『証言バブル伝説』 聖子と明菜とノーパンしゃぶしゃぶ

吉村 博光2018年04月09日 印刷向け表示
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証言 バブル伝説
作者:
出版社:宝島社
発売日:2018-03-15
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4月といえば入社式。今年も多くの若者たちがその舞台に立った。それに先立つ就職活動。近年も売り手市場とはいわれているが、それを遥かにしのぐ時代があった。その頃企業は、地方の優秀な学生を獲得するために、入社試験で東京に出てくる際の足代や宿泊代を全額負担していた。それはいつの時代か。1986年12月から1991年2月までの経済拡大期。そう、バブルの時代である。

一流企業が採用枠を大幅に増やし、エリートでもない学生が、複数の内定を簡単に手にする「黄金の時代」が数年続いた。いまなお、「バブル入社組」などと揶揄されることがある。しかし本書を読むと、バブルで最も恩恵を受けた主役は彼らではなく、その一つ上の世代だったことがわかる。そこで繰り広げられたのはどんな饗宴だったのか。本書から引用する。

「仮名や借名で株をやっていたので、現金受け渡しが多く、カネが山のように積み上がった。一度、札束の上で女とやると、お互いに燃えるかとマンションのひと部屋を万札で埋め、ベッドを作ってセックスをしたことがある。別に変わり映えはしなかったな(笑)。女にブロック(1000万円)ひとつ渡して終わりですよ」  ~本書より

これは「イトマン事件」について書かれた章からの引用だ。変わり映えなど、するはずがないではないか。でも、なんともバブルらしい発想だ。本書は「イトマン事件」のような事件・事象・エピソードを、本人をはじめとした渦中の人物から聞き取った証言集だ。生々しくてドラマチック。血沸き肉躍る。当時を知る人も知らない人も、スリリングに読める本だ。

そこはさすが、別冊宝島編集部である。最初の章は、ダグラス・グラマン事件や平和相互銀行乗っ取り事件、国際航業株買い占め事件などを手がけた「勝利の請負人」河合弘之弁護士の述懐である。そして、山一證券倒産当時の千葉支店副支店長、投資ジャーナル事件の張本人・中江滋樹氏の証言が続く。

銀座の名物ママが夜の銀座を潤した企業の接待費の話をしたかと思うと、露木茂氏がバブルに沸いたフジテレビアナウンス部の内幕を明かす。興味深かったのは、1980年代に入省した大蔵官僚の「その後」である。片山さつき氏がいたり、森友問題の佐川氏がいたり、日本相撲協会評議員議長の池坊保子氏の娘と結婚し華道会の事務総長になった者もいる。

そこから、海外メディアにスクープをさらわれた皇太子さまのお妃報道や、空前の若貴ブームに沸いた大相撲、人気を分けた松田聖子と中森明菜という二人の不世出のアイドルについて書かれた最終章へと続いていく。硬軟をとりまぜながら、時代全体を浮き彫りにする構成になっているのである。

バブルを経てコンプライアンスやガバナンスが重視されるようになった。当時を懐かしみながら、つまらない時代になったと嘆く方もいらっしゃるかもしれない。しかし逆に若い世代は、本書全体に漂う「人間臭さ」に嫌悪感を覚えるのではなかろうか。

でも、この人間臭さの部分にこそ、最も学ぶべきエッセンスがある。お洒落なビジネス書に飽きたら、こういう本を読んでみると良い。どう正論を振りかざしてみても、別の次元で成否は決まり、人間は常に時代や運命に翻弄されるものなのだ。それは、今も変わらない。

たとえば、本書の次の述懐を、心に留めておくと良い。

「20代で米国に留学したが、そのころのクラスメートがノーベル経済学賞を取った。オレは官僚相手に接待に明け暮れていたかと思うと複雑な気分」 ~本書より

これは、バブルを彩った「ノーパンしゃぶしゃぶ接待」を振り返った銀行の「MOF担」の言葉である。「MOF担」とは、銀行にあって大蔵省の意向をうかがう担当者のこと。当時、日本の金融は、大蔵省が企画しそれを銀行が実行する「大蔵支配」の構造にあった。そこで腐敗が進み、やがて接待汚職が摘発され自殺者や逮捕者が出て、その支配は終わった。

権力や利権に心を奪われてしまうと、自分のやるべきことを見誤る。振り返った時にようやく、それが砂上の楼閣に過ぎなかったこと、自分に与えられた才能を無駄にしてしまったことに気づく。たった一度の人生を後悔しないためには、周囲の栄華をよそに、自らが楽しいと思うことに集中する勇気が必要だ。

バブルの饗宴で「絶頂」を味わった人々は、その後に「転落」の道をたどるケースが少なくない。本書は、その哀れな背中をイヤというほど見せてくれる。ただ、だからといって、いまの若い世代は闇雲に将来を不安視する必要はないと私は思う。

先述したように、この饗宴の礎となった「グレーゾーン」が減っている。つまらない世の中かもしれないが、見方を変えれば、この土俵でルールを守りさえすれば「転落」の心配は少ないともいえる。少子高齢化や人口減少など、将来への不安は募るばかりだ。

「でもまだ、希望はある」本書でひとしきりバブルの余韻を楽しんだあと、私はそう思いなおすことにした。

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