個性派が勢揃い 『すごいぞ! 私鉄王国・関西』

足立 真穂2016年07月21日 印刷向け表示
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すごいぞ! 私鉄王国・関西
作者:黒田一樹
出版社:140B
発売日:2016-04-22
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阪急、南海、阪神、近鉄、京阪。この5つの私鉄の存在は、関西を「私鉄王国」と言わしめてきた。歴史から技術、列車デザイン、沿線文化に至るまで、なぜこんなに個性派揃いになったのか。なんで? そのミステリーを解き明かしつつ、個性ぶりをカラーの写真と図版満載で、各電車びっちりとまとめてある。「知らなかった〜」と何度もうめきながら読める、熱のこもった一冊だ。さて、出発進行!

東京に住むわたしは「世界征服」を掲げ、これまでに地下鉄が運行されている世界の約180都市のうち、117の都市を訪ね歩いてきました。

という「はじめに」の巻頭言からこちらをのけぞらせる本書の著者は「鉄道楽者」(「自称」とのこと)、本業は経営コンサルタントという1972年生まれの黒田一樹さんだ。写真を見ると、行動力を感じさせる精悍なお顔である。

「私鉄王国」と呼ばれるようになった由縁はこんなことらしい。

まず、東京の私鉄は、環状に走る山手線の主要駅から放射状に伸びるため、国鉄の影響が強かった。関西では逆で、国鉄(〜JR)との競合関係が多く、独立の気概に満ちていた。自動改札の導入が関西では首都圏よりもだいぶ早かった事を思い出す。この傾向はいまもあるようで、JRの民営化後は特に、快適な付加価値の高いサービスの充実を目指すようになったそうだ。

ターミナル駅が巨大で充実しているのも関西の特徴だとのこと。東京では、乗降客数をそこで受け止めきれないために地下鉄との相互乗り入れが発達したが、関西圏ではそれほど多くない。各私鉄の沿線文化がクローズドなものになる一因なのだという。東京と比較して全体を読み解くとわかりやすい。

5電車それぞれに、キーワードをつけて紹介している構成がまた、ユニークだ。各電車のキーワードをまとめておこう。カギつきの言葉がキーワードとなっている。コメントは私がまとめてみた。

阪急電車 「創業者」の顔が見える鉄道。

創業者、小林一三から端を発する「阪急趣味」の極みが要所要所に見られる。

梅田駅を三線同時発車する阪急電車。この有無を言わさぬ威容。

南海電車 過剰こそ美学、「バロック」の凄み。

繁華街と田園都市。海と山。和歌山港と高野山。この対比に驚かされる。 

なんばと関西国際空港を結ぶ「特急ラピート」。コンセプトは「レトロフューチャー」。

阪神電車 「速い電車」とは何か?

「路面電車」の免許申請から歴史が始まったせいか、スピードにかける思いが今も強い。 

近鉄電車 日本一の鉄道の「エキゾチシズム」。

営業キロは501.1キロと断トツの存在だ。乗れば、いつのまにか遠くに運ばれてしまいそう。 

京阪電車 玄人をも唸らせる、「名匠」のからくり。

技術を日々切磋琢磨し、日本初、関西初、私鉄初の枕詞が多くつく進取の気象がある。 

なるほど、と頷きつつ各電車のそれぞれ40頁には及ぶかという紹介に、ページを繰る手が止まらない。

わかりやすい路線図に始まり、各電車の開始以来の特徴を、項目ごとに写真満載で解説していく。ときどき乗車旅エピソードになるのが鉄道マニアではない私にも楽しい。各末尾には、観光も含めた各電車「10の楽しみ方」、そして「私鉄王国用語集」なる、思わずにやりのニッチ情報も加わっている。

なぜか近鉄電車に乗る機会がここ数年何度もあったので、紹介例としてあげてみよう。

そもそも、この電車は桁違いに長い。本書の中にもあるが、営業キロを見れば、阪急143.6キロ、南海154.8 キロ、阪神48.9キロ、京阪91.1キロに対して、近鉄は501.1キロ!

東京で言えば、小田急線が120.5キロ(小田原線82.5キロ、江ノ島線27.4キロ、多摩線10.6キロ)。もう少し長い西武線でも176.6キロ(旅客営業キロ)。いやいやいや忘れてませんてば、と東武線を見ると463.3キロ(東武本線と東武東上線)(以上、東京については素人によるネット調べです)。はい、東武も負けました〜。って東武も結構すごくて駅数は205駅(旅客駅は203)だそう。ちなみに近鉄は286駅……。

線路を整備して、毎日駅で乗客を迎え、運転手が電車を走らせる。その日常が奇跡にさえ思えて来るこの距離と駅数だ。

と、少し気が緩むと隘路に迷い込むのが電車道のこわいところ。本線に戻ろう。近鉄だ。一度でもたとえば、奈良の橿原神宮などに遠出をしたことがある人はわかるだろうけれど、「どの列車に乗ればいいの?」という以上に、もはや「どこに連れて行かれるの?」と思わせる行き先の多面展開ぶりは圧巻。定期利用率が他の電車に比べて高いこと、見知らぬ地名が多いこと(駅数が多いからかな……)、そのほか華麗な特急の進化やデラックスに贅を尽くすリニューアルなどの詳細が語られる。ユニークなジャンクション、橿原神宮前の台車交換、「優しい」連結の方法論、カオス状態の車番、乗降客1日ひとりの駅……このディテールにわくわくすること間違い無し。書いているとキリがないのであとは読んでください。

関西流なのか近鉄流なのか、いくつか「だからこそ」のコミュニケーション術があるというのも面白い。関東では、「お客様にお願いします」と注意喚起を始めるが、関西では「みなさん」で始めるのだとか。「Attention please」と「Ladies and gentlemen」の違いのようなもの……ってそうなのか(笑)。東の「急行 橿原神宮前ゆき」に対して西の「橿原神宮前ゆき急行」などなど、目からうろこである。

近鉄以外の電車もそうなのか、関西では時刻表もちょっと違う。時間を縦軸にとるのが関東流、横軸にとるのが関西流だ。パソコン画面でつくりやすいのは関東流だからか、最近は彼の地でも旗色が悪いらしいが、旅情があふれてくるのは関西流だ。写真は、今年の5月に、旅気分で私が撮影したもの。

近鉄電車、鳥羽駅ホームの「観光特急しまかぜ」の時刻表。

このままいくらでも紹介できるのだが、そろそろ終わりにしよう。

最後に「城と電車」の2枚をご紹介しておく。天満橋駅を発車し、京橋駅へと向かう京阪電車は、なんとも美しい。

左の赤が「特急出町柳行き」右の緑が「急行樟葉行き」。地下から高架駅へと一気に浮上する。
びゅいーん。

写真を貸してくださった担当編集者さんからの熱い一枚もあげないわけにはいかない。本当に最後に1枚。

「僕の地元の阪神尼崎駅で停車中のジェットカーです。両側の扉を開けて、電車を『通路』として使っています。スピード、効率、スマートさを追究する阪神の真骨頂ではないでしょうか。この美しい塗装と艶めく手入れも見逃せません(うっとり)。」

「中通し」というらしい。阪神電車は、各停が気持ちよさそう。

というわけで、素人でも楽しめる関西の身近な鉄道旅の本。

大迫力!の一冊です。

※写真提供:Masa Asanoさん(阪急と南海)、浜田智則さん(阪神・近鉄・京阪)

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