『背信の科学者たち』-編集者の自腹ワンコイン広告  二度の絶版を乗り越えて

版元の編集者の皆様2014年06月20日 印刷向け表示
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背信の科学者たち 論文捏造はなぜ繰り返されるのか?
作者:ウイリアム・ブロード
出版社:講談社
発売日:2014-06-20
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一度は絶版になった本が、再び世に出るチャンスは非常に低いというのは「出版界の常識」です。二度も絶版になった本が復刊される確率は限りなくゼロに近いでしょう。『背信の科学者たち』は、こうしたジンクスを打ち破り、6月20日に緊急復刊されることとなりました。この「奇跡」が実現したのは、ほかならぬHONZの皆様の御支援によるものでした。

プレミアム・レビュー「『背信の科学者たち』の緊急再版を訴える!」の熱いレビューで叱咤激励していただいた仲野徹先生をはじめとして、様々な形で、復刊を働きかけていただいたHONZの皆様、そしてHONZのレビューを読んで応援してくださった方々に、この場を借りて心より御礼申し上げます。皆様のご助力がなければ、『背信の科学者たち』が再び世に出ることはありませんでした。

『背信の科学者たち』の原書が刊行されたのは、いまから31年前の1982年で、その6年後に化学同人社より翻訳の初版が刊行されました。化学同人版は好評を得て、版を重ねるロングセラーとなりましたが、2000年代前半に残念ながら絶版となりました。2005年頃、私がこの本のことを知ったのは、『生物と無生物のあいだ』の著者である福岡伸一さんから紹介によるものでした。当時は、理化学研究所や大阪大学大学院医学系研究科などで、論文捏造事件が相次ぎ、科学者による不正行為への関心が高まった時期でした。

化学同人版を読んで、取り上げている事件こそ古いものの、その内容がまったく色褪せていないことに驚きました。仲野先生がプレミアム・レビューで書かれたように、この本には、捏造をはじめとする、科学者の欺瞞がすべてといっていいほど網羅されていたのです。理工系の根強い固定ファンがいるブルーバックスであれば、長く版を重ねていくロングセラーとなると確信して、原書出版後の捏造事件の資料を加えて、ペーパーバック版として世に出しました。

残念ながら、ブルーバックス版の『背信の科学者たち』は、刊行のタイミングが悪かったのか、定価が1140円と新書としては高かったのが災いしたのかわかりませんが、結局、重版をかけることができずに、2012年時点で事実上の絶版状態になってしまいました。ところが、ここにきての理化学研究所のSTAP細胞騒動です。「あと1年、絶版の決定を辛抱していたら・・・・・・」とほぞをかんだのはいうまでもありません。

STAP細胞騒動については、メディアで大々的に疑惑が報じられる直前に、論文捏造をめぐる噂が流れていましたので、かなり早い段階で復刊の可能性も考えたのですが、私は、何の行動もとれずにおりました。私事で恐縮ですが、『背信の科学者たち』刊行後、私はブルーバックス出版部から異動し、他部署にいたので、ブルーバックス出版部で再刊するのが筋だと考えていたからです。

残念ながら、翻訳権が失効していたなど諸般の事情があり、ブルーバックス版の復刊が見送られたため、遅ればせながら翻訳権の取得に動きました。STAP細胞騒動で、論文捏造問題が注目されているとはいえ、刊行時点では、事態が収束している可能性もあるため、正直不安を覚えましたが、弱気な気分を払拭したのが、仲野徹先生のプレミアム・レビューでした。

残念ながら、この本は絶版になっている。こういった優れた本は、ある種の文化遺産ととらえるべきである。化学同人でも講談社でもいいから、すぐに再版してもらいたい。STAP騒動を考えるにこれほどすぐれた本は他にない。このレビューを読んだ皆さんもそう思ってくださると確信している。

こんなに熱いメッセージをいただいて、意気に感じなければ編集者失格です。仲野先生からいただいたエネルギーをチャージした私は、翻訳代理店を通じて権利を再取得し、販売部門や校閲部門との調整に動きました。その際の強力な説得材料となったのが、HONZのプレミアム・レビューでした。プリントアウトしたレビューを持参したところ、販売担当も『いけると思いますよ!』と二つ返事で復刊を引き受けてくれました。翻訳代理店や校正者、装幀家の皆様も異例ともいえる特急進行に愚痴ひとついわず対応していただきました。

前述したとおり、絶版になった科学書が「敗者復活」する可能性は限りなくゼロに近いことを思えば、内外の応援団が復刊を促してくださった、今回のようなケースは「奇跡」といってよいでしょう。このような僥倖は再び訪れるものではなりませんから、版元としても、覚悟を持って、本書を大事に売り続けていかねばなりません。

STAP細胞騒動によって、再び脚光を浴びた『背信の科学者たち』ですが、いわゆる便乗本ではなく、読み継がれなければならない「文化遺産」です。STAP細胞騒動が収束してからも、末永く売り続けていくように頑張ります。それこそが、復刊を後押ししてくださったHONZの皆様、応援してくださった方々へにできる唯一のご恩返しだと思っております。

最後にこの場を借りて、重ねて御礼を申し上げます。ありがとうございました!  
 

