時代に相応しいやり方で、生活と思い出を守る『遺品整理士という仕事』

野坂 美帆2015年03月27日 印刷向け表示
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遺品整理士という仕事 (平凡社新書)
作者:木村 榮治
出版社:平凡社
発売日:2015-03-16
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私はきっと孤独死する。

書店に行って、経済や社会問題の棚へ向かう途中に、ふと目についた本があった。『遺品整理士という仕事』、と題された新書だ。その題名を見て、あ、そうだ、私はきっと孤独死する、そのことについて考えておかなくてはいけないではないか、と思った。

子どもたちが大学に行き、就職し、結婚するとしたら、子どもが生まれるとしたら、ないかもしれないけど、あるとしても何歳だろう、だって日本の人口密度はどんどん減っていくのだし、人口に占める割合が激減するであろう妊娠可能な年齢の女性に、家庭を持つに相応しい伴侶と認められる男になるにはどうすりゃいいってんだ、まあそれは取りあえず置いといて、そんな子どもたちと一緒に住む未来はあるのだろうか。

私は3人兄妹の末っ子だから、母を看取って、順番通りに行けば姉兄を見送って、離婚しているから最後は自分1人になる。過疎化していくかもしれない地方を出て子どもたちが都会で就職してしまえば、私はおばあちゃんの1人暮らしとなる。どうしよう、孤独死するときって、どう身の始末をつけておけばいいのだろう。34歳ながら、そんなことに頭を占領されてついこの新書を買ってしまったのだった。とんだネガティブ思考である。

こんな風に、正直に言えば、うっかり買ってしまった本書であるが、買ってよかった。不謹慎かもしれないが、とても役に立った。

遺品整理士という仕事をご存じだろうか。彼らは民間資格を有したプロフェッショナルである。遺族の気持ちに寄り添いながら遺品整理を管理するコーディネーターだ。

故人の持ちものを、受け継ぐものと受け継がないものとに分け、受け継がないものはリサイクルに出すか、ごみとして処分する。遺品整理を一言で表せば、以上のようになります。作業内容として表すとしたら「分別・清掃・査定・搬出・処分」です。

そもそも廃棄物処理には法規制がある。家庭から出る一般ごみは、自治体から許可を受けている業者が中間処理場まで持っていくことが義務付けられている。ごみを運ぶだけで許可が必要なのである。許可を受けていない業者が処分品を車に積み込むだけで違法となるという。

遺品整理の過程で処分品を査定し、買い取るには古物商の資格が必要である。もし孤独死したとして、その現場が凄惨なものとなってしまったら、特殊清掃による消臭、消毒が必要だ。遺品整理と一言で言っても、その過程には様々な専門業者が関わることになる。すべての過程において正しい知識を持って取りまとめを行うのが、コーディネーターたる遺品整理士というわけだ。

本書は、そんな遺品整理士が、自分たちの仕事について解説し、現場の具体的な事例を紹介した上で、遺品整理についての備えを説くものだ。

戦後、核家族化の流れの中で、一世代ごとに家を構えている人は多い。そうであれば、例えば同居していた伴侶が亡くなればその遺品整理は残された相方が負い、その相方が亡くなれば家1軒分の家財整理、遺品整理を子どもが負うことになる。

葬儀や墓のことで経済的な負担をかけた後に更に遺品整理で負担をかける。残された相方に、その負担に耐えうるだけの経済力や体力があるのだろうか。子どもにそれを負うだけの収入があるのだろうか。遺品整理は数万円ですむ話ではない。生活用品のそろった一軒家をすべて片づけるとしたら、30万円ほどはかかるという。

だからこそ必要なのが遺品整理に関する正しい知識と、生前整理だ。また、エンディングノートに自分の大事な品物や、資産情報、貴金属や骨董品などについて記録し、死後に役立つよう準備しておくのがよい。生前整理に迷ったら、それこそ遺品整理士に相談するのもよい手だ。

しかし、どうも、それだけでは足りないようである。これだけ準備していても、孤独死しては意味がない。孤独死の後に特殊清掃が必要な場面になってしまったら、特殊清掃だけでなく、例えば住んでいるのが賃貸住宅で、大家や隣人に保障が必要な事態にまでなってしまったら。生前整理し、残された人間の負担が少なくて済むよう始末していても、孤独死すれば想定外の大きな負担が生まれる。孤独死せぬよう、地域の福祉サポーターと繋がっておかなければならない。

自分は独り身で子供もいない、死んだとしても迷惑のかかる人はいないだろう、とは思わないでもらいたい。民法上の扶養義務を負うのは直系の三親等だが、家財は資産であるから相続の問題となってくる。もしかしたら思いもかけない親族に遺品整理をお願いすることになるかもしれない。ただ死ぬだけでは済まない世の中とは、ほとほと疲れてくるが、どうやらこれが現実である。

しかし、この本を読めば、具体的にどのように遺品整理をすればよいかがわかる。遺品整理をスムーズに行うために準備しておかなければいけないこともわかる。整理の順番、チェックポイント、よい業者の見分け方まで掲載されている。至れり尽くせりである。

いざ身近な人が亡くなった時、冷静でいられるとは限らない。それならば、準備は怠らない方がよい。もし自分が死んだら、自分の身近な人が亡くなったら、思いもかけない親族の死後の整理に関わることになったら。この本を読んでいてよかったと思う日はきっと来るに違いない。

昔は四十九日の法要の後に、親戚一同で形見分けをしたものだがなあ、などと思わない方がよい。昔は昔、今は今、未来は未来。時代に相応しいやり方で、生活と思い出を守るのだ。

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