『インパラの朝』新刊超速レビュー

土屋 敦2013年01月29日 印刷向け表示
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インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸684日 (集英社文庫)
作者:中村 安希
出版社:集英社
発売日:2013-01-18
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中国、ミャンマー、インド、パキスタンからイラン、シリア、イスラエルを抜け、ケニア、ウガンダからザンビア、ジンバブエへと下り、ニジェール、セネガル、西サハラと北上する。26歳の女性による、2年間、47ヶ国、予算180万円の旅。その記録が本書である。

単なるバックパッカーの旅行記ではない。それぞれの地域で彼女が体験した出来事を鋭く切り取り、彼女が関与した小さな世界とでもいうべきものを提示する、新鮮で清冽なノンフィクションだ。

パキスタンで、スンニ派の親友を持つシーア派学生と、生タマネギを齧りながら互いの将来を語る。エチオピアの夜、闇の中で子ども達の輝く両目と白い歯を確かめつつ、その小さな笑い声を拾う。モーリタニアのトロッコ列車で、夜通し、甘すぎるお茶を胃に流し込みつつ、腕相撲をする。

切り取られた現実は、彼女の端整な言葉で構築され、ひとつの世界となる。そこには安易な物語はなく、短絡的な結論もない。その場に確かに存在した、言葉にできないような美しく壊れやすい空気感が立ち現われ、「本当のこと」の断片が煌く。

文体は確固たる調子だが、独断的ではない。冷静な現状把握によって、湧き上がる瑞々しい思いはしっかりと相対化される。そのうえ、状況と言葉への遊び心に溢れている。

心地よい文章に身をゆだねて入り込んだ彼女の小さな世界は、何も主張していないようでいて、すべてを言い尽くしているようでもある。

彼女がこの本で伝えてくれるのは、原理主義に犯され、テロの嵐が吹き荒れる紛争地帯の危険性でも、膨大な地下資源を秘めた未開の大地の貧困さでもなく、いくつかのとても当たり前のことだ。それはすなわち、この世界には、たくさんの悲しみと人の死があり、差別は絶えず、傲慢で利己的な連中が幅を利かせていること。そして、ささやかで美しい暮らしがあり、子ども達は未来そのもので、人々はとても親切だということ。つまり、世界中のどこでも、われわれ人類はとてもよく似ている、ということなのだ。

ーーー

このレビューは、2009年11月12日、『インパラの朝』の単行本が出た際に書いたものだ。実は、このレビューがきっかけとなり、3年以上のときを経て、この文庫版の解説を書かせていただくことになった。なんという縁だろう。書評を書いていて良かった。どう書いていいかわからず、成毛眞や東えりかにアドバイスをもらいつつ、書き上げた。

ということで、このエントリーはステマと言えばステマなわけだが、発売1周間で重版も決まったそうで、読者にも支持されている。ぼくの解説はともかく、本自体は、ぜひ読んでみていただきたい。

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