見て取れる。「生物多様性に満ちた自然環境」とは、そもそも何か、どのような事由に支えられるものなのか、それにどのような関わり方をすればよいのか。答えはおそらく事例ごとにあり、また、その答えに永続性はないかもしれない。しかしながら、私たちもまた「生物多様性に満ちた自然環境」の構成員であり、その枠組みに大きく影響を及ぼしてしまう因子である。だからこそ、人間がいかに自然と関わりあっていくのかを、自らに問い、考え続けなければならないのではないか。大学生、釣りクラブ、華道家たちを強力な味方につけ、いったんは成し遂げられたかに見えた大沢池周辺景観の復興。しかし問題の発生は後を絶たない。未だ続く「ソウギョバスターズ」の挑戦を思いながら、胸に手を当てた。

最後に、文中引用されていたJR東海のキャッチコピーをこちらにも引用したい。

「美しい景色は人がつくり上げるものです。この当たり前のことに、一〇〇〇年たった今、ドキリとするのはどうしてだろう」

本書、ぜひご一読されたし。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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