『ヌードルの文化史』

高村 和久2011年08月19日 印刷向け表示
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ヌードルの文化史
作者:クリストフ ナイハード
出版社:柏書房
発売日:2011-07
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ヌードルと言えばやっぱりラーメンだ。学生時代、研究室で煮詰まった時には皆でラーメンを食べに行った。時には先輩におごってもらった。自分が先輩になった時には、一緒にゲームをやってあげた。リラックスと言う意味では同じだ。それにしてもラーメンは随分とブランドになった。1000円くらいしても全然驚かない。ちょっとした贅沢っていうやつでしょうか。

著者のナイハードさんはスイスの著名なジャーナリストで、8年前から東京に住んでいる。きっとラーメンも好きに違いない。現在は「南ドイツ新聞」の東京支局長で、スイスとドイツのメディアにアジアのニュースを送っている。日本に来る前には、ロシアや東欧を担当していたらしい。本書は、そのような経歴をフルに活かして、世界の「ヌードル」についていろいろ調べてまとめた本だ。

第1章では、イタリア・中国・韓国・タジキスタン・ロシア・ドイツ・ベトナム・日本のヌードル文化について書かれており、中国で麺打ちにチャレンジしたり、韓国で北朝鮮から来て成功した冷麺屋さんにインタビューしたりしながら、その場所ごとの文化と歴史が語られる。

もちろん、本書はそれだけではない。第2章の始まりは「小麦の起源」と「中国の農耕」だ。ヌードルの起源を知るためには、農耕から始めるわけだ。第3章では、ヨーロッパとアジアのヌードル文化についてさらに掘り下げる。農耕の歴史からパスタやそばやフォーまで。こんなに起源が古く、応用分野が広く、世界的な調査分野は他にはないだろう。ヌードルという切り口は奥深い。

ということで、本書には麺がらみのいろいろなネタが書かれている。なんとなく知っていたこともあった。トマトは大航海時代に南米からヨーロッパに伝わり、パスタソースになったのはごく最近(19世紀後半)だ、というのは、聞いたことがあった。麺文化がローマ帝国(イタリアetc.)に伝わったのは12世紀で、イスラム圏だったスペインからシチリアを経由して伝来した、というのも『12世紀ルネサンス』にちょっと似ている。

しかし、全体的には知らなかったことばかりだった。ごくごく一部を紹介すると、こんな感じだ。

  • アジアでヌードル文化が伝わった地域と、箸が伝わった地域は重なり合っている。同様に、パスタが広がった地域とフォークが広がった地域は重なっている。フォークも箸も、スープ麺が素手に熱かったので発明されたという説がある。
  • 最古の箸はイスラエルの遺跡で発掘された。
  • トウガラシは日本から韓国へ伝来した。(アメリカ大陸→ポルトガル→日本、その後、豊臣秀吉の時代に韓国に伝わった)
  • 日本では、明治の頃まで「肉食」が普及していなかった。明治天皇が肉食へ移行した際には、抗議した僧侶が4人銃殺されている。

また、麺とはあまり関係ない観点からも、おもしろいと思ったものがあった。例えば、「麺のコシ」を出すための配合の多くは「窮余の策」として出てきたものらしい。韓国の冷麺にコシがあるのは、日本の占領下にあった時代に小麦粉を節約しようとしてジャガイモ澱粉を配合したのがきっかけだ。ベトナムのフォーに使われる米麺も、ベトナム戦争中に物資が欠乏し、クズウコンを配合した結果生まれたものだった。どちらも、現在はコシがあって美味とされている。困ったなあと思っていろいろやっていたら、状況が変わって利点になることがあるということだろうか。そういえば、本書には書かれていないが、「農耕」の起源自体も、外部要因のせいで仕方なく始められたという説があるみたいだ。中国の麺についても、シルクロードの終点の西安(長安)が拠点と書かれているが、今にして地図を見ると「ずいぶん内陸だなあ」と思う。その頃の人にとっては、太平洋にしても大西洋にしても相当な辺境だっただろうなあと思うと、大航海時代に外洋の向こうに行こうとした人の偉さが更に増すような気がする。今の時代、辺境の分野といったら何になるのだろう。そういうところから新しいものが出てきそうだ。

これ以外にも、レアであることの影響をしみじみと感じる事例が載っていた。中世の富裕層のレシピということだが、「コロンビーネ粉500グラム、シナモン250グラム、砂糖1キロ、サフラン1オンス、クローブ125グラム、コショウ60グラム、アルピニア・ガランガ60グラム、ナツメグ60グラム、ローリエの葉60グラム」どう考えても、砂糖と香辛料の使い過ぎだ。というか、砂糖と香辛料のためのレシピだ。当時はどちらもレアで、手に入りにくいものだった。そういえば学生時代のラーメン屋さんも、深夜まで開店していることや、口コミで噂になっていて行列ができているあたりがレアだった気がする。今は、ネットのおかげで、そんなレア感が徐々になくなってきた。ちょっとしたモノならネットで調べて買えば届けてくれるし、ラーメン屋などの情報もネットで調べればそこそこOKだ。情報が手に入るということは疑似体験のようなもので、ちょっとした満足感があるということだろうか。何かの情報を知りたいと思った時に、過去の経緯まで含めてすぐに調べられるというのは(この文章を書いている時でも)非常に便利だし、幸せなことです。あとは、何をするか、何を調べるかだ。とりあえず、新しいラーメンでも考えてみようか。いやあ、凡庸だなあ自分。。凡庸、ばんざい!

十二世紀ルネサンス (講談社学術文庫)
作者:伊東 俊太郎
出版社:講談社
発売日:2006-09-08
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