へんにまじめな『変な協会』たち

2013年6月24日 印刷向け表示
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変な協会 -協会力が世界を救う! ?-

作者:日本キョーカイ協会
出版社:メタモル出版
発売日:2013-04-22
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『私をメンバーにするようなクラブには入りたくない』と言ったのは、グルーチョ・マルクスだ。しかし、そんなへそまがりは多くないだろう。とかく人は群れたがる。どんな会にも一切関係していない人というのはいないのではないだろうか。

いや、私はどんな協会にも関与していないという人もいるかもしれない。しかし、協会は世の中にはびこりまくっている。日本放送協会(NHK)や日本音楽著作権協会(JASRAC)などは、常に、視聴料やカラオケから上納金をせしめようと狙っているし、日本病院協会とか日本ホテル協会とか日本チェーンストア協会とかいうのもあるから、間接的であっても、何らかの形で世話になってしまっているのである。

というような、まともな協会=クラシック協会についての本ではない。世にある変な協会=ニューウェーブ協会をおもしろがる協会である『日本キョーカイ協会』の会長とゼネラル・マネージャーが、おもろい協会の会長にインタビューして、その内容をまとめたものである。よく考えるとかなりバカバカしいのであるが、どの協会も、きわめてまじめで崇高な思想を持っている。ような気がする。

帯には『十人十色。十協会。』とあるのだが、なぜか、くわしく紹介されている協会は、『合コン』、『ロマンチスト』、『鳩レース』『おはじきサッカー』、『キャンディーズ』、『ふんどし』、『モダンガール』、『雨女雨男』、『唐揚』、の九つ(それぞれ、前に『日本』後に『協会』をつけたもの、たとえば『日本合コン協会』など、が正式名称です)。この本自体が日本キョーカイ協会による協会紹介本であるから、それもあわせて十協会ということなのだろう。

さすが、どの協会もいざ運営となると、かなりの努力や犠牲的精神が必要なようだ。たとえば会員数1万7千人を要するというニューウェーブ協会界における一大勢力である日本唐揚協会の会長は、『唐揚げ百日行』というのをやったことがあって、その甲斐あって『舌が、唐揚げの微妙な違いをわかる』ようになったという。この本のインタビューをうけた時は、二回目の百日行中、って体に悪いやろ…

『日本の大正末期から昭和初期の“モダンガール”についての 調査、研究、實踐を目的とした會です。』、という日本モダンガール協會の會長(ここは協会ではなくて協會です、念のため。)浅井カヨさんは上品な女性らしい。協會の目的にあるように、モダンガール生活を『實踐』しておられるのがすごい。携帯はなく黒電話。冬は火鉢と湯たんぽ、夏はエアコンなしで氷冷蔵庫。会の活動のためにやむなくITは利用するが、そのコンピューターは1999年もの。そして、作っているのは公式HPではなくて『公式家項』。なんだか素晴らしすぎるのである。

他にも、日本ふんどし協会の会長は、一身をふんどしに捧げるため、設立時にすべてのパンツを捨てたなど、ふんどしマニアらしい潔い根性である。が、一方で、日本雨女雨男協会の事務局長はとんでもない晴れ男であるとか、日本ロマンス協会の会長が離婚経験者であるとか、ええかげんにしなさいと言いたくなる人もおられたりする。

往年のキャンディーズを愛する日本キャンディーズ協会などは、会員の高齢化と減少が間違いないだろうから、他人ごとながら心配になる。一方で、『日本おはじきサッカー協会』のように、これから発展が期待できる協会もある。『おはじきサッカー』というと、日本の競技のように聞こえるが、英語ではちゃんとSubbuteoという単語があってW杯も開かれる競技なのだ。世界を相手にまだ一勝もしたことがないというのだから、おはじきジャパン、伸びしろだけは十分。2009年チャンピオンリーグ・ファイナルのミラノ対バルセロナの激戦を見たりすると、大興奮まちがいなし! ということにしときます。

日本ラム協会会長が日本テキーラ協会を見つけた時の言葉 “テキーラ協会なんてあるの!?” には感動を禁じ得ない。『おまえが言うな』以外のコメントがありえるだろうか。この例からもわかるように、ニューウェーブ協会は、それぞれが勝手な設立経緯を持っているので、独立性が高かった。

しかし、今や、そのテキーラ協会とラム協会もコラボイベントをしている。この2月に開かれた、両協会合同の三周年記念パーティーでは、ラムや、なんと47種類のテキーラが飲み放題と、聞いただけで酔ってしまいそうである。誰が決めたか揚げ物界の二大勢力である日本揚物協会と日本コロッケ協会では、協力して、『からあげとコロッケが景気をアゲる』をスローガンに、規制緩和・食卓出動・成長戦略の三本の矢からなる『アゲノミクス』を宣言しているという。しかし、揚げ物とコロッケの規制緩和ってなんやねん…

いやはや、はたして日本中にいくつの協会があるのだろう。真剣に探せば、誰でもひとつくらいは入りたくなる協会があるだろう。かくいう私も、会長の

”ほめるところのない人はいない ほめられない自分がいるだけだ”

というお言葉にしびれて、”泣く子もほめる”『日本ほめる達人協会』に興味津々なのである。この会は『一応、2025年にノーベル平和賞をとると決めてる』らしい。がんばってもらいたい。

このような、種々雑多、じゃなくて、多士済々の協会同士が、日本キョーカイ協会を軸に大同団結したら、まちがいなく巨大勢力になり、いずれ政界の第四軸として注目される日がくる、わけないわな。そやけど、そんなことを想像してるだけで、けっこう平和でええ感じがしてくるやおませんか。

<追記>

この原稿を書き終えたころ、日本経済新聞の文化欄に『日本頭脳スポーツ協会』理事長の記事が、病気をきっかけに世の中の役にたちたいと考えたから、という設立の経緯を含めて詳しく掲載。この協会のHPにある『アナログゲーム』関係の協会だけでもすごい。ほんとうに協会が日本を覆い尽くして救ってしまうかも。

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カラアゲニスト1万有余人を要する日本唐揚協会についての本。会長特製唐揚レシピ付き。

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