『OPTION B 逆境、レジリエンス、そして喜び』

版元の編集者の皆様2017年09月02日 印刷向け表示
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OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び
作者:シェリル・サンドバーグ 翻訳:櫻井 祐子
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2017-07-20
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 私はいま38歳。ちょうど私が産まれたときの、父親の年齢になった。私が物心ついたときには、すでに父は膠原病にかかっていた。膠原病はタチの悪い病気で、いわゆる難病である。父の場合は、手足の血流が悪くなり、すべての指が大きくソーセージのように丸くふくれ、関節はこわばり、すべての爪と指のあいだには潰瘍ができていた。

指先を常に深く怪我している状態だから、何をするにも痛みが走る。そのため、指先を保護する布製の指サックが欠かせず、いつも家には何本もの指サックが干されていた。夕方になると、父が「六一〇ハップ」を洗面器に貯めた湯に溶かして、指を浸けた。「六一〇ハップ」とは、硫黄分を多く含んだ入浴剤の一種である。危ないから絶対に触っちゃいけないと言われていたその入浴剤の容器の周りにこびりついた白い粉、湯に溶かしたときに部屋全体に広がる硫黄の独特の臭いは、数少ない幼少期の記憶のひとつである。

2016年夏、本書『OPTION B――逆境、レジリエンス、そして喜び』の企画書と「はじめに」が届いた。読んですぐ、私はどうしてもこの本の日本語版が作りたくなった。

それは、この本を、治る見込みのない病に苦しんでいた父にも読ませたかったし、ずっと父が死ぬことを恐れていた幼少期の私にも与えたかったし、入退院を繰り返した父がついに亡くなった直後の母や家族に読んでほしかったからである。残念ながらタイムマシンに乗って、過去の自分に渡すことはできない。だが今後、同じような苦難に直面する人たちに、この本を届けたかった。これは一種の使命だと感じた。

「人生は、オプションBの連続」だ。最良の選択肢(オプションA)が叶わないときは、次善の選択肢(オプションB)に向き合っていかなければならない。望んで難病にかかる人なんていない。だが、ときに人生は避けられない試練と苦難を「オプションB」として与える。

本書の著者でフェイスブックCOO、『LEAN IN』著者のシェリル・サンドバーグは、友人の50歳の誕生日を祝うために、メキシコに夫婦ふたりで向かった。

だがその休暇先のホテルで、夫が急に不整脈を起こして亡くなってしまう。幼子2人を抱えた彼女は、いかにして立ち直っていったのか? 本書はその回復の過程を、前作の『LEAN IN』同様に率直に語った、感動の物語である。随所には友人の著名心理学者アダム・グラントから学んだ立ち直る力、「レジリエンス」をどうやって高めていくかについての知識がちりばめられている。

本書を執筆したシェリル・サンドバーグ(左)、アダム・グラント(右)
Author photograph by Matt Albiani

「はじめに」には、こんな文章がある。

こうして残りの人生が始まった。自分で選ぶはずもなく、覚悟もまったくできていなかた人生。いまも覚悟などできていない。想像もできないことが続いた。子どもたちに、パパが死んでしまったのと告げた。2人の泣き叫ぶ声に、自分の慟哭が重なるのを聞いた。

なんでもないできごとが、悲しみの引き金を引いた。学校の作品展で、娘が8カ月前の新学期の日に書いた作文を見せてくれた。「2年生になったよ。これから何が起こるかな」。これを書いたとき、まさか2年生が終わる前にパパがいなくなるだなんて、娘も私も夢にも思っていなかったのだと気づき、頭を鉄球で殴られたような衝撃を受けた。まだ2年生よ。私の手のなかの小さな手と、私が作文を気に入ったかどうか確かめようと見上げてくる愛らしい顔を見下ろした。よろめいて転びそうになり、つまずいたふりをしてごまかした。2人で教室をまわりながら、ずっと下を向いていた。ほかの親たちと目が合った瞬間、泣き崩れてしまいそうだったから。

私はこの「はじめに」を読んだとき、遺された子どもたちの気持ちになって読んだ。そして胸が締め付けられ、鼻がツーンと痛くなった。

「男が泣いていいのは、産まれたときと、親が死んだときと、自分が死ぬときの3回だけだ」とよく父は言った。だから私はこの本で泣いたとは言わない。ただただ、鼻がツーンと痛くなった。この本の説明をするときは、どうしても、ずっと下を向いてしまう。

この原稿を読んでくださっているみなさんもきっと、バラ色ばかりの人生ではないと思う。どこかで人生の挫折や苦難、愛する人の死を経験していると思う。まだもしそこから回復できていないと感じるなら、またもし苦しんでいる誰かが周りにいるなら、ぜひこの本を読んでほしいと思う。「たとえ人生の濁流にのみ込まれても、水底を蹴って水面に顔を出し、もう一度息をつくことはできる」。本書は、そう教えてくれる。

本書の内容の一部はこちらでも読めます。
日経ウーマンオンライン 

金 東洋日本経済新聞出版社 翻訳書編集長
1979年生まれ。大学卒業後、日本経済新聞社出版局(現・日本経済新聞出版社)入社。『LEAN IN』、『昨日までの世界』、『How Google Works』など、おもに翻訳書を担当。
LEAN IN(リーン・イン) 女性、仕事、リーダーへの意欲
作者:シェリル・サンドバーグ 翻訳:村井 章子
出版社:日本経済新聞出版社
発売日:2013-06-26
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