衰退は楽しんだもの勝ち!『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』

アーヤ藍2018年04月30日 印刷向け表示
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CREATIVE LOCAL:エリアリノベーション海外編
作者:馬場 正尊
出版社:学芸出版社
発売日:2017-12-06
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衰退はかなしいことではない…(略)…ポジティブに受け入れ、楽しむべきものなのだ。

消滅自治体、縮退都市、限界集落…。成長を追い求め続ける経済・社会の限界については、日本国内だけでなく、世界で問題視されている。本書『CREATIVE LOCAL エリアリノベーション海外編』は、そうした「限界」や「衰退」に日本より早く直面し、その状況をポジティブに変換して、新たな価値観やライフスタイルを生み出している海外の街々をまとめた一冊だ。

産業が衰退した旧東ドイツやイギリスの都市、経済縮小と震災が重なったイタリアの村、財政破綻後のアメリカ・デトロイトなど、地域も状況も様々だが、その取り組みの共通項を見つめると、未来の社会を紐解く“鍵”が見えてくる。 

「住民が完成させる」スラムの家

南米チリの北部にある砂漠の街イキケでは、100世帯の住民が 5000㎡の土地を約30年にわたって不法に占拠し続けていた。劣悪な生活環境で、スラム化しているこの場所を、公的な資本で改善する「ソーシャルハウジング」の事業に乗り出したのは、建築家アレハンドロ・アラヴェナが率いる「エレメンタル」。

予算は1住戸あたり7500ドルの補助金。平均的な一軒家が80㎡あるのに対し、30~40㎡分にしか満たない金額だ。こうした場合、一般的には1戸あたりの面積を削り、郊外の安い土地に建て直す。だがエレメンタルが考えたのは「半分だけやる」という策。

もともと南米のスラムの住民たちはセルフビルドが得意なため、彼らを単なる“支援対象者”としてではなく、“スキルをもつ作り手”として考え、素人では難しい、建物の骨組みや水道・電気などのインフラ部分を公的予算で建設し、残り半分の増築は住民に委ねることにしたのだ。竣工から8年。無彩色で未完成だったコンクリート住居は、住民それぞれの個性や能力が発揮され、カラフルなファサードをもつ住居に生まれ変わった。

通常のソーシャルハウジングであれば、一般的な不動産や自動車などと同じく、出来上がった瞬間からどんどん価値が下がっていくため、公的資金を投入することは社会的「重荷」として捉えられる。だがこの建物は、人々の手が加えられるほど完成度が上がり、資産価値も向上する。「社会的投資」になりうるのだ。実際、建物を担保に商売を始めたり、子供たちを学校に通わせられるようになった住民もいるという。 

物件を不動産市場から引っこ抜く

チリでの取り組みは、市民の力を引き出すことで、物件の不動産価値を高めたが、価値が高まることで売却や投機の対象となると、せっかく育まれた市民の自主性や相互扶助のコミュニティは喪われてしまう。

人間が生きるために不可欠な「空間」を「不動産」と見なして投機の対象とすることは、人々の生活を疎外し、格差を助長することにつながる。投機によって転売を繰り返すことで所有者と物件の関係が切れてしまっている状態では、所有者はますます物件の不動産価値にしか興味を抱かなくなる。

この点に問題意識をもって生まれた取り組みがドイツ・ライプツィヒの「ハウスプロジェクト」だ。

ライプツィヒは1870年の普仏戦争後、出版・紡績などの産業集積によって人口が増加。一時はベルリンに次ぐ人口を有していた。しかし、ドイツ再統一後、西側諸国との競争に敗北した元国営企業が次々と倒産し、仕事を求めて他都市へ移る人や、良好な住環境を求めて郊外へ出る人が相次いだ。急激な人口減で深刻化したのが空き家問題だ。人口が減少し、住宅の需要が減ると、改修の見込みが立たず物件の老朽化が深刻化する。廃墟が増えると地区のイメージが悪化し、さらに人口が流出する…という悪循環に陥った。

その対策の一つとして生まれた「ハウスプロジェクト」は、「不動産を営利目的/投機目的に用いない」ことを大原則とした取り組みだ。建物が投機の対象となる前に、地元で市民団体を組織して購入し、個人には所有権と処分権を与えず、あくまで全住民たちで共同で維持管理をする。家賃や部屋割りなども、住民たちの話し合いで決定していくため、住む人たちの経済状況や生活スタイルに合わせて「適切な家賃」が設定され、不動産価値がたとえ急激にあがっても、影響を受けることがない。

結果、多くのケースで、住民だけでなく地域に解放された場所となり、難民の子供たちにドイツ語を教えたり、世界各地の料理を集めた投げ銭制のブランチイベントが開催されるなど、様々な市民活動が自発的に起こり、多様なバックグラウンド、経済状況の人が集まれる場となっている。

こうした点から、公益性を重んじる複数の銀行がパートナーとなり、行政も物件の買い取り額を一部補助したり、ノウハウや法的手続きのサポートをするなど、積極的に支えている。今ではライプツィヒに50以上のハウスプロジェクトが存在し、現在も参加を希望する人たちは増え続けている。

ハウスプロジェクトの取り組みから見えてくるのは、不動産市場に埋もれて見えなくなっていた「空間の真価」だ。

とことん衰退し、不動産市場が崩壊したからこそ、空間はそもそも市場で取引されることではなく、人々がそこに暮らしたり活動するために使われることで価値をもつ、という原点に立ち返ることができた。これは、衰退によって露わになった「空間の真価」であり、きれいに設えられた空間を買う・借りるという行為に慣れきってしまっている私たちが忘れがちなことだ。 

参加の”余白”が育む帰属意識

ここまでに挙げたチリとドイツの事例を含め、本書で取り上げられている事例のほぼすべてで共通するのが、住民が関わったりつくりあげたりする“余白と役割”がある点だ。

近代社会は、地縁・血縁などの共同体に個人が帰属し、一つの大きな経済システムのなかで、労働の対価として貨幣を受け取り、私的な所有と消費を繰り返してきた。だが現代においては、地位や資産を手に入れても、将来の価値は保証されない。所有するだけでは幸福感は得られなくなっている。

そんななか人々は、「自分が何かを生み出している」と実感できるストーリー、そしてその物語に参加することから生まれる、共同体への「帰属意識」を求めているのではないかと、本書は説く。 

アーバンガーデン。アルベルゴ・ディフーゾ。アグリツーリズム。ハウスプロジェクト。産業遺産。コミュニティ・アーキテクチャー。創造的縮小。社会構造的アプローチ。5カ国8つの切り口から、「衰退の先」を見つめれば、日本の、そして世界の、変動の兆しと、その向こうに見える“楽しさ”がきっと感じられるはずだ。

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