『キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか』 新刊超速レビュー 

仲野 徹2013年02月18日 印刷向け表示
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キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか (朝日文庫)
作者:北尾トロ
出版社:朝日新聞出版
発売日:2013-02-07
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裁判長!ここは懲役4年でどうすか』など、一連の裁判傍聴本で有名な北尾トロであるが、なんといってもこれまでの最高傑作は『キミは他人に鼻毛が出てますよといえるか』だと思っている。タイトルにあるように、鼻毛が出てますよと注意する、とか、とんでもなくまずい蕎麦屋でまずいと叫ぶ、とか、まるで、みんなが本音を言いまくる恐ろしい町を描いた町田康の傑作小説『本音町』をリアルに再現するようなノンフィクションであった。

言うは易く行うに難し、としか言いようがないのであるが、逡巡しながらも果敢に挑む北尾トロ。しかし、いくつもトライして、ほとんどの場合はトラブルがなく、場合によっては喜ばれる、というすばらしい内容なのである。この本を読んだ時、すぐさま私もこれにならって行動してみた。と言いたいところであるが、そんな勇気はあるはずもない。

その北尾トロが、今度は『キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか』と、問いかけてきた。そんなもんの実力は知らんが、北尾に『キミは…か』と問いかけられると、脊髄反射で予約してしまわざるをえないのである。そして読み終わった今、私は問いかけたい。『キミは北尾トロの真の能力を知っているか』と。

『キミ凄』の内容は北尾トロ的満漢全席である。しかも『キミ鼻』にくらべて格段にパワーアップしている。その自信は作品の並び方にもあらわれている。いきなり、第一章『その話、本当か?』のトップで、タイトルの内容、『ヒマラヤを制した防寒下着は本当に暖かいのか』と勝負を挑んでくる。

ヒマラヤ下着というのは、防寒用の下着であって、その上下だけを着用して腕をくんだ人たちが一列に並んだ広告写真をご覧になったことはないだろうか。長野移住を決めた北尾は、その下着がほんとにそんなに暖かいのかを身をもって調べる。最後は、登山者にいぶかしがられながらも、標高2600メートルの冬山において下着一枚でポーズをとる北尾。まいりました。

ひとつ飛ばして第三章は『解決トロ!』。年齢的にそろそろ人様のお役にたちたいと、自分にできるのかと悩みながらも、人生相談をしようと決意。人生相談サイトをたちあげる。次から次へとやってくる人生相談を怪傑ゾロのように快刀乱麻のようにさばいていくのかと思いきや、だいたいが、あまり相談者がやってこない。

ようやく相談をもちかけてくる人もいるのであるが、どうも相談の筋がよくない。相談者も、ぐずぐずした人や、訳の分からないことを言う人、などなど、つかみどころがない。それでも北尾トロはひるまず解決しようとする。が、その方法は普通ではない。通常の人生相談というのは、はいはいなるほど、あなたはこうしなさいね、と書くだけである。

北尾トロは違う、相談者と直接コンタクトをとりながら解決しようとする。場合によっては面談も辞さない。すばらしすぎる。が、これでは人生相談ではなくて、お節介なおやじではないか。そして、その結果は…。解決云々などは人生にとって大きな問題ではない、とだけ言っておこう。

おまたせの第二章は『ふりしぼれ!その勇気』と題されていることからもわかるように、『キミ鼻』と同じ趣向である。『居酒屋で説教オヤジに意見する』などは、ほとんどその延長上である。その技には『キミ鼻』にくらべて年齢という磨きがかかっているが、結末は言うまい。『路上ライブで、通行人の足を止められるか』、『足の立たない沖のブイまでひとりで泳ぐ』、『バンジージャンプで22メートルの高さから宙を飛ぶ』の三作は、涙なくして読めない、ような気がした。

しかし、北尾トロの真骨頂は、この第二章に納められている『「私の志集」に触発され、ひとり路上で本を売る』と『「地の塩の箱」を作った昭和のドン・キホーテを追う』の二作に尽きる。前者は「志集」と名付けた詩集を路上で売り続ける日疋冬子さんとの心優しき交流の話、後者は「地の塩の箱」という慈善運動をめぐり、その運動に身を捧げた故・江口榛一氏の生き様と、その娘である木綿子さんの話。

楽しく読みながらも、しんみりした。そして、ああそうだったのかと思った。『裁判長!』シリーズでも『キミ鼻』でも『キミ凄』でも、北尾トロの作品に通底しているのは、この二作に顕著にあらわれている、なんともいえない優しさなのだ。それがあるからこそ、一見むちゃくちゃなことをしているように見えるし、ほんとにしているようにも思うのだけれど、北尾トロの作品というのは人に愛されるのだ。

北尾トロの真の能力は、そういうところに隠されていたのだ。そう思って、面白かったエンタメノンフ(エンターテインメント・ノンフィクション)作品をおもいおこしてみると、どれもが優しさに包まれている。ような気がする。「エンタメノンフ優しさの法則」、単なる勘違いみたいな気もするが、はたしてみなさんはどう思われるだろうか。

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