『男の孤独死』 死とは何か、男とは何か。

吉村 博光2018年01月09日 印刷向け表示
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男の孤独死
作者:長尾 和宏
出版社:ブックマン社
発売日:2017-12-21
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著者はベストセラー『「平穏死」10の条件』などの著書をもつ医師だ。病院で1000人、在宅で1000人以上を看取った経験から、在宅で死ぬ方が「平穏死」できると訴え続けてきた。近年、増加の兆しがでてきた在宅死。実はその約半分を占めるのが、孤独死である。そして本書は、さらにその約7割を占める「男の孤独死」に焦点を絞った本邦初の本である。

それにしても、身につまされるタイトルではないか。思い当たるフシはたくさんある。俗に、夫に先立たれた妻は長生きするが、妻に先立たれた夫は後を追うといわれる。男の一人暮らしは、栄養面や衛生面など生活の質が落ち、酒に溺れるケースもある。一人暮らしのアルコール依存症の男性は、孤独死に至りやすい典型なのだそうだ。

また、見落とされがちだが、菓子パンなどでブドウ糖依存になり、糖尿病そして認知症になって、孤独死というケースも多いという。さらに、タバコ依存にはガンや火事などのリスクがつきまとう。人生に楽しみは必要だが、孤独死を避けるために依存症になるのを絶対に避ける必要があると、著者は警鐘を鳴らしている。

そう、何事も適度に楽しみたい。私も、いつも心がけている。しかし先日、背筋が凍る出来事があった。妻が車窓から競馬場を眺めながら、「パパはこの近くで、一人で趣味の老後を迎えるらしいよ~」と子供たちに囁いたのである。その時、「孤独死」という言葉が私の脳裏をよぎった。そこで現実を知りたいと思い本書を開いた。しかし…

孤独死に関する全国統計はありません。明確な定義がないからです。ただ、いくつかの組織が特定の地域内などの部分的な統計を出しています。  ~本書より

この本に掲載されている様々な数値は、そういった統計から引っ張ってきたもの。その正確な全体像はつかめていない。関心の高まりにあわせて、ようやく地域を絞った調査が行われるようになってきたのが実態なのである。一般的には、孤独死という言葉は、自宅で誰にも看取られずに亡くなることをさしている。その言葉には、もの哀しい響きも含まれている。

人生の最期に無用な警察の介入を受け、解剖台にのってしまうという悲惨さがつきまとっているのだ。ライオンは、老いたら群れから離れ自ら黙って朽ちていくというが、そんな男「らしい」死に様をよしとするなら、この本を開く必要はない。ただ、あなたが孤独死という言葉にもの哀しさを感じるなら、本邦初のこの本をぜひ手に取ってみてほしい。

なぜなら、少なくとも女性と同じレベルまでは、「男の孤独死」は減らせるからである。この性差は、肉体的なものではなく精神的なものなのだ。「心も元を糺せばY染色体によるもの」と言えばそれまでだが、そう簡単に諦めて良いわけはない。心がけ次第じゃないか。著者は、本書の「おわりに」で嘆息まじりにこう書いている。

それにしても男って哀しい動物ですね。寿命は短く、しかも孤独死しやすい。私の外来にやってくる患者さんも在宅の患者さんも、講演会に来られるお客様も7割が女性。でも、孤独死する7割は男性。女性の多くは自宅や施設でみんなに見守られて平穏死できる。一方、男性はこっそりと孤独死……なのか。  ~本書より

男の孤独死は、40代から増え始め70代前半でピークを迎える。それに対し女性は、80代が最も多いという。既婚者であろうと独身であろうと、男なら誰しも、孤独死は身近なものと考えたほうがいい。突然の死で警察の厄介になる事態を防ぐために、大切なのは「かかりつけ医」をもつことだという。そして、身近な人に「自分が死んだらこの医師に連絡を」と伝えておくのだ。

びっくりした発見者が救急車を呼んでしまうと、事件性がないと確定するまで家族は警察に根ほり葉ほり聞かれ、場合によっては監察、解剖医へとまわされてしまう。万が一のときに自宅に来て死亡診断書を書いてくれる「かかりつけ医」がいれば、このような事態は避けられるという。その点、在宅医療を受けていると安心だ。

この「かかりつけ医」の他にも、男の孤独死を防ぐユニークな提案が本書にはたくさん書かれている。そのほんの一部をご紹介する。興味が湧いたものがあれば、実践してみてはいかがだろうか。老後なんてまだ先という方も多いかもしれないが、気持ちをそちらに向けるだけでも良いと思う。

提案の一つに「スナックに出入りする」というのがある。先日、九州を旅行したとき、地方都市のスナックパワーを目の当たりにした。50~80代くらいのオジさまたちが独りでフラリと来て、カウンター越しにママと世間話をして、カラオケを歌って帰っていくのだ。値段も良心的。先ほど依存症の説明で触れたとおり、節度をもって楽しむのが重要だ。

その場に、初めて会う客がいれば「この人はどんな人だろう」と想像しながら、間合いをつめていくことになる。この時、職業とか役職などは全く無意味だ。それを振りかざして偉ぶっても、嫌われるだけだからである。そういう無用の長物を捨てる訓練にもなるのだ。週一くらいで通っていると、しばらく来ないとママが心配してくれるようになる。

生活力をつけるために料理を習い、仲間を作るために趣味の習い事を始めるという提案は一般的だったが、虚を突かれた提案もあった。それは「ヤクルトレディ」である。「愛の訪問活動」をやっており、見守り活動をかねて、定期的にヤクルトを届けてくれるそうなのだ。この活動の対象地域でなくても、配達を頼むだけでも楽しみと安心が得られる。

本書は、孤独死を真正面から考えた本だ。しかし、その対策といえばスナックとかヤクルトレディとか草の根的なものが多い。これから高齢化が深刻化し「多死社会」を迎えるというのに、制度面での孤独死対策はどうなっているのだろうか。著者は、こう書いている。

国は在宅看取りを謳ってきましたが、それだけでは不十分です。残りの半分の孤独死にもちゃんと目を向けないといけません。(中略)重要性が医療界のみならず広く世間に理解されて、各自治体が制度的に取り組む機運が高まることを強く期待しています。  ~本書より

つまりこれから「機運を作っていこう」という段階で、まだ何も始まっていないのだ。年間の死亡者数は約130万人。在宅死はその約13%。その約半数が孤独死という状況。年間死亡者数が、ますます増えていくなか「警察の介入⇒解剖」という国の負担も増大する。貧困と生活保護の問題も関連してくる、かなり複雑な社会問題だ。早急な対策が望まれる。

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