『ゼロからトースターを作ってみた』 青銅器時代からの文明をめぐる旅

東 えりか2012年09月26日 印刷向け表示
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ゼロからトースターを作ってみた

ゼロからトースターを作ってみた

  • 作者: トーマス・トウェイツ, 村井理子
  • 出版社: 飛鳥新社
  • 発売日: 2012/9/14

最初に壊したのは、多分おもちゃだ。

人形遊びが嫌いで、虫を捕ったりパズルをしたり、図鑑を見るのが好きな子供だった。動いているものを見ると、どうして動くのかが知りたくて、バネ仕掛けのびっくり箱やオルゴールを分解したことを覚えている。目覚まし時計をバラしたときは、誰もがそうだろうけれど、最後にネジが1本余った。普通に動いたので問題ないのだろうが、それからしばらくはドキドキしたものだ。

そういう経験がある人なら、きっとトーマス・トウェイツの気持ちが少しは理解できるに違いない。“ゼロからトースターを作ってみた”ロンドンの青年が9か月間、悪戦苦闘した成果を、温かい気持ちで見守れるはずだ。

彼はデザイナーである。ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(王立芸術大学)に在学中、卒業記念制作として選んだのが「トースターを作る」というプロジェクトだった。ふたつ穴が開いていて、中にニクロム線があり、がちゃんと取っ手を引き下ろすと食パンが収納される、あれ、だ。

ポップアップトースター MCE-3076 31361

ポップアップトースター MCE-3076 31361
  • 作者: マクロス
  • 出版社:
  • 発売日:

物価の高いロンドンなのに、見本として彼が買ってきたものはびっくりするほど安かった。4ポンド弱(約500円)のこの代物をすべて分解すると、404もの部品で成り立っていることがわかる。なんて精密にできているんだろう。

トーマスはまずルールをつくった。

ルール1 店で売っているようなものを作る。

ルール2 部品はすべて1から作る。

ルール3 自分でできる範囲で行う。

電気でパンを焼くトースターでポップアップ式を作る。1からとはいえ、さすがに、自分が裸で自然の中にぽつんと佇むところから始めたのでは時間かかかりすぎるので、原料を採取してから部品を作る。原料を手に入れるためには、車の移動は可、飛行機は不可、電気ドリルまでは使用してよし。当然パソコンやロボットは使っちゃダメ。

ルールを決めたはいいが、どうしたらいいか皆目わからないので、インペリアル・カレッジ(王立鉱山学校)の教授にアドバイスを求めた。自分の学校の生徒でもないのに、助けてくれたシリアーズ教授はすばらしい。学校の先生はすべからくこうじゃなくてはいけないと感心するほど、親身になって相談に乗ってくれたのだ。まあ、よその生徒だし、何だか突拍子もないことを始めるぞ、と面白がっていたに違いないとは思うけど。

さて原料だ。電気トースターに使われている材料はおおざっぱに5種類ある。鋼鉄、マイカ(断熱材に使われる鉱物)、プラスチック、銅、ニッケル。原材料は鉱物と石油。まずはこれを現地まで採取しに行かなくてはならない。

手始めは鉄鉱石。ロンドンから一番近い鉄鉱山は、223キロほど離れた南ウェールズのイギリス川国境近くにあった。今では観光施設に変わったその鉱山で、嘆願し続けて手に入れた鉄鉱石はスーツケースいっぱいの40キロ。まずはこれから鉄を抽出する。古代から行われてきた伝統的(?)な方法である溶鉱炉は失敗に終わる、が、結果的には鉄鉱石から純粋な鉄を手に入れることができたのだ。ま、母親の台所からいろんなものが無くなったのだが。

続いてマイカ。この鉱山も幸いなことにイギリス国内にあった。ロンドンから出発して24時間。最果てである。ここにかつてマイカの鉱山があったことは調べがついており、グーグルマップに保存したものをiPhoneでみればいいだけだ。

電波があれば……だ。

でもインターネットにつながらないiPhoneでも今回は役に立ったのだ。マイカを探して山に入り、さまよった挙句に天の助けで発見したあと、真っ暗な中を下るはめになったときのための無料懐中電灯アプリ。心強い。

プラスチックとなるともっと厄介になる。石油採掘をしているBP社に連絡してバケツ1杯の原油をもらえないか、と相談するも当然玉砕。じゃ、バイオプラスチックをジャガイモから作るのはどうだろう。数々の失敗を重ね試行錯誤の末、そして最初のルールを少し変更して、トーマスはプラスチックを手に入れる。それを木で作った枠型にはめてケースは完成する。

銅も鉱山が国内にあった。今までの苦労から考えれば楽勝で手に入った。最後のニッケルだけは国内に鉱山はない。はたしてトーマスはどうしたのか。ルールは破られるためにある。

紆余曲折、苦心惨憺、艱難辛苦の末、トースターは出来上がった。かかったコストは1187.54ポンド(約15万円)。しかしこれは交通費やら入場料やら直接払ったお金にすぎない。トーマスはここで考える。モノを製造し商品とするためには、環境問題をはじめ政治的な駆け引きや経済的な摩擦などをひっくるめて考えなくてはいけない。そのためのコストは値札には現れないではないか。彼が訪ねた鉱山や、ネットのつながらない最果ての地でビールを飲みながらこの青年が悩んだことは、バカバカしくも熱いプロジェクトのおまけとしては大きな成果ではないか!

さて、そのトースターはどうなったか!

それはこちらで。(TEDでトーマスが講演したもの)

http://www.youtube.com/watch?v=5ODzO7Lz_pw

(字幕は右下の左端をクリックして英語を出し、翻訳タブで日本語を選んでください。あるいはTED日本語サイトをご覧ください。

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風をつかまえた少年

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  • 作者: ウィリアム・カムクワンバ、ブライアン・ミーラー、池上 彰(解説)、田口 俊樹
  • 出版社: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/11/19

干ばつで死にかけた少年が、一冊の物理の本から風力発電を手に入れた物語。

ミステリマガジン 2011年2月号の私のレビュー

TOKYO 0円ハウス 0円生活 (河出文庫)

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強烈なアジテーターとして人気が高い坂口恭平のデビュー作。

本人伝説

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  • 出版社: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/9/7

南伸坊の顔をカンバスに1から顔を似せていく、そのすばらしさ。

これはもう芸術であるといっても過言ではない。

中身はちょっとこちらで見られます。

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