『泡沫候補 彼らはなぜ立候補するのか』現代のドン・キホーテたち

久保 洋介2014年08月18日 印刷向け表示
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(038)泡沫候補: 彼らはなぜ立候補するのか (ポプラ新書)
作者:藤岡 利充
出版社:ポプラ社
発売日:2014-08-01
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マック赤坂、羽柴誠三秀吉、外山恒一など、いわゆる泡沫候補と呼ばれるような人たちは、300万円もの供託金を支払って、敗北がほぼ確実な選挙に何回も立候補する。当選する見込みがほとんどないにもかかわらず、なぜ彼らは立候補するのか?その派手なパフォーマンスに何の意味があるのか?

本書は、多くの人々が疑問に思いながらも、これまで見過ごしていた現代日本選挙の謎に迫る一冊だ。著者は、都内劇場で7ヶ月間におよぶ異例のロングラン上映を記録した「映画『立候補』」の監督。当時の取材をもとに、現代のドン・キホーテたちの真実を解き明かすつくりになっており、日本の選挙制度や社会について深く考えさせる一冊である。

大阪都構想を争点に大阪府知事と大阪市長のダブル選挙が行われた2011年、選挙戦は都構想を推進する橋下派と反橋下派に二分されていた。そんな大事な首長選挙に、ほとんど注目を浴びなかったが場違いな泡沫候補たちが4名立候補している。スマイル党総裁「マック赤坂」に加え、選挙活動を一切行わない引きこもり候補者、政策を語るのではなく挨拶だけする候補者、7歳の娘を持つ61歳のシングルファザー候補者である。もちろん選挙の結果、全員落選した。

もともと著者は、大きな夢に挑戦する「夢追い人」を取材する企画をたて、マック赤坂に密着取材しはじめる。マック赤坂といえば、奇をてらった政見放送で有名な候補者で、これまでに10もの国政選挙や有名自治体の首長選挙に立候補しながら、毎回得票率は10%に満たず、何百万円もする供託金を没収されている有名候補者である。

本書は密着取材した著者の視点から、大阪府知事選挙に立候補するマック赤坂をとらえており、彼の一挙手一投足が臨場感あふれる文体で描かれている。荒唐無稽な政見放送にはじまり、マラカスをもって踊る街頭演説、大阪府知事選挙の選挙活動を京都で行うなど、彼の選挙活動は奇妙キテレツである。しかも、大学生や警察官などを人を恫喝することが多く、まるで敵味方関係なく蹴散らす『風の谷のナウシカ』の巨神兵のようだ。

ここまで無茶苦茶だと、立候補の目的は当選ではなく、売名行為かと疑ってしまうが、彼が代表をつとめる財団法人スマイルセラピー協会は以前より会員数は増えていないという。ではいったいぜんたい彼はなぜ立候補するのか、著者は取材しながら頭を悩ませる。

本人に直接聞いてみても頓珍漢な回答しかえられない著者は、マック赤坂の息子に話を聞きにいき、やっとのことで彼の輪郭をとらえはじめる。理路整然と父親を分析する息子によると、マック赤坂は限りある人生のうち政治面でなにかやりとげたいという思いがある一方、知名度がないと当選できない現代日本選挙制度をしかり認識しており、その結果、彼は今の選挙戦術に走るようになったという。

息子のインタビューを終えた著者は、いまだに金・組織・知名度で当選が決まる現代の日本選挙に疑問を感じ始める。このままでは「勝てる候補」しか立候補しない世の中になってしまうのではないかと。いみじくも2014年に実施された大阪市長選挙では、主要政党は現職である橋下徹に勝てる見込みがないとの理由で候補者の擁立すら行わなかった。もちろんマック赤坂は立候補し、当然のように落選している。

はなしを府知事選に戻すと、選挙戦最終日、マック赤坂は、大阪難波の街頭で橋下徹(現)大阪市長と対峙する。聴衆のほとんどが橋下派という完全アウェーの中、マック赤坂は一人叫ぶ。聴衆からは「帰れ」コールがわきあがるも、粛々と自分がやるべきことを実行しようとする。本書の中で読者が一番感情移入する場面である。

著者は本書をとおして日本社会と日本の選挙制度に警鐘を鳴らす。そして読者に「このまま現代のドン・キホーテたちを、嘲笑したまま見過ごしていていいのか」と暗に問いかけて最後を締めくくる。

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マック赤坂の政見放送(2011年大阪府知事選挙)

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映画「立候補」 [DVD]
監督:藤岡利充
出版社:日活
発売日:2014-06-03

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