HONZ活動記 ー 佐々木俊尚さんに”家めし”の極意を教わってきた!

内藤 順2014年02月11日 印刷向け表示
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佐々木俊尚さんといえば、ITジャーナリストである一方で、料理の腕前も相当なものであることをご存知だろうか?いつも昼ごろになると、夫人の松尾たいこさんのFBページには、色鮮やかな食卓の写真がアップされる。 それらの写真を眺めながら、いつかこんな風に料理の出来る男になりたいものだと、かねがね思っていた。

そんな佐々木さんが、ついに2月27日『家めしこそ、最高のごちそうである。』という料理本を出されることになったという。これはHONZにかこつけて料理を教わる千載一遇のチャンスではないかということで、ご本人に直接頼んでみたところ「OKです。」との回答をいただいた。

とはいっても、不肖私、料理経験など全くなく、厨房というよりもどちらかというと中二病の方がお似合いな感じ。しかも、かつて佐々木さんと一緒にもんじゃ焼きを食べに行った時には、鉄板そっちのけで食べてばかりいたため「当事者性がない」とのお叱りを受けた実績も持っているほどである。こいつは一人では分が悪いと思い、事前に学生メンバー・刀根明日香にも招集をかけておいた。

待ち合わせ場所は、青山のFamer's Market@UNU前。今回は買い物の段階から見学させてもらう予定だ。だが、待てど暮らせど刀根明日香は来ない。待つこと数十分。遅れてきたにもかかわらず妙にヘラヘラしている刀根明日香は、「私、料理は、ほとんどやったことないんです」と、ある意味予想の出来た計算外の回答。暗雲の立ち込める立ち上がり。さて、二人の運命やいかに?
 

都会のど真ん中で、新鮮な野菜を調達

いざ、お買い物!

新鮮な野菜を調達するため、まずはFarmer's Marketへ。都会のど真ん中で地方の新鮮な野菜や果物が売り買いされていること自体驚きなのだが、さらに驚くのはその活況ぶり!普段だったら近くの「もうやんカレー」に行くため、脇目も振らず歩いている道のすぐ隣にこんな世界が。

お店の人と会話をしながら野菜を選ぶことも

そんな中、真剣な表情で野菜をチェックする佐々木さん。一方、刀根はというと試食をするためにフラフラ、試飲をしたためにフラフラ。だいぶ経ってから「りんごとはちみつを買ったんですよ〜」とか言いながら戻ってきた。ん?さてはこいつ、僕のカレー好きを知って、気を引こうとしているのか。ふっ、隅に置けないのぉ〜
 

まずは食材から考えること

食べきれないほどの野菜を買い込んだ後は、そのまま厨房へ。机の上に色彩豊かな食材を並べ、即席の料理教室が始まった。

一口に料理を教わるといっても、教わる領域は千差万別。その中から僕らが教わったのは、みじん切りのやり方でも、秘伝の調理法でもなく、ただひたすら野菜の素材の味を楽しむという考え方の部分であった。

キャベツをウェアラブル・デバイス風に
『美味しんぼ』の栗田さんを意識する刀根

佐々木 今日作るのは、何かのメニューを作ろうという話ではありません。多くの人がやりがちなのが、今日はカレーを作るぞと決めてから買い物に行って、料理を始めるというやり方。今回は、この考え方をひっくり返します。先に料理レシピありきじゃなくて、まず食材ありき。

  食材ありきとはどういうことか、これを実際に調理をしながら説明してもらう。手慣れた包丁さばきとともに、ものの10分で最初の数品が仕上がる。まずは白菜の塩もみ。そしてカボチャとニンジン。これも塩もみしてから蒸す。皆、顔を上向けてホクホクしているではないか。これには、カレーを作って僕の気を引こうとしていた刀根明日香もびっくりだ。

佐々木氏愛用のル・クルーゼ鍋
見よ!この包丁さばき
白菜の塩もみ
かぼちゃとにんじんの塩蒸し

佐々木 旬の野菜を、簡単に調理して食べるのが、一番美味しいんですね。使う食材は少なく安価で、手順もわずかですむ。そのためにはまず食材から考えることと、そして素材の味を楽しめることが重要なんです。

刀根 野菜を味わうこと意識して食べるのというのが、すごく新鮮です。かぼちゃもにんじんも、とにかく甘い。甘すぎる!野菜にこんな楽しみ方があったなんて、ホント驚きました。

 

やり過ぎでもなく、手抜きでもなく。 ”家めし”マスターへのベスト・プラクティスがここにあるのだ。

食材と料理をつなぎ合わせるミッシングリンク ー それが7種類の味付け。

とは言っても、食材を見ただけで調理法までイメージせよというのは、なかなか初心者には難しい。料理の出来る人というのは、無数の引き出しの中からいつの間にかメニューを取り出してきたかのような印象があり、そこが初心者にとって埋められない溝を感じる瞬間でもある。

それらをつなぎ合わせるミッシングリンクこそが、味付けなのだという。おおざっぱに分けると以下の7種類。「甘い」「酸っぱい」「塩味」「醤油味」「味噌味」「クリーム味」「カレー味」。食材とこれらの味付けを決めることによってフィルタリングをかけ、調理法を絞り込んでいくのだ。

食材が違っても味付けが同系統であると、組み合わせとしては良くない。一方で、食材が同じでも味付けを変えることで、別の料理のように組み合わせることが出来る。たとえば、伏見唐辛子をシンプルに調理したもの。片方はニンニク、オリーブ、鷹の爪を効かせてペペロンチーノ風に、もう一方は醤油とみりんできんぴらに。

