『社会調査史のリテラシー -方法を読む社会学的想像力-』

2011年6月6日 印刷向け表示
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図書館で借りざるを得なかった本書。今和次郎の考現学を思わせる装丁、600頁超の分厚さ、そして税込6,000円超。サブタイトルにある社会学的想像力という社会学者ミルズの言葉に浪漫を感じ、見つけた本書。社会学的想像力とは一般的に「ミクロな問題とマクロな社会構造との連関を、洞察できる能力」のこと、つまりは世界の大局との関係を意識しながら、目の前の小さな問題に取り組むこと。情報氾濫の2010年代にキュレーションと共に必要とされる能力の一つではないだろうかと個人的に感じている。

また飛んでビジネスの領域では、2008年ごろから人類学的調査手法であるエスノグラフィがマーケティングのフィールドで注目を浴びているが、ブームの様相を呈しているのではないかということと本質を理解している人はどのくらいいるのだろう、という疑問もある。また、エスノグラフィは社会調査の方法のひとつであり、これからより深い消費者インサイトを探求していく日本のメーカーにとって、アカデミックの世界に転がっている他の調査の方法は、検討に値するため、本書に掲載されている内容は非常に有益である。

本書の内容としては、社会調査のかつて他者の役に立った方法を実例に、どうやって情報を収集したか、どうやって情報にアプローチしたかなどを事細かに丁寧に解説している。調査の方法論ではなく、方法論の手前にある領域を深く考察しており、恣意的に調査手法を理論化・組織化していないため、ファクトがたくさん転がっている。理論書ではなく、考現学にみられるようなイラストも多数あり、単純にページをめくって読んでいても楽しい。

実例に取り上げられているのが、「東京市社会局調査」「国勢調査」など、過去日本の実像を描いてきた調査資料である。日本の都市の情報がいかに収集され、編集され、利用されてきたか、その源流を知ることができる。そして、手あかにまみれた先駆者の社会調査の方法を学べる。日常的に人間観察を行っている人間好きや街中でのふとした出来事に注目してしまう注意散漫な方は、新たな視点・視座を得るのにもってこいの本である。社会学者らしく一つ一つの言葉を丁寧に紡いでおり、内容も本当に濃い。600Pもあって気後れするが、章ごとに内容が独立しており、30Pの論文×20個×300円=6000円と思えば、値段もお手頃である。

参考リンク:

ミルズのWikipedia

東京市社会局:1919年から1939年に厚生局に改組されるまでのあいだ、都市社会問題に関するさまざまな調査を行っていた組織。

参考図書:

暴走族のエスノグラフィー―モードの叛乱と文化の呪縛
暴走族のエスノグラフィー―モードの叛乱と文化の呪縛

社会学的想像力
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