『組長の妻、はじめます。』犯罪社会学者による労作 そして異常な面白さ

成毛 眞2017年10月15日 印刷向け表示
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数多の犯罪に手を染めながら、ヤクザの組長の妻に納まり子供を授かることで、やっと更生した女の半生記である。父は大阪市生野区の在日韓国人二世のヤクザ社会の人である。

関西のアウトローたちにとってはレジェンドであり、いまも憧れの存在だという。現役時代には細身のコートとスリムなパンツ、黒の指なしグローブという出で立ち。闇の世界だけでなく、大阪府警でも知らぬものはいないワルだった。

その犯罪歴とは覚醒剤と自動車窃盗なのだが、その規模が凄まじい。子分の男どもを引き連れて何百台もの高級車を盗み出した。公園で木の実を拾うような感覚だったという。完全なプロである。

覚醒剤をおぼえ、夜の街で群がる男どもを恐喝していた10代。プロの殺し屋と同棲をし、組織的な自動車窃盗に乗り出した20代。以来、アラフィフになった現在まで人生の三分の一ほどを刑務所と拘置所で過ごした。

その間も警察に追われつづけた。警察ヘリも加わったカーチェイスなどは朝飯前、逃亡のはてに恥骨を折るほどの事故も起こしながらも、病院からは強制退院させられたこともある。警察官を乗せたまま逃亡し、車内で威嚇射撃を何発も喰うという稀有な経験もしている。

刑務所では誰もがいやがる独房を好み、大阪拘置所で取り調べを受けているときには、林真須美死刑囚の隣部屋になったこともある。

けっして笑いながら読める話でないのだが、異常に面白い。まるで深海サメの生態やブラックホールの物理学を書いた本を楽しんでいるような気分になるのだ。一般人には想像もつかない異世界と非日常が目の前にひろがる。本人が殺人や強盗などの強力犯ではないことが救いである。ライト・ピカレスク・ノンフィクションとでもいうべきだろうか。プロの犯罪社会学者による労作だ。

※週刊新潮転載
 

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