家にピッチピチの伊勢エビがやって来た! さあどうする? 『その道のプロに聞く 生きものの飼いかた』

塩田 春香2016年08月06日 印刷向け表示
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その道のプロに聞く 生きものの飼いかた
作者:松橋 利光
出版社:大和書房
発売日:2016-07-24
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宅急便で届いた箱の中から、カサコソと音がする。そっと蓋を開けると、おがくずの中から現れたのは……エビの王様、伊勢エビだあー!! 「かっちょいい甲冑姿を毎日飽くことなく眺めたい!」という欲望に抗える人は、多くはあるまい。当然、飼うでしょ!

本書は偶然出会った生きものを楽しく飼う方法を伝授してくれる、ものすごく実用的な本である。昨年紹介した『その道のプロに聞く 生きものの持ちかた』は、フェレットの耳かきからハリネズミの爪切りの方法まで教えてくれる内容に「世の中にこれ以上実用的な本はあるまい」と感動にむせび泣きながらレビューを書いた。しかし、続編の本書は、それを超える実用度なのである。

だって、晩御飯のお味噌汁用に買ってきたアサリに、突然あふれんばかりの愛を感じてしまったら、困るでしょう? スーパーでウズラの卵を見つめながら「これが全部孵化したら……」と妄想すること、誰だってあるでしょう?

なんと、ウズラ専用のふ卵器まである! 10個中1個くらいの割合で有精卵が混じっているそう。
かわいがって育てれば、手のりにもできる!

それに、家に帰って靴を脱いだらヒールにカタツムリがくっついてたとか、流氷ダイビングして陸に上がったらマスクにクリオネが入ってたとか、酔っぱらって道で寝てしまい起きたら鼻からダンゴムシが出てきたとか、生きものとの出会いはラブストーリー以上に突然訪れる。本書でしっかり予習しておけば、いざという時にとっても安心なのだ。

うっかりヒトデを背中にはり付けたまま海から帰ってきてしまっても、もう大丈夫。

で、伊勢エビなんだけど、水槽などの設備の説明のあとに、親切にも観察ポイントまで載っている。

入れてすぐ元気に活動していれば、まあ大丈夫。でも動かずじっとしているようだったら、口の周辺などをよく見て、動いているかを見る。

――ふむふむ。元気ないと心配だよね。

もしも全くどこも動かなくなったら、すぐに取り出し、

――んー、情が移ってきた頃に死んじゃったら辛いし、いい対策があるのかな?  

すぐに火を通して食べることをおすすめする。 

イセエビのみそグラタン

――れ、レシピまでついてる! 実用的すぎるだろう、本書おお~!!!

飼おうと試みた生きものが、すべてうまく飼えるわけではない。もともと食用で流通している魚介類は、飼育に適した状態ではないことも多いので、弱っていると感じたら、死んでしまう前においしく食べるべきだと私は思う。それこそが、命を無駄にしないことにつながるからだ!

そ、そうだよね……。でも本書、すべての生きものについて、こんなふうに懇切丁寧に教えてくれるわけではない。

昨年、自宅にネズミが出て、ベランダ菜園が壊滅状態になった。そのときかなり真剣に「フクロウを飼えばネズミを撃退できるかも」と考えた。家の近所にある猛禽カフェにも、マイ猛禽を腕に乗せた人々が次々に来店していた。フクロウ、飼っちゃう? でも――

猛禽類を飼うのは、それなりに覚悟がいるよ。値段も高いし、鳥カゴで飼えるわけじゃないし。飼い主と心も通じちゃうし、欲しいってだけでは飼えない。だからここでは詳しく書くのはやめておくよ。本気のヤツはお店に顔だして、しっかり相談して覚悟ができたら買うんだな。

やたらと男前な口調も気になるところだが、安易に飼うことを勧めない態度は、生きものを飼うことへの責任を真面目に考えているからこそ。筋が通っていると思うのです。

また、「タコの前でビンの蓋を開ける姿を見せたら、同じようにタコもビンの蓋を開ける」とか「カエルは口から水を飲むのではなく、おなかで水分を吸収する」とか、生きものトリビアもいっぱいで楽しい。

クラゲは触手に毒があるので、逆さまにして持つといい、らしい。(触手が長いタイプはNG)

さらに本書、なんとあの「カマイタチ」と「ツチノコ」の飼いかたまで解説している。著者はいつカマイタチに出会ってもよいように、耐切性の手袋を持ち歩いているそうだ。飼いかたはフェレットを応用。ツチノコの場合はまず毒蛇かどうかを調べ、毒があった場合には地域の役所に問い合わせて指示どおり登録するようにと、じつに具体的。これでもう、いつカマイタチやツチノコに出会っても大丈夫! 本当によかった、この本があって!!

……と、さんざん本書のメリットを説いてきたものの、じつは私はいま、生きものを飼っていない。生きものに関心がないわけではない。むしろ逆である。いろいろ飼って失敗もして、「やっぱり生きものは、自然のなかにいる姿を見るのがいいな」と思うようになったのだ。

でも、とぼけた顔のヨシノボリがモツゴの稚魚を丸呑みしてしまったり、アゲハチョウの幼虫が糸を吐きながら体を固定して蛹に変身したり、飼っていなければ見られなかった生きものたちの生態は、子ども心に焼き付いた。飼うことで培われた生きものへの満ち満ちた関心は、いまも私の中にある。

自分でその生きものを生かすために五感のすべてを使って、全力で飼育するのって、心の成長にも、状況判断する力にも、命の尊さを知ることにもつながると思うんだ。

とっても実用的な本書だけれど、それぞれの飼い方は、じつは一般の飼育書ほどには詳しく紹介していない。でも、それが本書のスタイル。だって、相手は生きものだもの。マニュアル通りになんてなりっこないんだから! 毎日様子を見て、試行錯誤で世話をして。著者の言うように五感をフル活用して、全力で向き合う覚悟がないのなら、初めから飼わないほうがいい。 

生きものを飼うこと自体に賛否もあるだろう。でもいちばん怖いのは――「無関心」、なんじゃないかなあ。いつの間にかカブトムシやメダカが絶滅していたって、寂しくともなんともないなんて、飼ったことがあるならありえないよね。

そういえばあの『星の王子さま』(内藤濯 訳)にも、こんな言葉が出てきたっけ。

めんどうみたあいてには、いつまでも責任があるんだ。

いつか「飼う」ことから卒業する日が来ても、生きものたちと真剣に向き合った経験は、小さな隣人たちへの愛着の灯として一生燃え続けるはずなんだから。

※画像提供:大和書房

その道のプロに聞く生きものの持ちかた
作者:松橋利光
出版社:大和書房
発売日:2015-08-12
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大好評だった前著。 塩田のレビューはこちら

星の王子さま―オリジナル版
作者:サン=テグジュペリ 翻訳:内藤 濯
出版社:岩波書店
発売日:2000-03-10
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本書の言葉はこちらから引用。

飼い喰い――三匹の豚とわたし
作者:内澤 旬子
出版社:岩波書店
発売日:2012-02-23
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「飼って喰う」と言えば、これ。 2012年に読んだ本で、いちばん衝撃的だった。

クマムシを飼うには―博物学から始めるクマムシ研究
作者:鈴木 忠
出版社:地人書館
発売日:2008-07
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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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