『紅茶スパイ』東インド会社の壮大な計画

久保 洋介2012年01月25日 印刷向け表示
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紅茶スパイ: 英国人プラントハンター中国をゆく
作者:サラ ローズ
出版社:原書房
発売日:2011-12-21
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1848年、イギリス東インド会社は、とある男を当時外国人の出入りが禁止されていた中国内陸部へ送り込んだ。会社が彼に与えたミッションは、世界一経済的価値ある植物を中国から盗み出し、枯らしたり腐らせたりせずに元気な状態で別の大陸に無事移植できるよう手配すること。彼が狙った植物こそが、イギリスで大量に消費されていた「茶」である。本書の主人公、ロバート・フォーチュンは現代でいう産業スパイだ。

アヘン戦争直後の19世紀前半、イギリス東インド会社は壮大な計画を企てた。当時、清朝中国の最高機密であった茶の種と苗木を中国から盗み出し、その種や苗をインドに移植することでインドに紅茶産業を興そうとしたのである。当時、イギリスの人びとが愛飲していた紅茶は、ほぼ100%中国からの輸入に頼っており、輸入先の多様化が求められていた。東インド会社は、これを好機としてとらえ、第二の茶の生産地としてインドに目をつける。ただインドでは茶が自生していないため、良質の茶の苗を中国から持ち出す必要があった。ところが当時の中国は、茶の苗そしてその製法を決して外国に明かそうとしていない。茶がどのように、誰の手で栽培され、どんな製法で作られるのか、西洋人には謎のままだったのである。

そこで東インド会社が採った戦略が、中国へスパイを送り込み、中国の国家機密を盗み出すことであった。白羽の矢が立ったのが、当時売れっ子のプラントハンター、ロバート・フォーチュンである。東インド会社は、多額の年棒とスパイ中の全ての経費を負担するという最高の条件を提示し、フォーチュンを口説いている。それもそのはず、この壮大な計画が成功すれば、ロンドンで3ポンドで売れる茶葉が1ペニーで摘めるようになり、会社は莫大な利益を生める可能性があったのだ。

本書はフォーチュンが辿った旅路を時系列的に追っていく。当時の中国は政情不安で、いくら変装しているとは言え外国人が旅するのはかなり危険な場所であった。海賊に教われることもあれば、乗船した船で外国人であることがバレてしまい命からがら逃げることもある。まさに命をかけたスパイ活動である。彼のスパイ活動が最終的に成功したかどうかは本書を読んでからのお楽しみである。成功しているのであれば、中国とインドの歴史は大きく変わっていることになる。

本書の第18章では、紅茶産業が当時の世の中に与えた影響を列挙しており、「へー」と何度もうなづきながら読んだ。1850年代、紅茶を一刻も早く市場に出すための競争が激化していき、結果的に快速帆船の技術革新が数多く起こったそうだ。当時開発された紅茶専門の快速帆船「ティークリッパー」は今でも世界最速の帆船であり続けている。また、ウェッジウッドやロイヤルドルトンなどを輩出しているイギリスの磁器産業は、茶の大衆化なくして発展することはできなかったと解説する。

ちなみにフォーチュンは茶だけでなく、数々の東洋の植物を西洋に紹介している。キク、ラン、ユリなどは全てフォーチュンが紹介した鑑賞植物だ。花好きであれば、彼の名を冠したFortune's Double Yellowというバラを知っているだろう。彼は日本にも2度来日しており、親日家である。日本人の国民性をこう表した人が主人公と知りながら本書を読むと、より親近感を持って本書を読み進められるだろう。

「日本人の国民の著しい特性は、下層階級でも皆生来の花好きであると言うことだ。気晴らしに始終好きな植物を少し育てて無上の楽しみとしている。もしも花を愛する国民性が人間の文化生活の高さを証明するものとすれば、日本の低い層の人々は、イギリスの同じ階級の人たちに較べるとずっと勝って見える」

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フォーチュンによる日本旅行記。日本には酔っ払いが多いと書いているあたりは笑ってしまう。所謂、外国人が見た日本だが、植物に対する記載が多くユニークだ。『幕末日本探訪記』

幕末日本探訪記 (講談社学術文庫)
作者:ロバート・フォーチュン
出版社:講談社
発売日:1997-12-10
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海外の珍しい珍種の植物を日本に持ってくる人がいる。情熱大陸で取り上げられた人が著者、と言えばピンとくる?『プラントハンター』

プラントハンター 命を懸けて花を追う
作者:西畠清順
出版社:徳間書店
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