『立ちそばガール!』 このファストで奥深い世界

栗下 直也2014年05月30日 印刷向け表示
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立ちそばガール! そば このファストで奥深い世界
作者:イトウ エルマ
出版社:講談社
発売日:2014-05-21
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立ち食い蕎麦といえば「安い、早い」で駅チカにあり、都市圏で働くサラリーマンの強い味方。ただ、立ち食い蕎麦と一括りにしてしまうには、近年はあまりにも店の雰囲気も提供される蕎麦も違うのが実情だ。「早飯」を嫌う女性からは「立ち食い蕎麦は立ち食い蕎麦じゃないの」という声も聞こえてきそうな中、女性の著者が首都圏の立ち食い蕎麦に潜入取材したのが本書。

日経ビジネスオンラインの連載を書籍にした本だが、連載当初は「仕事中の食事に対する男女差を浮き彫りにする」のが企画の主旨だったとか。それにも関わらず、店の雰囲気や客の観察にとどまらず、麺のそば粉の割合やコスト、ゆで工程の店内の動線など立ち食い蕎麦事業の生産性に踏み込んでいる点が斬新である。媒体の特性上からか、いつのまにか強引にビジネスに引き寄せながら書こうとしている気概がくみ取れるところが涙ぐましい。

潜入している店舗は「立ちそば」と言っても幅広い。出来たての十割蕎麦を280円で食べられる「蕎麦・冷麦嵯峨谷」(渋谷区道玄坂)などの王道路線から、新潟名物へぎそばがたったの350円の「がんぎ」(中央区新川)の変化球まで。ただ、多くの読者にとって最も惹かれるのは、日頃、見かけることが多いチェーン店の記述か。「小諸そば」、「ゆで太郎」、「富士そば」の都内3強の違いを明らかにするなんてこれまで挑んだ人がいただろうか。

味が違うのはわかっていたが、「時間がない、安い」という理由であまり考えもなくふらっと食べることが多いチェーン店の蕎麦をこんなに真面目に考察するとは。社長が作詞した演歌のポスターが貼ってある富士そばと「それ以外」という認識を改めざるをえない。「ゆで太郎」のゆで工程の素晴らしさが日の目を見るなんて。「富士そば」派の私でも感涙してしまう。

「小諸そば」には会社訪問まで敢行。日頃、ぼんやりと思っていたことがデータで示されると小諸そばについてすっきり頭が整理される。その整理が必要かは謎だけど。

客単価は350-400円。人気商品は「二枚もり」290円。一部の店舗で赤字覚悟の限定商品(鴨せいろ、鍋焼きうどん)がある。店舗面積は平均20坪、一店舗当たりの内装や器などを含んだ費用は3000万円。客の滞在時間5-10分。ただ、女性は長い。十数年前は全体に占める割合は1割以下だったが、複数人で来るため滞在時間が3倍以上。そのため、女性が昼に来ると商売としては「終わった」。現在は店のつくりを工夫して改善、比率も3割程度に。特に20代女性はひとりできて男性並みのスピードで量も食べるなどなど。

「20代女性のパワフルさが日本をそして小諸そばを変えているのです」ってまとめたらあまりにも暴論か。小諸そばから日本の企業社会のダイバシティーが透けて見えるとは読み始める時には全く予想外だったが、とにかく立ち食い蕎麦が食べたくなる一冊。読後に走った小諸そば三越前店のBGMはゴンチチだったのが最もびっくりしたけれども。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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出版社:中央公論新社
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