高月 順一 講談社現代新書出版部
雑誌編集部、ブルーバックス出版部などを経て2012年6月より現職。現代新書では『精神医療ダークサイド』『絶望の裁判所』『生命誕生』を担当。最新刊は『生命のからくり』(6月18日)。こちらもお薦めです!
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蟹澤 聰史2014.6.22 09:31

『配信の科学者たち』はずっと以前に読ませて頂きました。ところで,このコメントに高月さんのお名前がありましたので,そちらへのコメントになります。実は,私の古くからの友人の中沢弘基氏に依頼されて,「岩石鉱物科学」への紹介をさせて頂きました。たいへん感動したご本でしたので,それをここに再掲します。 新刊紹介 中沢弘基『生命誕生 地球史から読み解くあたらしい生命像』 講談社現代新書 新書版318ページ 2014年5月刊行 定価920円+税 ISBN978-4-06-288262-0 生命が,いつ,どこで,なぜ生まれたのか,そしてどうやって進化してきたのかという問題は,46億年の地球の歴史を貫く大きなドラマである。この大きなドラマに,鉱物学者が挑戦し,新しい考え方を導き出した。青春時代,生命の起源に関する何冊かの著書に巡り会った著者は,古希を迎える頃にこの大問題に一つの解を出した。このことに私は大きな感銘を覚えた。この壮大なドラマの過程を辿ったのが本書である。 本書の内容は次の8章に分かれている。 第1章 ダイナミックに流動する地球 第2章 なぜ生命が発生したのか,なぜ生物は進化するのか? 第3章 “究極の祖先”とは? ――化石の証拠と遺伝子分析―― 第4章 有機分子の起源 ――従来説と原始地球史概説―― 第5章 有機分子の起源とその自然選択 第6章 アミノ酸からタンパク質へ――分子から高分子への進化―― 第7章 分子進化の最終段階 ――個体,代謝,遺伝の発生―― 第8章 生命は地下で発生して,海洋に出て適応放散した! 第1章では,ヴェーゲナーに始まる大陸移動とその後の大きな発展について概観され,地球のダイナミックな流動の源が核やマントルの「対流」によって地球内部の熱が外に放出されるメカニズムが解説されている。 第2章では,この地球内部からの熱の放出こそが生命の発生や進化に関係することが述べられている。古生物学の説く「生物が巨大化し,より高度に特殊化する」大原則と,熱力学第二法則の「宇宙のエントロピーはつねに極大に向かって増加する」との一見矛盾するトリックは, "宇宙(反応系)”は全地球であり,その創生以来46億年間熱を放出し続けてきた。この中で,シュレーディンガーの「負のエントロピーを食べて生きている」との仮説を紹介し,地球エントロピーの減少による核,マントル,地殻の分化という秩序化についての明快な説明がなされている。しかし生物の進化に関しては,これでは説明がつかない。従来の生物進化についての考えは,「有機分子や生物だけを視野に入れたことによって勝手に落ち込んだ幻想のトリックだ」と著者はいう。生物の進化を考える際には,全地球を宇宙(反応系)としなければならないと説く。ここに,鉱物を研究対象としてきた著者の生い立ちと,生物進化と地球,さらに全地球の流動が結びつき,従来の生命の起源,進化説に一つのエポックを与えたのであろうというのが私の印象である。 第3章において,生命誕生が何時であったかについての論争の紹介があり,生物進化系統樹を遡ることにより, "究極の起源"にたどり着けるためには,遺伝子やゲノムが高分子であることの認識が必要であること,さらに遺伝子は量子力学の支配する分子でなければならないと説く。 第4章,ならびに第5章では,太古代初期における隕石の"後期重爆撃"による有機分子生成の検証を衝突実験,さらに隕石の海洋衝突による大量のアンモニア生成をもとに,「有機分子ビッグ・バン説」を証明するための衝撃実験の結果が述べられている。生命の発生に関して重要な役割を果たすのが,40~38億年前の隕石後期重爆撃であり,この時に局所的な還元大気が生じ,有機分子を生じたことの実証実験である。したがって4章から5章にかけてが,粘土鉱物の研究から始まった著者の生命の起源に関する理論の大きな山場となったのであろうと,その記述から想像される。読んでいてたいへん面白く,かつ興味津々の場面である。 第6章では,「太古の海は生命の母」であるという従来の呪縛を解き放つことの重要さが述べられている。隕石が海洋に衝突して生じた有機分子は,粘土鉱物に吸着され,沈殿して続成作用により地層中に取り込まれ,堆積,圧縮,昇温の過程で濃縮,脱水,高分子化が行われていく。 第7章において,プレートに乗って移動してきた有機物を含む堆積物は,その頃には生じていた島弧の沈み込み帯に付加されるが,ここは熱水作用など,高分子にとっては不都合な状況であり,それを如何にして克服(サバイバル)してきたかが語られる。ここでは著者のいう「小胞融合」が行われ,生命が誕生し,遺伝が行われるという筋書きが紹介される。 第8章において,著者の新しい「地球”軽元素"進化系統樹」つまり「分子と生物の統一進化系統樹」が確立され,紹介されている。これは巻頭にも折り込みの色刷りで収録されており,著者の集大成ともいうべき地球に根を下ろした図である。H,C,N,O,P,Sなどの軽元素が地球発生以来,隕石による重爆撃を経て生命誕生までにいたる,いわば根の部分が詳細に描かれている。生命科学者がどのように評価するのか,たいへん興味のあるところである。高分子が組織化して生命が宿る最後の瞬間に関してはまだ筋書きであるとのことであるが,とにかく示唆に富んでおり,面白い。 こういった壮大なドラマのシナリオが明らかにされた背景には,若き日から抱き続けてきた夢を実現しようと努力してきた著者ならではのことであろう。非常に高度な内容を,平易な文体で表現しており,また著者の該博な知識に裏付けされていて,知的好奇心を揺さぶられる思いがする。著者は「・・・があれば」「・・・かもしれない」という仮説を徹底的に排除する。「学問とはかくあるべし」と特に若い読者に教える。巻末にはそれぞれの章における文献が網羅されているので,更に深く学ぶ学徒のためにもたいへん役立つ。この本がテキストブックとして英訳され,世界にこの新しい考えが浸透し,さらに発展することを願って筆を擱く。蟹澤聰史

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