ペペロンチーノ風
醤油とみりんできんぴらに

ちなみに、このペペロンチーノ。パスタなどにおける塩味のイメージが強いが、塩や醤油、トマト、生クリーム、カレー粉などで味つけをすれば、「塩味」「醤油味」「酸っぱい」「クリーム味」「カレー味」と万能調味料のように変化するという。まさに味付けモジュールとしての役割を果たしているのだ。

そして刀根明日香が買い込んだリンゴは、意外な方向へ。まず、リンゴを剥いて四つに切ってタネの部分をとり、薄くスライスする。いったん塩水につけて変色を防いだ後は、水を切る。ここにマスカルポーネチーズとオリーブ油、酢、ブラックペッパーを加えてリンゴと和えていく。

さらにもう一方の皿では、モッツァレラチーズを粗く刻みこれも和える。双方のお皿に塩をひとつまみ振って、さらにハチミツをたらーりと垂らすと出来上がり!

リンゴ×マスカルポーネチーズ
リンゴ×モッツァレラチーズ

刀根  マスカルポーネチーズはヨーグルトみたいになっていて甘さは控えめ。それでいて蜜たっぷりのリンゴと天然の蜂蜜は相性が良く、言葉にならないです。ついついお酒が進んで酔っ払ってしまいましたが、この特別な甘さだけは当分忘れられないと思います。
 

佐々木 俊尚さんに訊く


刀根 
青山のファーマーズ・マーケットで買い物をしていた時には、どこまでメニューをイメージしていたのですか?

佐々木 全くしていないですね。もうその時は、何の野菜を買うかということしか考えていない。買い物をしている最中でも、メニューありきではないんです。

内藤 でも、こういう風に野菜のそのままの味を楽しむという観点から考えると、どこで野菜を買うかが非常に重要ということになってきますよね?

佐々木 それはそう。だから、私は野菜をだいたい3箇所から買っています。(大地を守る会二本松農園久松農園)。あと今日みたいなファーマーズ・マーケットにはよく行くし、道の駅なんかで買うのも、意外におすすめですね。

刀根 7種類の味付けは、何かプライオリティとかってあるんでしょうか?まずは塩味に出来るかどうかから考えるとか...

佐々木 全くないです。とにかく重ならないということを考えるだけ。

内藤 それにしても、仕事をしながら毎日料理をするって大変ではないですか?

佐々木 いや、全然ですよ。時間かけませんから。毎日30分くらい。それくらいなら働いている人でも、出来そうな気がするでしょう?

刀根 早く作るためのコツを、教えてください。

佐々木 もちろん作業の段取りというか、マルチタスク的な能力は必要なんだけど、味を薄くするってことですよね。慣れていない人って、どうしても足す料理になってしまう。とにかく基本は引く料理なんですよ。

内藤 でも、実際に買い物をする時のことを考えると、どれくらいの分量で買ったらいいのかっていうのが、皆目検討がつかないんですよね...

佐々木 ある程度、多めに買ってしまっても今の冷蔵庫なら、1週間くらいはもつんですよ。そういった意味でも野菜を食べるっていうのは、おすすめですね。
 

一日を振り返って

終了後、二人で反省会


ある意味において衝撃的な体験であった。ひたすら食べてばかりいた我々二人。そんな料理教室が成立したということが、何よりその証拠だろう。そこには”家めし”というものを捉えるうえで、二つの大きな発見があった。

一つは外食のメタファーとしての”家めし”、そこからの脱却がスタート地点になるということだ。よく耳にする「三つ星レストランのシェフも顔負けの」とか、「一流レストランのメニューのような」とか、その種の形容句を求めていくこと自体が、家めしマスターへの道から遠ざかっていく要因になりうる。

外でしか食べられないものは外で、家でしか食べれないものを家で。この組み合わせを追求した結果としての 「レシピではなく食材ありき」。これを実現するためには、「マーケットインからプロダクトアウトへ」といったくらいの大きなマインドセットの転換が求められるのだ。

そしてもう一つは、ありのままの”家めし”を人に振る舞うことが生み出す価値である。他人に料理を振る舞うことになれば、誰しもよそ行きのメニューになってしまいがちなもの。だが、本来プライベートな領域に隠れこんでいる”家めし”を、愚直にパブリックに晒すからこそ面白い。そこには、自分の情報収集を目的にしていたネット記事を毎朝Twitterで紹介していくことにより道を切り開いてきた、佐々木さんならではの視点があるとも言えるだろう。

本棚を見ればその人の知性が分かると言われるように、食卓を見ればその人の感性が分かる。仮に料理を全くやらない人であったとしても、作り手の意図を汲み取れるリテラシーがあってこそ、コミュニケーションは成立する。つまり、”家めし”というのは、その人のライフスタイルや考え方を知る最もダイレクトなコミュニケーション・ツールになりうるということだ。それを理解できたことが、今回一番の収穫であったと思う。

コミュニケーションを生み出す”家めし”の力
(撮影協力:CrownSugarアイコンメンバーの皆様

さて、そんな”家めし”の極意をさらにお伝えするべく、HONZでは『家めしこそが、最高のごちそうである。』の内容をベースにした佐々木俊尚さんの連載が始まります。2月の下旬から、全12回でお送りする予定。家庭料理におけるの食文化の変遷や、料理レシピの詳細までお送りいたしますのでどうぞ、ご期待ください!

簡単、なのに美味い! 家めしこそ、最高のごちそうである。
作者:佐々木 俊尚
出版社:マガジンハウス
発売日:2014-02-27
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