『甲子園に挑んだ監督たち』まるでスポ根!金足農業はかつて雪で鍛えた

栗下 直也2018年08月21日 印刷向け表示
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甲子園に挑んだ監督たち
作者:八木澤 高明
出版社:辰巳出版
発売日:2018-07-09
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酷暑もお構いなしに開幕し、熱戦が繰り広げられる全国高校野球選手権大会。21日に決勝戦を迎える。今年は100回の記念大会ということもあり、開幕前から例年以上にメディアで特集が組まれ、書店には関連本が所狭しと並んだ。

本書もその一冊と言えるが、異色の存在だろう。著者はそもそもスポーツライターではない。色街や世界の辺境を取材してきた(前作は『ストリップの帝王』、9月刊行予定の次作は『江戸・東京色街入門』。)高校野球とは無縁な作品ばかりを世に出し続けてきた著者が甲子園の監督を切り取ったらどのように描くのか。

取り上げる監督の人選からして一癖も二癖もある。古屋文雄、小池啓之、大井道夫など8人。アラフォーくらいまでの世代からすると、よほどの高校野球好き以外は「だれ、それ?」って感じがぬぐえないだろう。木内幸男(元取手二、元常総学院)も中村順司(元PL学園)も渡辺元智(元横浜)も出てこない(1978年にPLを初優勝に導いた山本泰を取り上げているが、著者の実家の裏、徒歩一分の場所に住んでいた側面が大きいかもしれない。取材もピンポンを押して頼みに行っている)。

タイムリーな人選としては今大会に旋風を巻き起こしている金足農業の元監督の嶋崎久美。20日に初の決勝進出を決めた同校だが、嶋崎は34年前に初出場で準決勝まで勝ち上がった時の指導者だ。桑田真澄、清原和博のKKコンビを擁するPL学園に「疑惑の判定」で逆転負けを喫したが、興味深いのは雪国のハンデについての嶋崎の一言。

今から30年以上前、積雪地帯は半年はまともに練習が出来ないことが不利な点としてあげられていたが、著者の指摘に対し、嶋崎は「その言葉は嘘です」と一蹴。「どんどん降れと思っていましたよ」とふり返る。

降雪期は、ランニングするにしても、雪が積もると入れた足を抜くのに力が必要で鍛錬になったとか。他にも、足を使わないスキー、部員が他の部員を背負って雪の斜面をのぼる練習、搬送車が絶えない雪上合宿など、『巨人の星』も真っ青のスポ根全開の練習内容を示す。もちろん、これらの練習メニューは過去のものだが、現監督はこの教えを受けた一人。今回の甲子園で金足農業に興味を持った人は、形は変われど脈々と流れる金足魂を感じられるので一読をすすめる。

日本文理高校総監督・大井道夫の甲子園出場までの道のりはドラマチックだ。自らも甲子園準優勝投手の大井は大学、社会人で野球を続けたが 三顧の礼で招かれたものの、いざ就任してみたら、招聘してくれた理事長がまさかのトンズラ。他の学校関係者の誰もが野球部の監督が大井にかわることなど知らない状態に。全ての約束が反故にされながらも、石拾いから始め、甲子園出場を果たす。夢に溢れたストーリーだが、大井が生活に不自由しない料亭の二代目経営者だったから可能だった一面もしっかり映す。

著者が高校野球を題材に取り上げた理由は至極シンプルだ。仕事人間で、野球をやるのと観戦するのが唯一の趣味だからと語る。社会的な意味や、金銭的な欲望はない。純粋に好きだから、スポーツ取材とは距離を置いていた著者だから、野球村のルールを忖度せずに、質問している場面も見受けられ、本書に厚みを持たしている。

読み始める前は監督のマイナーさが気になったが、「最近の保護者はすぐに文句を言ってくる!」など老監督たちの炎上必至な文言も散りばめられていて、いつのまにか引き込まれる。スポーツノンフィクションというよりは、高校野球の監督という近そうで遠い職業の素顔がわかる内容になっている。

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ノンフィクションはこれを読め!  2014 - HONZが選んだ100冊
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